ビートたけし「国会議員は無給でいい」に賛否…“年収3000万”は高すぎる? “第三者機関”で決めたら「今より増える」元秘書弁護士が指摘のワケ
漫才師のビートたけしが、16日放送の『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)で、「国会議員は無給でいい」との持論を展開し、物議を醸している。番組内でたけしは「政治家のみなさんは、なんで給料もらってるのかね?」「生活費くらいは面倒みるべきだとは思うけど、国会議員とかに給料出すというのは、変な感じだなと思う」などと発言した。
この発言に対し、SNSでは「年収3000万円が高すぎるし、その他公共面でも優遇されすぎでしょ」「国を良くしたいという大義ありきで、薄給でも構わない気概の人がなるべき」といった賛同の声が多く見られる。その一方で、「その条件で政治家やれんのか? 俺は絶対にやりたくない」「金に困ってなくてかつヒマが有り余ってる人しか国会議員になれなくなる」といった否定的な意見も上がっている。
国会議員を無報酬とすることの是非や、現行制度の問題点について、国会議員秘書を10年間務め、政治資金規正法や公職選挙法など「議員法務」に詳しく、国会議員の「懐事情」まで知り尽くした三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に解説を求めた。(敬称略)
報酬は「成果」ではなく「地位」と「職務」への対価そもそも国会議員の報酬は、なぜ支払われるのか。たけしの素朴ともいえる疑問の核心はここにある。
三葛弁護士は、まず国会議員の報酬が「歳費」と呼ばれ、労働者の役務提供の対価である「給料」とは根本的に性質が異なる点を理解する必要があると指摘する。
三葛弁護士:「歳費制度の原点は、資産のない人でも誰もが政治に参加できるよう、職務に専念するための生活を保障することにあります。
歳費制度は、かつてのイギリスのように、政治家が無給であり、資産家や実業家など一部の富裕層しか政治に参加できなかったことへの反省から生まれたものです。
歳費は、特定の行為ではなく、『全国民の代表』として民意を国の意思決定へと媒介し、民主主義を支えるという職務・地位全体に対して支払われるものだということです。仕事の成果に対する『成果給』ではありません。
成果給にするという考え方は、議員の『成果』を客観的に測る物差しがない以上、とり得ません」
たとえば「法案を何本通したか」「質問に何回立ったか」といった数値的な指標に報酬を連動させると、数合わせのための質の低い法案が乱立するなど、かえって政治の本質が歪められる懸念があるという。
審議拒否も「職務」の一環として重要かつて、野党が「与党側の強引な国会運営」を理由として審議拒否を行った際に、一部メディア等が「審議拒否しているのにボーナスが満額出るのはおかしい」といった批判を行ったことがある。
三葛弁護士は、「審議拒否」も国会議員の重要な「職務」の遂行に含まれると指摘する。
三葛弁護士:「議員の仕事は議場に出席して質問したり議決に加わったりすることだけではありません。議論が行われる前提を整えることも重要です。
多数意見が必ず正しいわけではないし、少数意見が必ず間違っているわけでもありません。どちらも望ましい価値を含んでいる可能性があり、同時に、どちらも見落としている点がある可能性があります。それらを見落とせば、国民の権利利益に取り返しのつかないダメージを与えることになりかねません。
だからこそ、欠陥のある法制度が作られる危険性を抑え、より現実を踏まえ、国民のニーズを可能な限りくみ取った法律となるようにするため、充実した議論を行うことが大前提です。
したがって、たとえば、与党が強引な議会運営を行おうとした場合には、あえて審議拒否をするというのも有効な戦術となり得ます。国会運営の見直しを求める切り札の一つであり、国会議員の職務に含まれます。
実際に、野党の審議拒否の結果、与党が重要法案の採決の強行を差し控えたこともあります」
現与党の自民党も、野党のときに、与党(民主党)の国会運営に反発して審議拒否をしたことがある。
三葛弁護士:「審議拒否が行われる間は、『禁足』といって、政党会派が所属議員に原則として国会内待機するよう義務付けることがほとんどです。その間、各議員は緊張感を持ち、何があっても臨機応変に対応できるようにしています。
『審議を拒否した議員に報酬を払うのはおかしい』などの批判は、制度の趣旨を見誤っているものです」
「もらいすぎ」は早計? データが示す意外な実態現行制度では、国会議員の歳費の報酬額は、議員自身が自分たちで決めることになっている。そのため、「お手盛り」、つまり不当に高額になっているのではないか、という批判が根強い。
日本の国会議員の年収は3000万円を超え、世界で最も高い国のグループに入ると言われることもある。
しかし、三葛弁護士は、この批判は実態を踏まえていない可能性があると指摘する。
国会議員の年収と民間サラリーマンの平均給与の倍率を比較すると、2017年(平成29年)の4.4倍から2024年(令和6年)には4.0倍へと、長期的に減少傾向にある(内閣官房資料、国税庁「民間給与実態統計調査」より)。
三葛弁護士:「物価上昇等を加味して歳費を増額するにも、国会議員が自分たちで決めなければなりません。しかし、増額すれば『お手盛り』と非難され、ネガティブな評価を受けるリスクがあります。
したがって、実態としては、国民からの批判を恐れ、むしろ給与水準が抑制され続けてきたといえます」
加えて、歳費の額面がそのまま議員の懐に入るわけではないことも指摘する。
三葛弁護士:「歳費の中から、私設秘書の給料や事務所の維持経費、広報経費、地元と東京の往復交通費など、膨大な政治活動経費を支出しなければなりません。
真面目に活動する議員ほど経費がかさみ、持ち出しになっていることも珍しくありません。
額面だけで『もらいすぎ』と判断するのは早計です」
「第三者機関」で決めたら「むしろ今より増える」?歳費の適正化を図るため、第三者機関を設置して客観的なデータに基づいて報酬額を決定するべきだ、という意見もある。しかし、この点についても三葛弁護士は興味深い視点を示す。
三葛弁護士:「それは有力な選択肢ですが、もし『客観的なデータ』に基づいて議員歳費の額を決定しようとすれば、おそらく、国民感情とは裏腹に、歳費は今より引き上げられることになるでしょう。
国会議員当人たちが『お手盛り』との批判に気を使いながら自分たちで決めているという現行制度は、結果的に歳費を抑制している側面もあるのです」
たけしが投げかけた「変じゃない?」という問いについて、感情的にあるいは印象のみで同調したり批判したりすることなく、なぜ議員報酬(歳費)の制度が設けられているのか、ここに至るまでの紆余曲折の歴史、それを踏まえた理念、議員活動のあり方や、どのようなお金がどれほどかかるのかという実態等も踏まえ、考えてみる必要があるだろう。

