《秘蔵写真を公開》大迫力の軍事パレードに、若い男女が集う出会いの場「夜会」まで…写真家が北朝鮮で27年撮り続けた「未知の国」の日常
北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、2020年1月から新型コロナウイルスへの防疫措置として海外からの入国を停止。しかしそれが収束してからも、入国できた外国人は極めて限られており鎖国状態が続く。
フォトジャーナリストの伊藤孝司は1992年8月から2019年10月まで43回の現地取材を敢行し、約10万枚の写真を撮影。その中からベストショットを、さまざまな切り口でお届けする。
前編記事『金正恩に20mまで大接近、10万人のマスゲーム、平壌を駆け抜ける国際マラソン…写真家が北朝鮮で27年撮り続けた「10万枚の記録」』より続く。
大迫力の軍事パレード
北朝鮮で行われるイベントで、規模がもっとも大きいのは紛れもなく軍事パレードである。
朝鮮人民軍創建記念日(2018年以降は2月8日)、金正日総書記生誕記念日(2月16日)、金日成主席生誕記念日(4月15日)、祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利記念日(7月27日)、祖国解放記念日(8月15日)、建国記念日(9月9日)、朝鮮労働党創建記念日(10月10日)などに、1948年から平壌駅前や金日成広場で開催されてきた。今年2月25日には「朝鮮労働党第9回大会」開催を記念した閲兵式が行われている。
「軍事パレード」と呼んでいるが、正確には最高指導者が軍部隊を検閲する閲兵式である。だが例外があり、私が最初に軍事パレードを撮影した2008年9月9日には、健康不安説があった金正日総書記は出席しなかった。ホテルで待機中にカメラの持ち込みが可能と告げられたため、正日氏の出席がないことが分かった。外国人が客席からパレードを撮影することは不可能なのだが、この時だけは観客まで写し込んだ写真が撮れた。
軍事パレードはショーではないため、見ることができる外国人は平壌駐在の大使館員などと、友好訪朝団などの招待客だけである。観光客はその時に平壌にいても見ることができない。最高指導者が出席するため荷物検査は厳しく、カメラの持ち込みはまったくできない。
軍事パレードの写真や映像は、北朝鮮メディアによるものか、この取材のために訪朝した海外メディアが撮影したものしかないのだ。
その海外メディアの取材団に対しては、実に厳しい荷物検査がある。2017年のパレードで私は、午前5時にホテルを出発し、広いスペースがある「人民文化宮殿」で荷物検査を受けた。
検査に立ち会うことはできず、預けた撮影機材とバッグは衝立の裏で調べられた。後で撮影データを見たら、風景画を撮った写真が2枚あった。検査のために、「朝鮮人民軍」の兵士がシャッターを切っていたのだ。これは、翌年のパレードでも同じだった。実に貴重な写真となった。
荷物検査の後、取材団はバスで会場である金日成広場へ。そしてここでも良い撮影場所を確保するため一斉に走り出す。指定されているのは、広場の北端にある歩道内だ。最高指導者が座る閲兵台のすぐ下である。
この位置からは、通り過ぎる兵士や大型兵器までの距離は10メートルもなく、かぶりつきの席なのだ。これでは、兵器マニアや北朝鮮オタクでなくても大興奮する。
最高指導者の到着を、いつも2時間ほど待って閲兵式は開始。パレードは、兵士たちの行進から始まる。その時によって正規軍の人民軍であったり、2011年に「労農赤衛軍」に昇格した民兵組織であったりする。
さまざまな部隊の兵士が小火器を持ったまま、まっすぐに伸ばした足を高く跳ね上げる「ガチョウ足行進」をするのだ。今も社会主義国などで実施されているが、北朝鮮の行進は規模が大きい。何よりも、1隊列約300人の動作が完璧に揃っているのだ。それを異なる部隊が、次々と披露する。
ただ、この行進の仕方は極端に体力を使うようだ。兵士たちが練習しているようすを見たことがあるが、20メートルほど行進したらどの兵士もクタクタになっていた。それを、金日成広場を横切る約300メートルで続けるのだ。靴底には金具が付いているので、実に小気味良い金属音がする。女性兵士の短い靴は、脱げないように紐で縛られている。
何よりもこの行進で驚くのは、完璧に揃っている全員の足が地面を力強く叩くと、何と地面が揺れるのである。戦車など重量車両が通れば地面が振動するのは当然だが、それよりも兵士たちの行進の方が揺れる。
