愛国心に火付けたイラン攻撃、「復讐」の旗持ち首都で毎晩集会…「ホルムズ渡さない」政権支持拡大
【テヘラン=吉形祐司】米国とイスラエルによるイランへの攻撃開始から28日で半年を迎えた。
ホルムズ海峡周辺で緊張が続く中、首都テヘランでは日常生活が戻る一方、反米・反イスラエル意識は高まり、政権支持集会が毎晩開かれている。
「ホルムズ海峡は渡さない」――。数百人の群衆が拳を突き上げ、一斉に叫ぶ。怒りと憎悪に満ちたスローガンは続く。「米国に死を」「イスラエルに死を」
テヘラン中心部のエンゲラブ(革命)広場では26日夜も、政権支持集会が開かれた。米国とイスラエルの攻撃で、当時の最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡したことが発表されたのが3月1日。以来、全国で同様の集会が毎晩続き、この日で179日目となった。
「米国やイスラエルが侵略してきたら、命をかけて祖国を守る。命が尽きる最後の瞬間まで戦う」。1979年のイスラム革命当時を知らないウェブデザイナーのニマ・バザルガンさん(22)を集会に駆り立てるのは、祖国愛だ。
米国とイスラエルは攻撃開始当初、イラン国民に体制転換へ向けた蜂起を呼びかけた。だが、思惑とは裏腹に、攻撃はイラン国民の愛国心に火を付け、政権支持の動きが広まった。
「ご覧のとおり。既に皆、旗を持っている。今では1日に売れるのは3、4本だ」。エンゲラブ広場の政権支持集会の脇で、旗売り露天商のダウド・モガンルーさん(44)がつぶやいた。最近売れるのは「復讐(ふくしゅう)」を象徴する赤い旗だという。
2月の革命記念日や反米集会などのたびに旗を売るモガンルーさんは半年間、集会を毎晩見てきた。「外国メディアは政府が金を渡して参加者を集めていると報じているが、ウソだ。皆、自分の時間とカネを使って参加している」と話す。
事実、こうした集会にはつきものの動員用の大型バスはどこにも見えない。
広場周辺では今年1月、反体制派が路上を埋め尽くし、治安部隊と衝突したが、反体制派の姿は消えた。集会参加者の主婦ファテメ・ラルティさん(45)は「敵は国民の分断を狙っているのだろうけど、無理よ。私たちは生きている限り、抵抗を続ける」とまくしたてた。
トランプ米大統領はイランに無条件降伏を求め、国民の命綱であるエネルギー施設への大規模攻撃も予告した。こうした発言はイラン国民の感情を逆なでし、集会会場脇の商業施設の外壁には、崩れ落ちた「自由の女神像」が描かれた。
テヘランでは、以前にはなかった光景も見られるようになった。午後11時、集会が終わると、参加者の一部は道路脇で車に旗を振り「結束」を訴えている。
イスラエル 攻撃再開うかがう
【エルサレム=福島利之】米国とイスラエルによる対イラン攻撃を巡り、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権は、イランの最高指導者を殺害し、核・ミサイル施設に打撃を与えたと戦果を誇る。しかし、国内ではイランの核の脅威などは解消されていないとの見方が強く、ネタニヤフ首相は攻撃再開の機会をうかがっている。
ネタニヤフ氏は25日の演説で、「あの野蛮人(イラン)と合意を結ぶことができるのか疑っている」と述べ、米国とイランの停戦交渉をやゆした。「イランという課題は終わっていない。我々はこの課題を終わらせる必要がある」とも述べ、攻撃再開を示唆した。
イスラエルは2月末に米国と対イラン攻撃を開始し、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめ、政権や軍の幹部を次々と殺害した。弾道ミサイルの発射施設や製造拠点も破壊し、ネタニヤフ氏は「ミサイル産業を破壊し、海軍と空軍を無力化した」と戦果を強調した。
しかし、激しい攻撃にもかかわらず核問題は解決せず、イスラエルが期待したイランの体制崩壊にも至っていない。国民の受け止めも冷ややかだ。
イスラエルの国家安全保障研究所が7月に公表した世論調査で、対イラン攻撃でどちらが勝ったと思うかを尋ねたところ、「イスラエル」との回答は15%にとどまり、「イラン」は37%に上った。「決着していない」は43%だった。同研究所のタミール・ハイマン所長は「イランの体制と核計画に本質的な変化はない」と指摘している。
