【東京一極集中の真実】なぜ20代は東京へ向かうのか、就職期の若者流入が企業と人口にもたらす大きなメリット

写真:Akio Miki JP/Shutterstock.com
「東京一極集中」という言葉だけが独り歩きし、その実態や本質を理解しないまま議論が交わされることが少なくない。
筆者は人口動態を研究する立場から、東京一極集中について、「一体、どうしてそういう意見になるのか……」と驚かされることもしばしばある。実際、国内移動によって「東京都に増えている人口は誰なのか」さえも一般的にはあまり理解されていない。
そのような状況では、東京一極集中の是正や一極集中と表裏一体で進む地方の過疎化に対抗する地方創生が成功するわけがない。例えるならば、受験する大学の受験科目が分からないまま、「合格するぞ!」と手当たり次第に勉強している学生のようなものだ。
思い込み対策では地方創生は進まない、まず知るべき人口移動の構造
これまで多くの地方創生政策が不発に終わり、1996年に始まった東京一極集中が止まらない。
バブル崩壊後、1996年にまず女性が東京都に転入超過を開始したのが東京一極集中の起点であり、昨年(2025年)でもう30年が経過している。そろそろ日本中の人々が、「東京一極集中している原因は何ですか?」と街頭インタビューで聞かれてほぼ正解を答えられるようになってもいいのではないだろうか。
なにも難解なデータ解析をする必要などなく、私たちは、それ以前のもっと初歩的な問題に向き合わねばならない。困難にぶつかった時こそ、せめて正確な知識をもとに議論しようとする姿勢が必要だ。感情論で熱く語る人に、ついついカリスマ性を感じてしまうような情動的な態度は避けなくてはならないと思う。
同時に、悪意のない思い込み、すなわち、アンコンシャス・バイアスに満ちた議論の弊害について、私たち日本人はもっと危機感をもって意識的に変えていこうとしなければならない。特に人口問題においてその弊害が顕著であると感じるからである。
前置きが少し長くなったが、一般的には意外だと感じる人が多い「東京一極集中の真実の姿」について、国のデータをもとに正確な知識を提供したい。
東京都の人口増の8割超は20代、データで見える若者流入の実態
東京都に国内移動で増加している人口の84~85%が20代人口であることをしっかり理解しておきたい。
筆者は人口減少問題と戦う自治体や経済団体から、講演会に呼ばれることが多い。そこでよく誤解に基づく意見として耳にするのが「地方にイイ大学がないからだ。もっとイイ大学があれば……」という、高齢者を中心とした社会減への感想である。
しかし住民票による人口移動を分析すると、東京都に増加する人口パワーの源は、大学進学年齢を含む10代人口ではなく、20代人口にある。

出所:総務省「住民基本台帳人口移動報告」より筆者分析
東京都への移動によって増加する社会増(転入超過:転入数-転出数>0)人口は、5歳階級別でみて、男女合計、男性については10歳から29歳まで、女性は10歳から34歳までという狭い年齢ゾーンの人口となっている。
しかも、その内訳も極端な構造となっており、20代前半人口だけで男女ともに62%(2025年)を占める。この5歳階級でみた傾向は固定化しており、単年度の突発的な構造では決してない。グラフでは男女合計を掲載しているが、男性、女性それぞれ酷似した割合分布となっている。
東京都が新たな子育て支援策を発表すると、地方創生の観点から筆者のもとに取材に来る記者がいまだにいる。「財政力のある東京都の子育て世帯向け支援には、地方は勝てない」といった構図の記事を想定しているようだ。
しかしながら実態としては、第1子~第3子の母親と父親の平均年齢が集中する30代前半ゾーンの東京都の人口増はわずか1%にとどまっている。むしろ東京都の苦手科目だからこそ、子育て支援に精を出している節もあり、そもそも一極集中がそれで生じているわけではない。
東京都が圧倒的な吸引力を見せているのは20代人口であり(人口増の8割以上)、教育機関誘致による定着でも、子育て支援策による子育て世帯誘致でもない。では、何が奏功しているのだろうか?
