岸惠子さん20代でパリへ 中谷美紀、後藤久美子、EXILE AKIRAも…「国際結婚」半世紀の歩み
8月7日、女優の岸惠子さんが老衰のため横浜市内の自宅で逝去した。93歳だった。「真知子巻き」大流行のきっかけとなった『君の名は』(1953年)をはじめ日本映画史に刻まれる名作に出演し、日仏合作映画でも活躍した国際派女優だった。19日、所属事務所が公式サイトで公表した。
その生涯の中で、ひときわ世間の目を引いたのが国際結婚だ。日仏合作映画『忘れえぬ慕情』(1956年)への出演がきっかけでフランス人映画監督のイヴ・シャンピ氏と出会い、1957年、作家・川端康成を立会人としてフランスで挙式した。
当時20代半ばの岸さんは「空飛ぶマダム」と呼ばれ、日本とフランスを行き来しながら女優業を続けた。1963年に長女が誕生し、1975年に離婚。その後も2000年までパリで暮らした。
フランスとの縁の深さは、2002年に芸術文化勲章オフィシエ、2011年に同コマンドゥールを授与されたことにも表れている。訃報が伝わった翌20日、在日フランス大使館は公式Xで「偉大な俳優であり、フランスにとってかけがえのない友人であった」と追悼した。
日本映画界を代表する女優だった岸さんが、国際結婚を機に生活の拠点を海外へ移した歩みは、当時の日本社会では特別な出来事として映ったはずだ。では現在と比べて、国際結婚をめぐる状況はどう変わったのか。
国際結婚した芸能人たちその後の芸能界に目を向ければ、岸さんと同様に、国際結婚を機に海外へ拠点を移したり、活躍の場を広げたりした著名人も少なくない。
女優の中谷美紀さんは2018年、ドイツ人ビオラ奏者と結婚。夫の活動拠点であるオーストリアに移住し、現地で暮らしながら、日本での仕事と行き来する2拠点生活を送っている。
フリーアナウンサーの中村江里子さんは2001年、フランス人実業家と結婚しパリへ移住。3人の子どもを育てながら、日本での出演や執筆活動も続けている。
女優の後藤久美子さんは1996年、イタリア系フランス人の元F1ドライバーと事実婚し、スイス・ジュネーブを拠点に3人の子どもを育てた。今年6月には所属事務所を通じ、長年のパートナーシップを解消したことを明らかにしたが、報道によれば、今後もスイスに住みながら女優業を続ける方針だという。
また、EXILEのAKIRAさんは2019年、台湾出身のモデル・女優と結婚。結婚後は台湾との関わりを深め、現在は日本と台湾の2拠点生活を送りながら活動している。2023年には、LDHの台湾法人「LDH愛夢絓」の代表取締役/CEOに就任した。
一方、日本を拠点に活動しながら国際結婚をしている著名人も少なくない。プロレスラーの蝶野正洋さん(ドイツ人妻と1991年に結婚)、女優の寺島しのぶさん(フランス人アートディレクターと2007年に結婚)、タレントの関根麻里さん(韓国人歌手と2014年に結婚)、米米CLUBの石井竜也さん(カナダ人ダンサーと2004年に結婚)などがその例だ。
「国際結婚」件数は増えたが、ピーク時からは減少では、社会全体の動向はどうか。
厚生労働省の人口動態統計によると、夫妻の一方が外国籍の婚姻は、記録が確認できる1965年には4156件だった。以降は増加を続け、2006年には4万4701件、全婚姻件数に占める割合は約6%でピークに達した。
その後は減少傾向に転じ、2024年は1万8420件、全体の3~4%程度で推移している。件数だけを見れば「増え続けてきた」わけではなく、2000年代半ばを境に落ち着いた形だ。
時代を経て変わった制度、変わらない制度件数の増減とは別に、国際結婚をめぐる制度も岸さんの時代から少しずつ姿を変えてきた。
その中で変わらないのは、海外で法律上の婚姻を成立させた日本人は、日本の戸籍に婚姻の事実を記載するため、日本側への届出が必要であるという点だ。外国人配偶者が日本人の戸籍に入るわけではなく、日本人の戸籍に配偶者の氏名・生年月日・国籍と婚姻の事実が記載される。この基本的な枠組みは岸さんの時代から変わっていない。
一方で変わった点もある。
岸さんの時代、外国人配偶者は住民票制度の対象外だった。日本人とは別に「外国人登録」の制度による管理が行われていた。
その後、住民基本台帳制度が改定され、2012年7月から、在留資格をもって日本に中長期間在留する外国人や特別永住者について、日本人と同じく市区町村が住民票を作成し、転入・転出の届出も日本人と同様に行う仕組みが整えられた。
「日本の戸籍に婚姻を反映させるが、外国人配偶者は戸籍に入らない」という枠組みは変わらず残りつつも、外国人配偶者を同じ世帯のメンバーとして把握する制度が整備されたことは、大きな変化といえる。
「特別さ」も変化岸さんがパリで新婚生活を始めた1957年、国際結婚は今よりはるかに目を引く出来事だった。半世紀以上が経ち、件数は2000年代半ばにピークを迎えたのち落ち着いたものの、国境を越えて暮らし、働く人生そのものは、以前より身近になった。
海外へ拠点を移す人、外国人の配偶者とともに日本に根を張る人。その形は多様で、かつてほどは、あえて強調するような出来事でなくなりつつある。
海外で成立した婚姻を日本の戸籍に届け出るという手続きの基本は変わっていない。変わったのは、外国人配偶者を日本社会の一員として把握する制度であり、そして国際結婚が「特別なこと」として語られなくなってきた社会の空気だ。

