「その3,000万円、私にもちょうだい」…四十九日法要の直後、76歳義母が放った衝撃のひと言。死亡保険金を受け取り“ほっと一安心”のはずが、妻に突き付けられた「衝撃の要求」【CFPの解説】
親より先に子どもが亡くなった場合、その子どもに配偶者と子(親から見れば孫)がいれば、原則として親は法定相続人にはなりません。しかし、遺産や保険金を巡ってトラブルになるケースもあります。今回は突然死した夫の残した保険金の一部を義母から分けるように要求された48歳の主婦の事例から、相続の制度やトラブル防止についてCFPの松田聡子氏が解説します。
息子の学費がピークを迎えた矢先、52歳夫が帰らぬ人に…
茨城県に住む木村潤子さん(48歳・仮名)は、スーパーでパートタイマーとして働きながら、IT企業で開発部課長を務める夫・修さん(52歳・同)と2人で暮らしていました。
長男(19歳)が東京都内の私立大学の工学部に進学し、学費負担がピークを迎えていた矢先、悲劇が突如として木村家を襲います。修さんが帰宅途中に急性心筋梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのです。
あまりに急な出来事で、潤子さんには悲しむ余裕さえありませんでした。
しかし、慌ただしく葬儀を終えて、さまざまな手続きが一段落し、生前に修さんが加入していた生命保険の死亡保険金3,000万円が振り込まれました。また、自宅の住宅ローン(残債約1,800万円)は団体信用生命保険(団信)によって完済され、遺族年金も月12万円ほど受け取れることに。
少なくとも、長男が大学を卒業するまでの生活については、ひとまず目途が立ちそうです。
「これで息子の大学卒業までの学費も確保でき、家を失うこともない。ありがとう、あなた」
潤子さんは、天国の修さんに手を合わせました。しかし、ほっとしたのもつかの間、四十九日の法要を終えた直後、修さんの母である朋子さん(76歳・同)が突然自宅へ押しかけてきたのです。
「その保険、私にももらう権利があります」義母が放ったひと言
朋子さんは数年前に夫を亡くし、現在は隣の市で一人暮らしをしています。玄関先に立つなり、朋子さんは厳しい表情でこう言い放ちました。
「修が遺したお金、私にも分けてちょうだい。私にももらう権利はあるはずよ」
突然の要求に潤子さんは言葉を失います。
朋子さんの主張の根拠は、修さんが新卒入社時に加入した生命保険にありました。
当時独身だった修さんは受取人を母親である朋子さんに設定していましたが、結婚後、朋子さんに黙って潤子さんへと変更していました。そのことを朋子さんは知っていて、長い間不満を抱えていたようです。
夫を亡くした悲しみも癒えない潤子さんに、義母からの金銭の要求という災難が容赦なく降りかかってきたのです。
親にも相続権はある? 死亡保険金は「遺産」とは限らない
亡くなった修さんの母である朋子さんには、本来、死亡保険金を受け取る権利はありません。このようなトラブルが発生する原因としては、相続の制度についての誤解や、感情のもつれが考えられます。
まず、民法における法定相続人の順位と相続権の整理が必要です。配偶者は常に相続人となり、配偶者以外では、まず子が第1順位の相続人になります。親などの直系尊属は第2順位であり、子やその代襲相続人がいない場合に相続人になります。そのため、亡くなった人に妻と子がいる場合、原則として親に相続権はありません(民法第887条、第889条、第890条)。
この事例のように、被相続人(修さん)に配偶者(潤子さん)と子(長男)がいるケースでは、親である朋子さんには民法上の相続権はありません。仮に遺産分割協議を行うとしても、朋子さんは協議の当事者とならないのです。
そして、死亡保険金については、さらに注意が必要です。たとえば「契約者・被保険者=夫、死亡保険金受取人=妻」という生命保険であれば、夫の死亡によって支払われる保険金は、原則として受取人である妻自身の財産となります(保険法第42条、この事例では「契約者・被保険者=修さん、死亡保険金受取人=潤子さん」でした)。
加えて、保険金受取人の変更についても、保険契約者は保険金の支払事由が発生する前であれば可能です(保険法第43条)。受取人を変更する際、従前の受取人(朋子さん)の承諾や同意は必要ありません。なお、契約者と被保険者が異なる死亡保険契約では、被保険者の同意が必要です。
つまり、朋子さんの「お金を分けてくれ」という要求は、本来は筋の通らないものです。しかし、このような制度について正しく理解していたとしても、感情的に割り切れない場合もあります。
死亡保険金の受取人変更を「子どもに家族ができたのだから当然」と受け止める人もいれば、「自分は切り捨てられた」と感じる人もいるでしょう。親子間で援助目的の金銭のやり取りがあった場合、「自分にも何か残してくれるはずだった」という思いを抱く可能性もあります。
特に一人暮らしで将来の生活に不安を抱えている親の場合、子を失った喪失感と経済的な不安が重なり、死亡保険金をめぐる感情的な対立につながりやすくなるでしょう。
FPの助言:トラブルを防ぐ生前共有と、金銭を要求されたときの初動対応
死亡保険金の受取人変更は、大黒柱として配偶者や子どもを守るために不可欠な手続きです。しかし、従前の受取人に対する事前の説明やフォローを怠ったまま放置すると、被相続人の死後に遺族間でのトラブルを招きかねません。
木村家のようなトラブルを未然に防ぎ、また直面した場合にどう対処すべきか、FPの視点から具体的な対策を解説します。
1. 生前対策:受取人変更の事実と事情を早めに親に伝える
受取人の変更手続き自体は契約者単独で実行できますが、かつて親を受取人にしていた場合は、早めにその事情を伝えておくとよいでしょう。「万一の際、妻と子どもの生活費と教育費を確保する」という目的を説明しておくことで、本人が亡くなってからの親の感情的な行動の抑止につながります。
2. 親の老後基盤の確認とできる範囲の支援
親が完全にリタイアしたら、早めに年金受給額や資産額を把握しましょう。経済的に困窮している場合、自治体の福祉相談窓口や地域包括支援センターにつなぐなどのサポートをし、生活の目途が立つようにしておきます。親自身の生活基盤を確認しておけば、少なくとも「自分が亡くなったあと、親にどの程度の経済的支援が必要なのか」を整理できます。
3. 相続発生時の対応:安易に保険金を渡さない
もし相続発生後に親から金銭を要求された場合、それが正当なものでなければ安易に応じないようにしましょう。「もめたくないから」と保険金の一部を渡した場合、遺産分割ではなく、受取人から相手への贈与となり、贈与税の課税対象になることがあります。 対応としては、感情的な口論を避け、「保険金は子どもの教育費と生活保障のために契約者である夫が指定した固有財産であること」「親族間であっても法律上分ける義務がないこと」を冷静に伝える必要があります。当事者同士での対話がこじれる場合は、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。
今回のケースのように、生命保険の受取人を誰にするかは、万一のときに残された家族の生活を左右する重要な問題です。受取人の変更そのものは正しくても、その背景や理由を家族に伝えていなければ、思わぬわだかまりを残すことがあります。自分が亡くなったあと家族が争わずに済むよう、生前から保険や資産について共有しておくことも、家族を守るための大切な備えといえるでしょう。
松田聡子
CFP®