22~23歳だけで約4割、就職期に集中する若者たちの東京移動
増加人口の6割超を占める20代前半人口のうち最も多いのが22歳で、増加人口のうち22歳だけで男性の26%、女性の29%にのぼる。これに浪人や留年などを経た大卒就職年齢とも重なる23歳を足すと、男性の38%、女性の39%となり、4年制大卒人口の就職期にあたる年齢の人口集中で一極集中の4割が占められていることになる。
また、男女ともに専門学校卒業・就職期とも重なる20歳が増加人口の1割弱を占めている。2025年の東京都増加人口の各歳ランキングで10位(増加人口の3%)までに30代人口は男女ともに一切入ってこない。
地方創生において、女性定着についてお決まりの「子育て支援」ばかりを宣伝してきた自治体は、ここで猛省しなければならない。
「子育て支援を充実させれば、女性や子育て世帯を呼び込める」という発想の背景には、昭和型の夫婦像が残っているのではないだろうか。
すなわち、「男性にそれなりの仕事があれば女性を呼びこむこともできる。さらに子育て支援も用意すれば、その地で子どもを産んでくれるだろう」という発想である。1980年代までの専業主婦世帯が多数を占めていた時代の家族像を、現在にも当てはめてしまうアンコンシャス・バイアスだ。
こういったバイアスがもしなかったのならば、4年制大学進学率が6割となり、統計上、進学率の男女差が誤差程度(2025年進学の男女差は4.2ポイント)となったZ世代の相手に対して「男性の仕事の充実と子育て支援のPR」といった発想になり得ないからである。
ちなみに男女の4年制大学進学率の差は、現在40代以上の男女では20ポイント程度ある(2026年現在満年齢45歳男女で17.3ポイントの差)。つまり自らの20代を思い浮かべて、今の若者を語ることがNGである世代には、40代も当然入っている。
高齢化が進む日本において、ついつい40代を若者扱いしそうになるかもしれない。しかし、そもそも「四十にして惑わず」ではないが、40代は若者ではないし、Z世代の今の若者が持つ男女観、カップル観、家族価値観とはかけ離れた進学率と男女の教育格差を持つ世代であることに十分留意したい。
若者流入が企業と人口を支える、東京が享受する大きなメリット
以上の人口動態の解説から、東京一極集中が「東京20代就職期集中」であることを理解いただけたと思う。
言い方を変えれば、こうした人口移動は東京都の企業に若い労働力を継続的に供給している。
東京一極集中の大きな部分を占めているのは、若者自身が就職先を選んだ結果としての移動である。そこには、若者を引きつけようとする東京の企業間競争も大きく作用しているだろう。それを地方と東京の「とった、とられた」という話だけに置き換えることには違和感がある。Z世代の若者を、まるで意思を持たないチェスの駒のように扱ってはいないだろうか。
このように、東京一極集中は、第一義的には東京都の企業にとって、「労働力と企業存続の持続可能性への貢献」という点で、大きなメリットをもたらす。さらに、企業に対してだけでなく「地域人口の持続可能性の向上」という点でも、大きな優位性を東京都は持つことになる。
東京都の増加人口の6割以上を占める20代前半人口は、国勢調査の結果からは、その9割以上が未婚者である。つまり、未婚者の大量流入は、流入先での男女のマッチングを生み出し、婚姻数の増加から出生数の増加を生み出すのである。
未婚者が大半を占める年齢層の人口が移動で集まる都市部は、世界的にも合計特殊出生率(以下、出生率)が低く抑えられている一方で、出生数は横ばい、または増加に転じるケースも見られている。
2025年の事例でいうと、カナダ(出生率は低下)や東京都(出生率は横ばい)は、出生数が増加に転じている。これは不思議なことでもなんでもない。未婚女性の流入(社会増)によって、そのエリアの若年女性の自動的な未婚化割合上昇が発生し、1人当たりの女性が生涯に持つだろう子どもの数を測定する出生率は、20代女性の分母が未婚化した分だけ低下するからである。
よく出生率が上昇すればなんでもいいかのように考えている発信者を見かけるが、彼らは出生率の基本的な計算構造が理解できていない。
出生率は、そのエリアにおいて女性の母集団が持ち上がりで年齢を重ねる場合には、有効な指標である。しかし、分母となる女性人口が流動的な場合は、人口移動によって計算上の分母(母集団)の性質そのものが変わる。いわばリンゴとミカンの糖度を比較するようなものであり、単純に比較して論じることはできない。この点に十分留意して使用する必要がある指標なのである。
ある年に、地元の22歳女性10人のうち、5人が就職で里を去り、地元に残った5人のうち1人が出産したとしよう。もし全員が地元に残っていれば、22歳出生率は1/10=0.1である。
しかし5人の未婚女性が流出してしまうと、22歳出生率は1/5=0.2に跳ね上がる。若い女性を地元から未婚で追いだすほど、出生率は上昇するものの、いなくなった女性が産むはずだった子どもは地元では生まれなくなるため、出生数は激減する。
女性の東京流入を後押しする、地方に根強く残る昭和型の家族観
東京一極集中は2009年以降、女性の方が男性よりも常に多く増加しており、20代未婚女性人口の社会増は、婚姻から出生への道筋がその先に描かれる未来を東京都にもたらしている。
そして、東京の企業の女性雇用における誘致努力は、誘致された女性が東京で結婚・出産し、そこで生まれ育ったその子どもたちが、東京の企業の将来の労働力、そして顧客となる未来をも生み出すことになる。
筆者は人口減に苦しむ自治体の講演会に呼ばれることが多く、依頼団体のエリア分析結果を持参して、昨年も北は北海道から南は九州まで、数多くの地方自治体に出向いた。
残念ながら、現地ではどこも想像以上に「男性にそれなりの仕事があれば、女性は自動的に男性についてくるし、子育て支援も追加しておけば、子どもも産んでくれるだろう」という根強いアンコンシャス・バイアスが蔓延していた。この考え方は高齢化している自治体ほど、地元社会における「常識」となっている。
この昭和型の家族像を前提としたアンコンシャス・バイアスこそが、東京都の企業のZ世代の雇用吸引力を相対的に高め、統計上、東京都の人口の未来をも明るくしていることに気づいてほしい。この点への理解を起点として地方創生戦略を立てなければ、1996年から続く東京一極集中の人口動態の歴史が変わることは決してない。
筆者:天野 馨南子
