宇宙人が作った!? 自力繁殖できない「トウモロコシ」の謎と、食料危機を救う’25年誕生の新種

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宇宙人が開発? 自力繁殖不可の謎

私たちの食卓でおなじみのトウモロコシ。実はこの植物が、野生植物では極めて珍しい構造をしているという。タンポポのようにタネを飛ばす工夫もなく、粒は穂軸にしっかり付着し、雌穂全体も苞葉に包まれているため、成熟しても自然には散布されにくい。人間が収穫・播種しなければ、自然条件下で世代をつなぐことが極めて難しい。

初めから「人間に食べられるため」に作られたとしか思えない不自然な姿から、一部では「古代人に宇宙人が授けた食糧ではないか」とまで囁かれているが、

「それは人間が利用しやすいように選別、改良したからだと思います」

こう言うのは、鳥取大学で異種間交雑による細胞の多様化の研究に注力している石井孝佳准教授。

「多くの野生の植物は花が咲いて実が熟すと脱粒します。土の上にタネを落として子孫を増やそうとするわけです。ところが、我々は実を食べたいのに、脱粒すると食べられない。そこで実が落ちない個体を選んできて、それを栽培し、さらに改良を加えるわけです」(石井准教授・以下同)

「宇宙からやってきたのではないか」と言われていたトウモロコシも、最近のDNA研究により、「テオシントと呼ばれる近縁の野生植物群」というイネ科の植物が祖先野生種だということがわかってきた。

トウモロコシが改良され始めたのは、紀元前7000年から9000年ごろ。最初のトウモロコシはとても実が小さかったが、大きい実をつける個体を選び、それを蒔くことを数千年にわたって続けてきた結果、今のようなトウモロコシになったといわれている。

「ナス科の植物は、毒をもっていますが、今我々が食べているトマトもナスも食用部位に毒の少ない植物を使っています。それは毒の少ない系統を選んで育ててきたから。そうやって、人間は植物を改良してきました」

白菜×キャベツ=「ハクラン」

作物は人間が選んできただけではない。自然の交配によって新種が生まれることもある。たとえばパンの原料となるパンコムギ。

「パンコムギは、パスタなどで使うデュラムコムギに近い栽培種と同じ畑に生えていたであろう、タルホコムギ(見た目は草)が自然交配してできたもの。人間にとって利用価値が高かったので、世界中で栽培されるようになったのです」

一般的に交配/交雑は、同じ種や品種同士を掛け合わせて、新しい形質を作る。交雑を利用して多くの作物が改良され、さまざまな形や色をした作物を現在では見ることができる。

1959年、西貞夫氏により作出されたのが、白菜とキャベツの「ハクラン」。雑種胚を培養する胚培養を用いて作出された、アブラナ属種間雑種の先駆的な成功例だ。

「キャベツはシャキシャキ感を楽しみますが、逆に白菜は鍋にしたり、キムチにして、しんなりした味わいを楽しむことが多いと思うのです。外観はハクサイとキャベツの中間。生でも煮ても、漬けてもおいしい」

このほか、オレンジとカラタチの交雑で「オレタチ」という品種が作られたこともあったという。

「一般に交配は雄しべと雌しべを人為的に受粉させて行いますが、『オレタチ』は、オレンジとカラタチの植物細胞から細胞壁を取り除いたプロトプラストを用いた『細胞融合(体細胞雑種)」として作出されたものです。イネ科では遠縁交雑後の雑種胚の培養や植物再生は可能ですが、体細胞雑種は極めて困難です」

’25年誕生! 食料危機救う新種

’25年、石井准教授が参加した研究グループでは世界で初めてトウモロコシとコムギの卵細胞、精細胞を任意の数を用いて、顕微鏡下で融合させることによってトウモロコシコムギを創り出した。果たして、どんな植物になったのか。

「見た目はコムギです。交雑すると、トウモロコシ由来の核ゲノムが受精後に脱落しました。なので見た目はコムギです。一方、エネルギー生産や環境のセンサーとして働くミトコンドリアゲノムはコムギとトウモロコシの雑種ゲノムになっていました」

ミトコンドリアゲノムが雑種になったトウモロコシコムギを乾燥地研究センターの圃場で植えて実験をしてみると、

「中には大きくなったり、収量が増えたりするものもありました。今、紛争や異常気象で食料危機が危惧されていますが、トウモロコシはC4型の光合成を行います。このC4型の光合成を行う植物は、高い水利用効率と光合成効率をもち、限られた水や資源でより多くの収量をあげられる作物です。

これから改良を重ねて、トウモロコシの特徴をもつコムギができたらいいなと思います。けれど、それは数年でできるものではなくて、数十年、あるいは僕が生きているうちにできないかもしれない。それでも世界になかったものを作り出す技術は確立できた。地球上のいろいろな環境に適応した種間の交雑が可能になれば、素晴らしいなと思います」

かつて人々は何千年もかけて、テオシントという植物からトウモロコシを作り出した。今、最新のテクノロジーで、これまでになかった植物を作り出そうとしている。宇宙人が持ち込んだと思われるようなものも生まれるのだろうか。

▼石井孝佳 鳥取大学国際乾燥地研究教育機構准教授。細胞工学と染色体工学の技術により乾燥などのさまざまなストレスに強い作物を開発。’25年に東京都立大学岡本龍史教授、神戸大学妻鹿良亮准教授らとともにコムギ-トウモロコシ雑種植物の創出に成功した。

取材・文:中川いづみ