「お母さまが、私にくれたんです」…85歳亡き母の口座から消えた800万円。葬儀に現れた見知らぬ女性の〈まさかの告白〉
母の葬儀で、初めて存在を知った「見知らぬ女性」。その後、息子は母の預金が大きく減っていることに気づきます。さらに、その女性が母からお金を受け取っていたことも判明。いったい母の財産に何が起きていたのか……見ていきましょう。
「ずいぶん貯金の減りが早い…」亡き母の通帳残高に息子、違和感
「お母さまには、本当にお世話になりました」
母・晶子さん(仮名・85歳)の葬儀を終えた孝介さん(仮名・56歳)は、自分より少し年上ぐらいに見える女性から声をかけられました。名前を聞くと、「渡部と申します。お母さまとは親しくさせていただいていて……」 とのこと。
晶子さんは夫に先立たれ、地方都市で一人暮らしをしていました。一人息子である孝介さんは都内で家族と暮らしており、実家に帰るのは年に一度あるかないか。長男の受験でバタバタしていたこともあり、母と最後に会ったのは、2年近く前でした。
一方、渡部さんは近所のクリニックで何度か顔を合わせたことがきっかけで、1年ほど前から晶子さんの買い物に付き添ったり、病院へ連れて行ったり、ときには家で一緒にお茶を飲んだりしていたとのこと。母を手助けしてくれた女性の存在に驚きつつ、渡部さんは感謝したといいます。
しかし、葬儀から数日後。母の預金口座を整理していた孝介さんは、さらに驚くことになります。
「1,200万円……あれ、ずいぶん減ってるな」
通帳の残高は約1,200万円。しかし2年前までさかのぼると、残高は2,000万円ほど。母の年金は月14万円ほど(遺族年金込み)。生活費や医療費として貯蓄から補っていた分を考えれば、多少の減少は当然です。
通帳を追っていくと、まとまった金額が時々引き出されていて、数万円単位の出金が何度も続いている時期もありました。普通の取り崩しだけでは説明できない減り方です。
ですが、この2年間、家の大規模な修繕をした様子もなく、高額そうな家電も見当たらず、海外旅行に行ったとも考えられません。
「母さんは、何にこんなに使ったんだ?」
そこで孝介さんは、葬儀で会った渡部さんに話を聞きにいったのです。
「親切な女性」から「疑惑の対象」へ
「急にすみません。実は母の預金について調べているんです。生活費や病院代以上に減っている気がして違和感がありまして……。母が何か大きな買い物をしていたか、ご存じないですか?」
渡部さんの返答は“まさか”のものでした。
「慎ましく生活されていたと思います。ただ……何度か多少のお礼をいただいたことはあります」
「……え? それは初めて知りました」
渡部さんによれば、晶子さんから「これで何か買って」「いつもありがとう」 と、お金を渡されることがあったといいます。断っても「私が渡したいの」 というので受け取るようになったといいます。
「合計すると、いくらですか?」と聞いても、「お礼として都度いただいたもので、正確には覚えていません」との答え。
預金が減った800万円すべてが渡部さんに渡ったと考えているわけではありません。しかし、金銭の授受があったことと、数百万円程度の使途がわからないことが重なり、孝介さんは疑念にかられるようになりました。
「親切はお金が目的だったのではないか……」
「息子には頼れない」…母の本音
孝介さんは、念のため孝介さんは警察や弁護士に相談しましたが、「預金が減っていること」と「渡部さんが不当に財産を受け取ったことは別問題」と説明されました。
近所の人に母について聞いても、女性と仲良くしているのは知っていたけれど、細かいところまでは知らないとのこと。ただ、困っているような様子もなかったといいます。
結局、「母の預金が減っている」ことと、「渡部さんが母の財産を不当に受け取った」ことは別の問題です。その間を埋めるだけの材料は、ほとんど残っていなかったのです。
そんな中、渡部さんから言われたひと言が思い出されました。
「お母さまが寂しいとき、そばにいたのは私ですよ。病院に行くときも、買い物に行くときも、何かあれば私に連絡が来ました。『息子さんには頼れない』と。亡くなった後になってお金のことだけ探ってくるなんて、それこそお母さまが悲しむのではないですか?」
孝介さんには腹立たしい言葉でしたが、反論しきれない部分もありました。
渡部さんは本当に母を気にかけていたのか、それとも母を利用したのか。親切にするうちに自然と金銭のやり取りが生まれたのか。――その答えを見つけることは困難な状況です。
「遠くの身内より近くの他人」にならないために
高齢の親が一人暮らしをしていて、子どもが知らないところで、身近な人との関係が深まっている――。疎遠な家族であれば起こり得ることです。
内閣府の「高齢社会白書」によると、65歳以上の一人暮らしは増加傾向にあります。2020年時点で、65歳以上の女性の22.1%が一人暮らしで、2050年には29.3%に達すると見込まれています。
一人暮らしの高齢者にとって、買い物や通院を手伝ってくれる人、何かあったときに頼れる人は心強い存在です。子どもが遠方に住んでいれば、なおさらでしょう。
親が亡くなったあとになって、そうした「身近な他人」と金銭のやり取りがあったと知れば、子どもが不安になるのも無理はありません。ただし、親が亡くなったあとに、そのお金がどのような経緯でいくら渡ったのかを確認するのは、そう簡単ではありません。
だからこそ、親が元気なうちから、「何か困っていることはない?」「変わったことは?」と、日々の生活について気軽に話せる関係性を持っておく必要があります。たとえ実の子どもであっても、あまりに心の距離が離れてしまえば、年老いた親が「遠くの身内より近くの他人」を頼ってしまっても不思議ではありません。
孝介さんが悔やんだのは、800万円の預金減少が不明瞭なことだけなく、母が誰を頼りにしていたのかすら知らなかったことです。親の財産だけでなく、親の暮らしにも関心を持つことが、「聞いていない」という相続後のトラブルを防ぐ一歩になるのかもしれません。

