「3億円…このモニュメントはムダですね」県民もよくわからない“ワンヘルス”に突き進んだ福岡県議会のドンと知事…反乱は鎮圧も目玉政策に疑問の声〈混乱の福岡県議会〉
大混乱が続く福岡県議会で、正副議長ポストがカネでやり取りされているとの疑惑を告発した県議が、蔵内勇夫議長(72)の議長職の辞職を勧告する決議案を県議会に提出した。
【写真】「生態系を柔らかく結びつける象徴となるゲートです」との説明で3億円投じて造られたワンヘルスのモニュメント
決議案は採決にもかけられずにつぶされ、“反乱”は一時鎮圧されたかに見えたが、蔵内議長と服部誠太郎知事が進めた県の目玉政策への疑問の声が高まっており、福岡県政全体に不信が広がり始めた。
蔵内氏は「これもう政局ですね」と怒り
8月14日に決議案を提出した無所属の吉松源昭県議は、自民党会派に所属していた2019年、県議会議長に就任するために必要だとして中尾正幸元副議長に金を求められ1000万円を渡したと証言。中尾氏は否定しながら副議長と県議を辞職している。
“福岡県議会のドン”と呼ばれる蔵内氏は高額な海外視察が問題になった6月の会見で「“海外旅行”は続けます」と失言したことで知名度を全国レベルに上げた。
裏金問題でも立憲民主党系会派の県議が「自分も蔵内氏に500万円を渡した」と匿名でメディアに証言。蔵内氏は否定している。
決議案は、蔵内氏の疑惑を羅列し「蔵内議長が密接に関わるこれらの不祥事は、県議会の正当性を根底から揺るがす疑念を招いています。(中略)もし県議会として蔵内議長続投を選ぶならば、県民、国民の感覚と大きくずれています」と蔵内氏の退場に同調を求めている。
「決議案に強制力はありませんが、蔵内氏の続投への賛否を問うことで来春県議選を控える県議に“踏み絵”を迫る狙いがあったとみられます。蔵内氏は採決前日に『これもう政局ですね』と怒ってました」(地元記者)
そして迎えた17日の臨時県議会。予定より約5時間遅れで始まった本会議は、中尾氏の辞職に伴う副議長選挙で自民党の板橋聡県議を選出。金銭疑惑を調査する第三者委員会の設置を決めた。
賛成多数だった採決阻止作戦…何故?
次に決議案処理の順番となり、当事者の蔵内議長は議場から退出。板橋副議長の指示で議案を説明した吉松県議が「蔵内議長を引き続き福岡県議会の代表として信任するのか、それとも信任しないのか。この問いにこそ私たち県議会議員ひとり一人が答えなければなりません」と訴えると小さな拍手が上がった。
しかしそこで「動議」「動議」と声が上がる。副議長に説明を求められ立ち上がったのは蔵内議長の秘書出身の林泰輔県議(自民)だ。
「提案者の主張については先ほどわれわれ自身によって設置を議決した第三者委員会に加え、県の第三者委員会や行革審(行政改革審議会)における調査報告によって事実関係が解明されるものと承知しております。このタイミングでの決議については調査内容にも影響を及ぼしかねません。(中断)よって採決の中止を求めます」
林県議がそう読み上げた途端に議場から「賛成」と数人が一斉に声を上げる。これを受け副議長は「決議案採決の中止に賛成する者は起立を」と呼びかける。その瞬間、自民党議員らが一斉に起立。副議長が「賛成多数であります」と宣言して決議案の採決は行われないことになり、直後に閉会が告げられた。
電撃的なこの採決阻止作戦の背景を地元記者が話す。
「当初は自民党内にも決議案に賛成する議員がいました。しかし本会議直前に蔵内氏が『しかるべき時期に議長を辞職する』と自民党内で表明し、分裂が露わになる採決をさせないことで自民党はまとまりました。そして同調を求められた立憲民主党系議員も10人程度が応じ賛成が過半数に達しました」(地元記者)
県が肝いり「ワンヘルス」事業 5年で約60億円投じるも…
危機を回避したかに見える蔵内議長。だが事態はそれほど簡単ではない。蔵内氏が主導してきた施策への疑問が高まっているのだ。
「人と動物の健康と環境を一体で守っていく、とする『ワンヘルス』という考えに絡む事業を福岡県は進めてきました。獣医師で世界獣医師会会長でもある蔵内議長が旗振り役で、部下のようにふるまってきた服部誠太郎知事が従うように進めてきました。県民が中身を理解しているといい難いこの施策に県は5年で約60億円も使っています」
そう話す野党系の県政界関係者が具体例を挙げる。
「問題の豪華海外視察も蔵内氏はワンヘルス関係の行事出席を目的に出かけているものがあります。福岡市の舞鶴公園に6千万円を投じて整備した『ワンヘルスパーク』は、メインの馬術体験の利用者が一日平均一人しかおらず、赤字のまま閉園しました。
蔵内氏の地元、筑後市の筑後広域公園には3億円を投じた『ワンヘルスモニュメント』があり、みやま市では体験ゾーンつきの保健衛生施設『ワンヘルスセンター』が総事業費200億円規模で建設中です。これには地元みやま市議会が政策の必要性を検証するよう求める意見書を8月になって全会一致で採択しています」(関係者)
そのワンヘルスモニュメントは炭素繊維でつくった二重らせんがゲートのようになっており、説明には「われわれの生態系をやわらかく結びつける象徴となるゲートです」と書かれている。そのそばで妻と2人で見物に来たという60代のAさんに感想を聞いてみた。
「私は県OBですがワンヘルスなんてさっぱり分からない。蔵内さんが専門の動物に、人と環境をくっつければ誰も事業に反対しないと思ってるんじゃないですかね。
この公園にはこれ以外にもおかしなもの(造形物)が増えてきたんですが、もうやりすぎ。そういう税金の使い方はやめないと」
地元民は「ワンヘルスはいまだに意味が分かりません」
地元出身の40代のBさん(男性)も炎天下の中を友人と訪れたが複雑な表情だ。
「蔵内さんの金銭疑惑はまだ証明されたものではないので何とも言えないです。ワンヘルスは意味不明です。“ワン”なので最初は犬の健康運動かと思っていました。ただ、この公園は住民が集まるイベントも多く無駄ではないですが、このモニュメントは無駄ですね(笑)」(Bさん)
問題が拡大する中、服部知事は8月になってメディアに「行革審の答申をいただくまでは、今の段階で未着工の(ワンヘルス関連)事業等については当面凍結をしたい」と表明。「(蔵内氏への)過度な配慮、忖度(そんたく)が生じるような関係は一切絶っていく」とも話し、蔵内氏と距離を置く姿勢を強調している。
7月ごろから見せ始めたこうした動きに先の県政界関係者は「服部知事が蔵内議長の“露払い”の役割をしているのは変わらず、2人で軟着陸を探っているだけ。出来レースです」とこき下ろす。大荒れの福岡の政界が落ち着く兆しはまったくない――。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
