熱中症の患者を治療する医師と看護師。夏場は救急搬送者が集中する(名古屋市天白区の名古屋記念病院で)=尾賀聡撮影

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[ニッポンクライシス]第3部「気候変動」<2>

 「救急隊稼働率が80%を超えました」――。

 名古屋市が連日の猛暑に見舞われた7月23日の正午すぎ、市消防局に一斉放送が鳴り響いた。稼働率を注視していた救急課の男性担当者は防災指令センターに向かい、予備で待機していた救急車3台が出動準備に入ったことを確認。午後0時11分に「救急隊ひっ迫アラート」を公式SNSで発令した。

 稼働率80%以上で発令されるアラートは、市民に逼迫(ひっぱく)状況を知らせるため、2024年に導入された。稼働率が高まると現場近くに救急車がおらず、到着が大幅に遅れる恐れがある。夏の発令(6〜9月)は25年度が8回、26年度は5回を数える。

 この日の最高気温は、40度以上の「酷暑日」に迫る39・9度を記録し、救急車54台の稼働率は一時84・6%に達した。名古屋記念病院では、夕方からほぼ1時間おきに4人の熱中症患者が運び込まれ、中等症の高齢者ら2人が入院した。救急内科部長を務める椎野憲二副院長は「夏場は熱中症患者らで救急治療室が埋まり、非常に逼迫することがある」と危機感を募らせる。

 労働現場も危機に直面する。25年は職場で熱中症が原因で19人が死亡し、4日以上休業した人と合わせた死傷者数が1803人と、厚生労働省の05年の統計開始以降で最多となった。

 「今日の作業はここまで。続きは明日に」

 東京都世田谷区川崎市を結ぶ東名高速道路の東名多摩川橋の改修工事現場では、午後1時までに全ての作業が終わり、炎天下にいた作業員は一斉に帰宅の途に就く。

 大手ゼネコン大林組は今年、7〜8月の作業開始時間を午前8時から午前7時、終了時間を午後5時から午後1時に早めた。暑さがピークを迎える午後の作業を避け、作業員の熱中症リスクを下げる取り組みで、現在、約60の工事現場で導入されている。

 作業は1日あたり約2時間短くなるものの、夏以外の時間を延ばすなどして工事を進めていくという。作業時間を短縮しても賃金は従来の水準を維持するため、企業のコスト負担は増えるが、担当者は「命や健康には代えられない」と強調する。

 「災害級」の猛暑により、熱中症による救急搬送は25年に全国で10万人を突破し、死者数は24年に最多の2160人となった。さらに東京大などのチームは、15〜19年に暑さに関連した持病の悪化などで亡くなる「暑熱関連死」が約3万3000人と、熱中症死者数の6・6倍に上ると分析する。

 将来的には、救急医療の崩壊につながりかねないとの予測もある。国立環境研究所は50年までに東京都内では、熱中症患者だけで救急車が埋まり、搬送困難が多発するとの試算を出す。日本救急医学会理事の横堀将司・日本医科大教授は「できるだけ熱中症患者を減らすとともに、不要不急の救急搬送数を抑える対策などが急務だ」と指摘する。