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「AIやロボットに仕事を奪われる」--そう不安に思う方は多いのではないでしょうか。しかし経済産業研究所(RIETI)の最新研究は、この常識を覆します。約1,600社の企業データを分析した結果、ロボット投資が10%増えると売上は2.7%、雇用も1%増加することが判明したのです。なぜ機械化が進むほど雇用が増えるのか、その仕組みを公認会計士の岸田康雄氏が解説します。

AI・ロボット時代に「仕事がなくなる」は本当なのか?

「AIやロボットによって人間の仕事が奪われる」--。このテーマは、ここ数年で急速に現実味を帯びてきました。製造業だけでなく、物流、飲食、医療、小売、さらにはホワイトカラー業務にまで自動化の波が広がっています。

ChatGPTをはじめとする生成AIの普及によって、「人間は不要になるのではないか」という不安を抱く人も増えています。実際、世界の産業用ロボットの導入台数はこの10年間で急増しました。企業は人手不足への対応やコスト削減、生産性向上を目的として、積極的に自動化投資を進めています。

しかし、その一方で非常に興味深い研究結果が日本から発表されました。

経済産業研究所(RIETI)の足立大輔氏・川口大司氏(東京大学)・齊藤有希子氏(早稲田大学)による研究では、「ロボットを導入した企業ほど、むしろ雇用を増やしている」という事実が明らかになったのです。

これは、従来の「ロボット=失業」というイメージを大きく覆す結果です。

なぜ機械化が進むほど人間の仕事が増えるのでしょうか。

その背景には、日本企業特有の経営戦略、そして政府による大胆な減税政策がありました。日本発の最新研究をもとに、ロボットと雇用の関係、減税政策の効果、そしてAI時代に求められる働き方について解説していきます。

ロボット導入で雇用が増える?

一般的には、「ロボットが仕事を奪う」と考えられています。

確かに、単純作業や反復作業は機械に置き換えられやすくなっています。工場の組立ラインや物流センターでは、以前より少ない人数で大量の業務を処理できるようになりました。

そのため、多くの人が「ロボット導入=人員削減」というイメージを持っています。
しかし、今回の研究ではまったく異なる結果が示されました。

研究チームは、経済産業研究所(RIETI)と東京商工リサーチ(TSR)が共同で実施した企業向けアンケート調査「産業用ロボット所有調査」により、2009年から2021年にかけて年間約1,600社のロボット導入データ(機種・数量・取得価額など)を収集し、企業の売上・雇用データと接続して分析しています。

その結果、ロボット投資額が10%増加すると、売上は約2.7%増加し、さらに雇用も約1.0%増加することが確認されました。

つまり、ロボットを積極的に導入している企業ほど、結果的に人を増やしていたのです。
これは非常に重要なポイントです。

ロボット導入によって生産性が向上すると、企業はより安く、より高品質な製品を大量に供給できるようになります。その結果、競争力が高まり、市場シェアを拡大しやすくなります。

企業が成長すれば、新たな人材が必要になります。たとえば、営業、企画、品質管理、メンテナンス、物流管理など、人間にしか担えない仕事が増えていきます。

つまり、ロボットによって一部の仕事は減るものの、それ以上に企業成長による新たな仕事が生まれていたのです。

経済学では、機械によって人間の仕事が減ることを「代替効果」と呼びます。一方で、生産性向上による企業成長が雇用を増やす現象は「規模効果」と呼ばれます。今回の研究では、この規模効果が代替効果を上回ったことがデータで示されました。これは、日本の雇用とテクノロジーの未来を考える上で非常に重要な発見です。

なぜロボット導入企業は成長できたのか?

ロボット導入による最大のメリットは、生産性の向上です。

たとえば、これまで人間が行っていた単純作業をロボットに任せることで、24時間稼働が可能になります。ミスも減少し、品質が安定します。

さらに、作業速度も向上するため、同じ時間でより多くの商品を生産できるようになります。

この変化は、企業の利益構造を大きく改善します。生産コストが下がれば、価格競争力が高まります。また、高品質化によって顧客満足度も向上します。それによって企業の売上が伸び、市場シェアが拡大していくのです。

ここで重要なのは、雇用増加には「1〜3年程度のタイムラグ」が存在することです。

RIETIの研究でも、ロボット導入直後には総労働者数が減少せず、導入から1〜3年後になって労働者数・売上高が有意に増加するという結果が示されています。

ロボットを導入した直後に人が増えるわけではありません。

まずは生産性向上によって企業業績が改善し、その後に事業拡大が起こります。そして最後に、新たな人材需要が生まれるのです。

つまり、短期的には業務効率化が進みますが、中長期的には企業成長によって雇用が増えていく構造になっています。この視点は、AI時代の働き方を考える上でも非常に重要です。

日本政府の減税政策がロボット投資を後押しした

ロボット投資を後押ししたもう一つの要因として、政府による税制優遇政策の存在も見逃せません。

2014年、日本政府は産業競争力強化法の施行にあわせて「生産性向上設備投資促進税制」を導入しました。これは、企業が生産性向上につながる設備投資を行った場合、税制面で優遇を受けられる制度です。

特に大きなインパクトを与えたのが、「即時償却」という仕組みでした。

通常、ロボットなどの大型設備は、数年から10年以上かけて少しずつ経費計上します。しかし、この制度では、即時償却または税額控除(機械装置は5%、建物・構築物は3%)のいずれかを選択でき、即時償却を選べば購入した年に取得価額全額を経費として処理できました(この措置は2014年1月20日から2016年3月末までの時限措置で、その後は特別償却50%・税額控除4%に縮小されています)。

