新木優子(撮影:識緒)

写真拡大

 性やコミュニケーションにまつわる現代的な悩みを描いたNetflixシリーズ『SとX』。中島健人演じる主人公・霜鳥と向き合うヒロインのキャスター・市之瀬佑美役を新木優子が演じている。芸能生活20年以上を数え、30代を迎えた今、彼女は本作を通じて「人と人とのコミュニケーション」の本質と向き合ったという。初挑戦となったキャスター役の緻密な役作りの裏側から世間からのイメージに対する本音までを語ってもらった。

参考:中島健人と新木優子が浴衣姿で見つめ合う場面も Netflixシリーズ『SとX』新場面写真公開

――『SとX』は挑戦的な題材を扱った作品です。最初に本作のオファーを聞いた際の率直な心境から教えてください。

新木優子(以下、新木):原作を読ませていただいて、性や悩みを扱った作品はこれまでにもたくさんありましたが、本作は男性にも女性にも等しく寄り添っていて、純粋に「すごく面白い! 素敵だな」と思いました。台本を読んだ際、原作が持つセンシティブなテーマを大切にしつつも、実写として視聴者の方が離れてしまわない絶妙なエンターテインメントに落とし込まれていて。原作と映像表現の間に起こるであろう化学反応に共感して、「ぜひ挑戦したい!」という気持ちが強く湧き上がりました。

――作品のテーマ性やタイトルも含め、出演を決めるまでに迷いなどはなかったのでしょうか?

新木:最初にマネージャーさんから「一度原作を読んでみてほしい」と言われたときは、どんな内容なのか想像がつかない部分もありました。でも、作品が持つ軸や伝えたいメッセージがとにかく美しく、芯としてブレずにしっかりと存在していたので、出演に対して迷うことはありませんでしたね。

――新木さんが今回演じられた佑美はニュースキャスターという役どころです。普段、表舞台に立つ俳優業と通じる部分もありつつ、役作りで新しく学んだことも多かったのでは?

新木:初めてのキャスター役ということで、本当に基礎の基礎から学び直す日々でした。現場でアナウンサーの方とお会いすることはあっても、自分が“伝える側”になるという視点で考えたことはなかったので。今回は実際にアナウンサーの方にご指導いただき、あいうえおの発声や滑舌、原稿の読み方まで、一から丁寧にレッスンしていただきました。

――具体的に、どのような部分に一番苦労されましたか?

新木:まず、普段のお芝居とは根本的な“声量”が全然違うんです。原稿を読むときのトーンや、鼻濁音の発声、特有のイントネーションなど、細かなルールがたくさんあって。アナウンサーというお仕事が、どれほどの努力の積み重ねによって成り立っているのかを身をもって痛感しましたし、新しい技術を吸収できる楽しさもありました。現場にも先生がずっと付き添ってくださり、言い回しを確認しながら撮影を進めていきました。

――劇中で佑美が抱える葛藤やコミュニケーションのズレには、観ている側も深く共感させられます。新木さんご自身、佑美に自分を重ね合わせるような部分はありましたか?

新木:すごくありました。佑美が直面している人間関係や思いの伝えづらさって、まさに私が20代の頃に悩んでいたことそのものだったんです。相手とのコミュニケーションの考え方の違いにどう向き合い、どうやって伝えて乗り越えていくか。20代の頃は模索しながらもがいていましたが、30代になった今、自分の中で「こう接していくとうまくいくな」というベースがようやく出来上がってきたタイミングだったんです。だからこそ、今この役を演じられたことは運命的でしたし、すごく意味のある時間に感じられました。

――世間から抱かれているイメージと、本当の自分とのギャップに悩む佑美の姿も印象的でした。新木さんご自身も、そういった感覚を抱いた経験はありますか?

新木:“世間から見えている自分”と“実際の自分”のギャップを実感することは、これまでにもたくさんありました。このお仕事を始めて20年以上が経ちますが、多くの方に認知していただけるようになったのはこの10年ほどで。その中で、いくら「自分はこういう人間です」と発信しようとしても、ファーストインプレッションや演じた役の印象によってイメージが作られていく面白さを感じていました。

――ご自身が“やりたいこと”と“周囲から求められること”のバランスが違ったりすることもありそうです。

新木:お仕事の上で、自分がやりたいタイミングとマネージャーさんや周りの方が提案してくれるタイミングの違いはありましたね。「今の私にはまだ無理かもしれない」と思う仕事でも、周囲を信頼して挑戦してみたら思いがけず新しい自分が見つかったり、それが表現の楽しさに繋がったりして。でも、その成功体験があったからこそ「次はこういう役をやってみたい」という自分の意思を伝えるときに、使う言葉や伝え方がより深くなったと感じています。

――主人公・霜鳥を演じた中島健人さんとは今作がドラマ初共演となりました。現場での印象はいかがでしたか?

新木:以前バラエティ番組でお会いしたときから、とにかくプロフェッショナルで細やかな気配りができる素晴らしい方だなと思っていました。今回ドラマの現場でじっくりご一緒させていただいて、その凄さをより確信しましたね。それと同時に、すごく人情深くて情熱的な“人間味”溢れる素顔を見ることができたのが嬉しかったです。イメージ的に、完璧すぎるプロフェッショナルと思っていたのですが、実際はすごくざっくばらんで温かい人。彼のプロ意識の高さを間近で見て、吸収させてもらうことが本当に多かったです。

――作中では、霜鳥と佑美の関係性が物語の大きな軸となります。予告編でも描かれていた2人のラブシーンは、インティマシー・コーディネーターの方を交えて撮影されたそうですね。

新木:劇中には大きく分けて2つの重要なインティマシーシーンがあるのですが、物語序盤の出会ったばかりのシーンと、終盤でお互いを心から理解し合った後のシーンとでは、アプローチが全く違いました。序盤は各々がインティマシー・コーディネーターの方と話し合って役に挑んだのに対し、終盤のシーンは中島さん、私、監督、コーディネーターさんの全員で「どう表現するのがベストか」を徹底的にディスカッションしながら作り上げました。同じセンシティブなシーンでも、じっくり話し合って表現を模索できた経験はすごく素敵でしたし、作品に深みを与える良いエッセンスになったと思います。

――佑美をはじめ登場人物たちは秘めた悩みを抱えています。新木さんご自身の“周囲にはまだ知られていない意外な一面”があれば教えてください。

新木:皆さんから「クールそう」と言われることが多くて、完璧主義に見られがちなのですが、実際は全然そんなことなくて。割と大雑把でざっくばらんな性格なんです(笑)。カジュアルで大らかな人間なんだということを知ってもらえたら嬉しいですね。

――数々の代表作を経て、今作でまた新しい扉を開いた実感はありますか?

新木:かなり新しい挑戦になったと感じています。これまでは自分の意思を前面に出して演じることが多かったのですが、今回は作品の軸である霜鳥先生の空気感に身を委ね、相手の佇まいに連れて行ってもらう感覚が強くて。相手軸で考える時間が増えたことは、俳優として非常に新鮮な体験でした。年齢を重ねるごとの変化を楽しみながら、これからも新しい役に果敢に挑戦していきたいです。

(取材・文=宮川翔)