(c) Julien DewarichetMSF

写真拡大 (全11枚)

アフリカ中部のコンゴ民主共和国で猛威をふるうエボラ出血熱。わずか3か月で感染者は5000人にのぼり、死者は「30分に1人」のペースで増え続けている。有効なワクチンがない中、感染拡大を防ぐには正しい予防対策をとることが必要不可欠だ。ただ、中には病気そのものに不信感を抱く現地住民も…。住民たちにエボラ出血熱に関する「正しい知識」を伝えるため、現地で活動してきた日本人に話を聞いた。

(日本テレビ国際部・福井桜子)

■「コンゴ史上最悪」わずか3か月で死者2000人超

コンゴ民主共和国で“過去最速ペースで拡大”しているエボラ出血熱。WHOが今年5月に発生を確認して以降、国内で確認された感染者はわずか3か月で5208人にのぼり、このうち2476人が死亡した(今月18日時点)。死者数は2018年から約2年間続いた大規模流行時を上回り、同国史上最多を更新。致死率は47.5%にのぼり、国連の担当者によると「30分に1人が死亡」している状況だという。

■猛威ふるうのは「有効なワクチンのない」ウイルス

今回流行しているのは「ブンディブギョ」といわれる希少なウイルス。致死率は30〜50%と推定されエボラウイルスの中では比較的低いが、現時点で有効なワクチンや治療法が存在していない。そのため、感染拡大を防ぐには正しい予防対策をとることや感染者の早期発見、そして感染者に接触した人の追跡が鍵となる。ただ、これには現地の住民たちがエボラ出血熱に関する「正しい知識」を持っていることが必要不可欠だ。

感染者の約9割が集中する東部イトゥリ州で、約1か月半にわたり活動してきた国境なき医師団のヘルスプロモーター・園田亜矢さんに話を聞いた。

■呪術による病?現地住民が抱く「不信感」

――コンゴ民主共和国では過去にもエボラ出血熱の大規模流行が発生しているが、それでもこの病気は住民たちに知られていない?

園田さん「コンゴ民主共和国は非常に大きな国で、今回感染が拡大しているイトゥリ州ブニア市内では、エボラ病が流行するのは初めてです。過去とは別の地域で流行が起きているため、エボラ病についての一般的な知識はあっても、人々に流行の記憶がなく、認知や発見が遅れることはあると思います」

AFP通信によると、流行が確認された当初、同国の保健相は「住民らが呪術による病にかかっていると思い込んでいたため、コミュニティー内で警戒感が広がるのが遅れた」と発言している。今回園田さんが派遣されたイトゥリ州ブニア市内でも、当初はエボラ出血熱という病気そのものを否定し、“存在しない病気”を治療するために外部から来た医療チームに対して不信感を抱く人々もいたという。

園田さん「正しい知識がすべての方々に浸透していないために、不安や恐怖ばかりが先走っていて、なかなか正しい行動を起こすことができないことがあると思います」

ロイター通信によると、実際、5月にはエボラ出血熱に感染し亡くなった患者の埋葬をめぐり、住民らが医療用のテントに放火する事案も確認されている。事の発端は、遺族らが自分たちで埋葬するため遺体の引き渡しを求めたところ、当局に拒否されたことだった。こうした暴動の背景には、住民らが“安全な埋葬”に関する知識を持っていなかったことがあると指摘される。

園田さん「現地では、妊婦が亡くなった場合におなかの中の赤ちゃんと母体を別々に埋葬する風習があります。ただエボラ病の感染の場合は、遺体からの感染リスクが非常に高いので、そういったことはできません」

エボラ出血熱の感染拡大を防ぐために重要なのが、遺体の安全な埋葬だ。感染リスクの高い遺体との接触を避けるため、園田さんが活動していた治療センターでは、遺族はガラス越しに亡くなった患者の顔を見ることしかできず、その後、防護服を着た医療従事者らが遺体をひつぎに入れて埋葬するという。なぜ風習通りには埋葬できないのかをきちんと説明すれば住民たちも納得するというが、その前に欠かせなかったのが「地域社会との関係作り」だと園田さんは話す。

■「正しい知識」伝える活動が感染拡大を抑える鍵に

――住民たちの不信感を取り除くためにどのような活動を?

園田さん「現地には地域のリーダーと呼ばれる人がたくさんいます。宗教的リーダーやコミュニティーのリーダー、女性グループや若者のグループのリーダー。人は自分が信頼する人の情報を信頼するので、まず私たちも地域のリーダーたちと良い関係性を作り、その上でどうやって予防していくのかというメッセージを理解していただくのが第一歩です。その後に、リーダーに周りの方にも同じメッセージを伝えてもらうようお願いする。リーダーたちを通して、正しい知識をより広く浸透させていくよう活動していました」

園田さんらは地域のリーダーたちの信頼を得るために、治療センターの見学ツアーを通して、自分たちの活動を直接見てもらう機会を設けたという。また、リーダーたちのもとに何度も足を運び、質問や不安に耳を傾け、対話を重ねることで地域社会との関係を構築した。リーダーからの信頼を得て初めて、エボラ出血熱に関する正しい知識を伝える段階に移ることができたという。

園田さん「一度きちんとした信頼関係を構築すれば、私たちのメッセージをみなさんすんなり受け入れてくれるという印象を受けました。エボラ病は十分に予防が可能な病気です。感染者に接触しない、遺体には触らないなど対策がきちんとなされれば流行は防げるものなので、それをいかにすべての人が知って、それを実践していけるのかが重要です」

◇◇◇

園田さんは今月14日に現地の活動を終えたが、その後も感染者と死者は増え続ける一方で、現地では深刻な人手不足が課題となっている。“感染拡大を抑える鍵”となるエボラ出血熱に関する「正しい知識」を伝える活動も、まだ一部地域にとどまったままだ。有効なワクチンがない中、住民たちが正しく予防できるよう、こうした活動をより多くの地域に広げていくことが急務となっている。