これは企業にとって非常に大きなメリットでした。なぜなら、税負担を大幅に減らせるだけでなく、手元資金を確保しやすくなるからです。

企業経営において、キャッシュフローは極めて重要です。たとえ利益が出ていても、手元資金が不足すれば新規投資は難しくなります。しかし、即時償却によって税負担が軽減されれば、その分を次の設備投資や採用、人材育成に回せます。

つまり、この政策は単なる「減税」ではなく、日本企業の設備投資を加速させる強力なエンジンとして機能していたのです。

なお、生産性向上設備投資促進税制はその後、中小企業経営強化税制などに移行し、2026年度税制改正でも「特定生産性向上設備等投資促進税制」として、より大規模な投資を対象とした即時償却・税額控除の枠組みが新設されるなど、設備投資減税の考え方は現在も引き継がれています。

ロボットは人間の仕事をどう変えたのか?

今回の研究で興味深いのは、ロボットによって置き換えられたのが主に単純作業や重労働だったという点です。

たとえば、重量物の運搬、単純組立、長時間の繰り返し作業などは、ロボットの方が効率的です。

一方で、人間はより高度な業務へ移行していくと考えられます。具体的には、ロボット管理、品質チェック、生産計画、顧客対応、物流最適化などです。

つまり、人間の役割そのものがアップデートされていく可能性があるのです。これは非常に重要なポイントです。AIやロボットによって完全に仕事が消えるのではなく、「人間がやるべき仕事」が変化しているのです。単純作業は減りますが、その代わりに、判断力、創造性、コミュニケーション能力を必要とする仕事の価値が高まります。

つまり、これからの時代に重要なのは、「機械に勝つこと」ではありません。むしろ、機械を活用しながら、自分にしかできない価値を発揮することが求められるのです。

日本発の研究が世界の常識を書き換えた理由

これまで海外では、「ロボットは雇用を減らす」という研究結果も数多く報告されてきました。特に有名なのが、MITのダロン・アセモグル教授らによる研究です。この研究では、ロボット普及によって地域雇用が減少した可能性が指摘されました。

しかし、今回の日本研究には大きな違いがあります。それは、企業単位で非常に詳細なデータを分析している点です。

研究では、独自のアンケート調査によって、各企業が「何台ロボットを導入したのか」「いくらの価値で取得したのか」まで細かく追跡し、東京商工リサーチが保有する各企業の売上・雇用データと接続して分析しています。

さらに重要なのが、「因果関係」を分析している点です。単に「儲かっている企業がロボットを導入した」のか、それとも「ロボット導入によって儲かるようになった」のかを区別する必要があります。

研究者たちは、この問題を解決するために、生産性向上設備投資促進税制(TC-PPEI)の対象範囲や特別償却率が企業規模・時期によって制度改正のたびに変化してきたことに着目しました。この税制上の変動は個々の企業の業績とは無関係に生じるため、「税制優遇によって外生的にロボット導入が後押しされた企業」の変化を自然実験のように分析することで、ロボット導入と業績の因果関係を識別したのです。

その結果、「ロボット導入が売上と雇用を直接押し上げた」という因果関係が強く示されました。また、ロボット導入後も生産現場の労働者数が減少したという証拠は見られず、Acemoglu, Lelarge and Restrepo (2020)によるフランスの分析などとは対照的な結果となりました。企業へのヒアリングでは、ロボット導入を検討する企業の多くが、ロボットに任せる業務から人にしかできない業務へと労働者を再配置する計画を立てていたことも分かっています。

これは、世界的にも非常に価値の高い研究成果だと言えます。

AI・ロボット時代に私たちはどう働くべきか?

今回の研究が私たちに教えてくれるのは、「テクノロジー=脅威」という単純な構図ではないということです。もちろん、一部の仕事は自動化されていくでしょう。

しかし、それ以上に重要なのは、人間の役割が高度化していく点です。これからの時代に求められるのは、単純作業のスキルだけではありません。
 

●    問題解決能力
●    コミュニケーション能力
●    マネジメント能力
●    創造力
●    データ活用能力

など、「人間らしい能力」の価値がさらに高まっていきます。

つまり、AIやロボットと競争するのではなく、それらを活用できる人材が強くなる時代へ移行しているのです。企業にとっても、単なるコスト削減だけでなく、人材育成や再配置がますます重要になります。

テクノロジーを導入するだけでは、真の成長にはつながりません。人間と機械が協力できる組織をつくることこそが、これからの競争力になるのです。

ロボットは「仕事を奪う存在」ではなく「企業成長のパートナー」

今回の日本発の研究は、「ロボット=失業」という固定観念を大きく覆しました。ロボット導入によって企業の生産性は向上し、その結果として売上が増え、最終的には雇用拡大にもつながっていたのです。

さらに、政府による減税政策が企業投資を後押しし、日本経済の活性化にも貢献していました。

もちろん、すべての仕事がそのまま残るわけではありません。

しかし、人間の役割は消えるのではなく、より高度な方向へ進化していきます。これから重要なのは、「AIやロボットに仕事を奪われない方法」を考えることではありません。
むしろ、「AIやロボットをどう活用するか」を考えることです。

テクノロジーを恐れるのではなく、共に働くパートナーとして活用する。それこそが、AI時代を生き抜くための最も重要な視点なのかもしれません。

出典:足立大輔(オーフス大学/RIETI)・川口大司(東京大学/RIETI)・齊藤有希子(早稲田大学/RIETI)「Robots on Sale: The effect of tax policy on robot adoption and employment」RIETI Discussion Paper Series 24-E-047(2024年4月)

岸田 康雄

公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)