猛暑の外出時、帽子をかぶり、ハンディファンを回す人は多い。だが、長年、熱中症研究を続けてきた東洋大学教授の加藤和則さんは「それらよりももっと効果的な熱中症対策アイテムがある。暑さが身体を壊すとき、細胞を傷つけているのは熱だけではないからだ」という――。

※本稿は、加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■なぜ、太陽の下にいるだけで疲れるのか

熱中症対策を考える場合には「熱」だけでなく、「光・紫外線」への対策がいかに重要かという観点も、ぜひお伝えしておきたいと思います。

夏の日中、外に出ているだけでものすごく疲れた、という経験はどなたにもあるでしょう。あの疲労感は、気温の高さだけでは説明できません。光の影響が非常に大きいのです。

熱中症といえば気温とWBGT(暑さ指数)に注目が集まりますが、同じ気温であっても、直射日光の下にいるのと日陰にいるのとでは、身体が受けている負荷はまるで違います。その差を生んでいるのが、光です。

■赤外線は温度を上げ、紫外線は炎症を起こす

太陽光が身体の表面に直接当たると、二つのことが同時に起こります。

一つは、太陽光に含まれる赤外線によって、体表の温度が上昇することです。空気の温度とは別に、光そのものが身体を直接温めてしまいます。

もう一つは、紫外線が細胞にダメージを与え、炎症を引き起こすことです。日焼けというのは、皮膚で炎症が起きている状態にほかなりません。

問題は、この二つが重なることです。熱ストレスと光ストレスが同時に加わることで、ダメージが増強されて、より深刻なものになります。細胞は、熱と光の両方によって傷んでいるのです。

これまで本連載でお話ししてきたように、熱中症の重症化のカギを握るのは、血管の内側を覆う血管内皮細胞です。その細胞に、熱と光という二つのストレスが同時にかかっている。そう考えると、炎天下での作業や運動がなぜこれほど危険なのかが、あらためて見えてきます。

■日傘が涼しい意外な理由

日傘を差すと、涼しさを感じます。多くの方は「日陰に入って気温が下がったから」と考えていると思います。

もちろんそれもありますが、本質はそこだけではありません。日傘の下では、熱のストレスと光のストレスの両方が身体に当たっていない状態になります。細胞としても、光の炎症ストレスと熱ストレスが同時に軽減されているのです。

帽子でも頭頂部は守れますが、覆える面積は限られます。ハンディファンは風によって汗の気化を助けてくれますが、光そのものを遮ることはできません。むしろ気温が体温を上回るような環境では、熱い空気を身体に吹き付けることになりかねません。

その点、日傘は上半身を丸ごと日射から切り離すことができます。100円ショップでも手に入るような、ごく身近な道具です。それでいて、熱と光という二つのストレスを同時に減らせるという意味で、非常に効率のよい対策なのです。

写真=iStock.com/maruco
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■黒くて、赤外線も紫外線も弾くタイプ

選び方にもポイントがあります。特に、真っ黒で赤外線も紫外線も弾くタイプの日傘は効果が高いといえます。白や淡い色の日傘は見た目に涼しげですが、光を透過させやすく、遮蔽という点では黒に劣ります。

また「日傘は女性が差すもの」という感覚は、もう手放してよいと思います。屋外で働く方、部活動の指導者や選手、通学する子どもたち――強い日射の下に長時間いる人ほど、その恩恵は大きくなります。

日傘が差せない場面もあるでしょう。その場合でも、日陰を選んで歩く、休憩を屋根の下で取る、長袖の薄手の衣類で肌の露出を減らすといった工夫は、すべて同じ理屈でダメージを減らしてくれます。要は「熱」と「光」を別々に数える、という発想です。

■ハッサクの皮の秘密

ここで、本連載でご紹介してきた成分の話とつながってきます。

私たちが熱中症対策の有望成分として見つけ出したオーラプテンやタンゲレチンは、もともとハッサクやシークワーサーの皮の表面にある成分です。ではなぜ、これらの柑橘がこの成分を持っているのか。それは、果実自身が太陽光からの強烈な紫外線を浴びており、それを防ぐために植物が備えた成分の1つだからです。

写真=iStock.com/manbo-photo
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植物は動けません。日射から逃げることも、日陰に移動することもできません。だからこそ、外界の熱や光のストレスから自分の細胞を守るための化学的なしくみを、身体の外側――皮の部分に蓄えてきました。

実際、ハッサクの日本での発祥の地は広島県の因島とされ、ゲノム解析からは南方系の柑橘類にルーツを持つことがわかっています。またシークワーサーも沖縄・南西諸島の熱帯・亜熱帯という、強烈な紫外線と高温にさらされる環境で育まれた血を引いているとすれば、その皮にオーラプテンやタンゲレチンという強力な保護成分が豊富に含まれていることも、自然なことのように思えてきます。

植物が外界の熱や光のストレスから自分の細胞を守るために備えた成分を、私たちの身体でも同じように、有害な光や熱に対する防御に役立てることができる。これが、私たちの研究の基本的な考え方です。

■「酸化ストレス」からも細胞を守る成分

この考え方は、実験によっても裏づけられています。

加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)

オーラプテンは熱ストレスに対してだけでなく、これまでの研究から活性酸素による酸化ストレスに対しても血管内皮細胞を保護することが示されており、抗酸化力も備えた成分です。

紫外線が細胞にダメージを与えるとき、その主要な経路の一つが活性酸素の発生です。光によって生じたストレスに対しても、細胞の側に備えがあるかどうかで結果は変わってきます。

さらにオーラプテンには、熱によって変性したタンパク質を正常な構造に戻す「ヒートショックプロテイン(HSP)」の産生を助ける働きや、細胞膜の材料となるコレステロールの合成を促して膜そのものを丈夫にする働きも確認されています。外から来るストレスに対して、細胞の側の耐久力を底上げしていくという発想です。

■遮るものと、備えるもの

熱中症対策というと、どうしても「水分と塩分」に話が集中しがちです。しかし、身体の表面で何が起きているのかという視点を加えると、対策の幅は大きく広がります。

まず、遮ること。日傘で熱と光を物理的に断つ。これは今日から、しかも数百円で始められます。

そして、備えること。日頃から血管内皮細胞を丈夫に保っておく。柑橘の皮に含まれる成分は、そのための一つの手段です。

遮るものと、備えるもの。この二つを重ねることで、熱中症から身を守る防御は、はじめて重層的なものになるのです。

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加藤 和則(かとう・かずのり)
東洋大学健康スポーツ科学部 教授
1963年、岩手県奥州市生まれ。東北大学大学院薬学研究科卒、薬学博士。薬剤師、公認スポーツファーマシスト。東洋大学健康スポーツ科学部教授、同大学院研究科長。順天堂大学医学部、UCサンディエゴ医学部、国立がん研究センター、札幌医科大学でがんと免疫に関する基礎と臨床研究に従事し、2011年から東洋大学に着任。東洋大学では、食品中の機能性成分に着目し、熱中症やアスリートコンディショニングに関わる研究を産官学連携で実施。順天堂大学大学院医学研究科客員教授を兼任。
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(東洋大学健康スポーツ科学部 教授 加藤 和則)