最新の弾道ミサイルも登場
兵士たちによる行進が終わると、お待ちかねの大型兵器の登場である。2017年4月には、まだ打ち上げられていない最新の弾道ミサイルまで登場。この時の軍事パレードは、厳しく軍事的対立をしていた第1次トランプ政権への威嚇として行われたからだ。
閲兵台西側の客席は外交団や外国人招待客が座り、東側は人民軍将校たちが占める。私はパレードだけでなく、客席を埋め尽くす将校たちが気になって仕方がない。こうした光景は、この場でないと見ることができないからだ。
海外メディアのカメラマンたちは、自制しているのか興味がないのか撮影しようとしないが、私は時々振り向いてシャッターを切った。もちろん、海外メディアを見張っている衛兵が「撮るな!」と身振りで制止するのだが……。
2018年9月9日の軍事パレードは、米国との厳しい軍事的緊張状態にあった前年と大きく異なった。2月に韓国で開催された「平昌(ピョンチャン)オリンピック」ヘの北朝鮮選手団の参加があり、6月12日にシンガポールで最初の米朝首脳会談が行われ、すっかり雪解けムードになったからだ。
どの年の軍事パレードでも、大型兵器が登場した後は市民パレードが行われる。2018年には弾道ミサイルなどの登場は申し訳程度で、市民パレードが延々と続いた。さまざまな市民たちと、高校生や大学生たちが趣向を凝らして行進。医師や調理人たちは、仕事着姿だった。
軍事パレードは2020年10月からは、夜間に実施されるようになった。その理由は演出効果だけでなく、最新兵器を間近で鮮明に撮影されることを防ぐためかも知れない。
男女の出会いの場「夜会」
軍事パレードが行われた日の夜などには、金日成広場で「夜会」が開催される。これは祝日を祝う若者たちの舞踊会である。正装した若者たちが、広場一面に広がって踊る。これは観客に見せるためというよりは、若者たちの娯楽のようだ。男女が出会う場にもなっていると聞いた。
外国人招待客たちは、すぐ近くでそれを見るのだが、誘われて踊りの中に飛び込んでいく人もいる。私は毎回、踊りの中を動き回って撮影している。
この「夜会」は、「タイマツ夜会」として実施される時もある。タイマツを持った青年たちが、広い金日成広場を走り回る。無数の炎が揺れる光景は迫力があったが、残念なことに近年はLEDライトに変わってしまった。
市民が押し寄せる国際見本市
「平壌順安(スナン)国際空港」から田園地帯を抜けて市街地に入る時、銀色に輝く球形の巨大な施設が目に入る。1993年4月に開館した「三大革命展示館」の、入り口近くにある「衛星館」のドームだ。
この展示館は約8万平方メートルもあり、そこにいくつもの巨大な展示施設が並び、鉄道車両の屋外展示もある。私はこの展示館に、ロケットや人工衛星など最先端技術の完成が発表されるたびに取材に行っている。
そしてこの展示館では毎年、春と秋に見本市である「国際商品展覧会」が開催されてきた。2019年5月の「第22回春季展覧会」には、過去最大の約450社が参加。そのうち外国企業は中国・ロシアなど19か国・地域からで、前年の2.5倍にあたる270社だった。
製薬関連では、ロシアとポーランドの会社が出店。そのブースにはたくさんの医薬品が並べられ、ロシア人の営業マンが積極的に客と交渉をしていた。街の薬局を覗くとロシア製の薬品がかなり多く、ロシアにとって北朝鮮は大切な市場なのだろう。
展覧会で主に並んでいる商品は、大型テレビ・冷蔵庫や冷凍庫などの電化製品、医薬品・化粧品・衣類などと多様。屋外には、大量の電動自転車などが並べられていた。商取引だけでなく商品をその場で購入できるブースもあり、入場料を払った多くの市民で大変なにぎわいなのである。
照明器具を販売するブースには、部屋を明るくするための器具はわずかで、装飾用のものばかりが並んでいた。裕福そうな女性客たちがそれを購入しようと、私が目の前でカメラを構えても気にしないほど夢中で店員と交渉をしていた。
(兵士が撮った写真以外は筆者撮影)
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【つづきを読む】金日成「生誕100周年」の超豪華祝賀行事に潜入…!訪朝43回のジャーナリストが、北朝鮮で27年撮り続けた「10万枚の秘蔵写真」
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