【VIVANT考察】「ベキは死んでいない」…野崎の“謎”の単独行動から生存説を読み解く
野崎は裏切った?
TBS「日曜劇場 VIVANT」(日曜午後9時)が第14回を迎える。シーズン2としては第4回。シーズン2は1より痛快さが薄らぎ、笑いの要素も消え、やや難解になった。第13回も警視庁公安部の警視・野崎守(阿部寛)の動きがやや分かりにくかった。整理と推理を行いたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
***
【写真】まさか…「VIVANT」にサプライズ出演! 最強なのに笑顔がキュートすぎる「金メダリスト」
主人公で自衛隊の極秘諜報組織「別班」の乃木憂助(堺雅人)は、顔から血の気が引いた。盟友であるはずの野崎に裏切られたと思ったからだ。第13回の終盤だった。
今は乃木と行動を共にしているものの、警視庁公安部のバルカ人エージェントであるドラム(富栄ドラム)も、野崎に騙されたと思い、ショックで腰が抜けた。だが、野崎は本当に裏切り者なのだろうか。第13回までの野崎と周辺の動きを整理してみたい。

別班員5人の拉致が発覚したのは第11回。バルカ共和国にいた黒須駿(松坂桃李)はアゼルバイジャンへ連行された。北海道にいた高田明敏(市川笑三郎)はキプロス、和歌山県にいた和田貢(平山祐介)はトルクメニスタン、愛知県にいた廣瀬瑞樹(珠城りょう)はイスラエル、佐賀県にいた熊谷一輝(西山潤)はジョージアへ、それぞれ連行された。
5人を拉致するための情報を流したのは当初、警視庁公安部警部の新庄浩太郎(竜星涼)と見られた。その可能性を別班のスーパーコンピューターであるAIハヤトは「95%」と弾き出した。
新庄は国際的テロ組織「テント」のモニター(協力者)だった。日本に身柄を移送されたテントの首領、ノゴーン・ベキ(役所広司)が脱走する手助けも行った。疑われても仕方がない。
第12回、テントの幹部であるアリ・カーン(山中崇)から得られた情報などにより、乃木とドラムはタイのバンコクへ向かう。新庄を、テントのモニターだったタイの実業家チョッキー・テーパーニット(タナパック・ジョンジャイパー)が匿っていることが分かったからである。
乃木は別班員であることを隠すため、丸菱商事に勤務しており、課長の地位にある。同社の長野利彦専務(小日向文世)も別班員だと分かったのは、同じ第12回の終盤。第13回では2人で協力して新庄の身柄を確保する。しかし、新庄もチョッキーも、消えた別班員5人のことは何も知らなかった。
新庄の上司である野崎もバンコクに入る予定だった。乃木が新庄の聴取を終えたら、身柄を預かるはずだった。だが、野崎はいつまで経っても来なかった。
一方で、日本国内からバルカの国立飛行訓練所への通信記録があることが判明する。そこは、テントが飛行機のパイロットを養成する施設である。不審だ。発信元は公安捜査員の和久井俊作(田中俊介)のスマホだった。もっとも、使っていたのは和久井ではなく、野崎である。
また、新庄は静岡県内の新富士空港からタイへ飛んだが、それを茨城空港からロシアのウラジオストクに向かったように見せる偽装工作を行ったのも野崎だった。当初は警視庁サイバー犯罪対策課の東条翔太(濱田岳)の仕業と見られたが、実際には野崎だった。
これでは乃木とドラムが、野崎の裏切りを疑うのも無理はない。もっとも、公安部の外事の現場司令官クラスが、任務を放棄したり、仲間を見捨てたりするだろうか。
なぜイスラエルか
公安部は刑事部と違い、秘密主義だ。同僚や部下とも情報を共有したがらない傾向がある。実際の警視庁が昨年発表した報告書にもこうある。「(公安部は)互いの活動状況を共有しない」。閉鎖的なのは、自分たちでも認めているのだ。
乃木もシーズン1の第7回でテントを欺くため、黒須ら5人の別班員を撃ち、裏切ったように見せかけた。別班も公安も、目的のためになると思ったら、手段を選ばないのだろう。
野崎は、乃木に報告しないまま、次の作戦に移ったと見る。乃木に報告しなかった理由は、公安部か別班に、5人を拉致した組織に通じる者がいると睨んだからではないか。
野崎が密かに飛んだ先はイスラエル。廣瀬瑞樹が連行された国である。野崎は、廣瀬の居場所についての情報を得たのかもしれない。
野崎は同国の史跡で会った正体不明の男と、こんな会話を交わした。
男「よくやってくれた。さすがだな」、野崎「それは良かった。こちらとしても、お役に立ててうれしい」
野崎が行ったこととは何か。シンプルに考えると、乃木に新庄が情報漏洩者と思い込ませ、タイに足止めしたことだが、まだ事の真相は分からない。
イスラエルにはモサド(対外情報機関)がある。米国のCIA(中央情報局)や英国のMI6(秘密情報部)と並び、世界で屈指の力を持つ諜報機関だ。野崎と会った謎の男がモサドの関係者で、2人が取引をしたという推理も成り立つ。
気になることがある。野崎は第11回で、単独行動をしている。島根から上京してきたベキの実兄・乃木寛道(井上順)と会った。何を話したかは明らかにされていない。
野崎の面会要請に対し、寛道は「憂助のことですか?」と尋ねた。ベキは第10回で死んでいるのだから、寛道がそう考えるのは自然だ。ところが、野崎はベキの件だと言った。一体、死者について何を尋ねたのか。
ベキは生存?
実のところ、TBS関係者は「ベキは死んでいない」と話している。確かにベキの死は、視聴者にも分かる形では確認されていない。ベキのものとされる遺骨があるだけだ。
遺体を検視した警視庁の一部も、ベキが死んでいないことを分かっており、野崎は別班5人の拉致と関連付けて考えているのではないか。だから野崎は寛道と会い、ベキの行方の手がかりを見つけようとしたのではないだろうか。
ベキがいないと、テントも困るはず。組織をまとめるのが難しいだろう。第12回におけるアリの不自然な言動をご記憶だろうか。乃木が日本で暮らすジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズル)について、「今ならバルカでも安心して暮らせそうですね」と話すと、アリは血相を変え、「ダメです!」と語気を強めた。暗にバルカで争いが起こることを示した。
直後に乃木は、義弟でテントのナンバー2のノコル(二宮和也)からのメッセージをアリに伝えた。
「ベキの葬儀のあともテントに残り、ノコルの力になってください。ノコルが助けてほしいと言ってます」
アリは、乃木にテントの情報を漏らすという背信行為をしているから、「ノコルが(自分を)受け入れるとは到底思えない」として断る。それでも最後は乃木の言葉を信じた。
だが、ノコルの言葉はウソだろう。ノコルは第11回でアリを話題にしたが、その口ぶりは冷たかった。第13回でアリがテントに戻ると、2人は抱き合って喜んだものの、見せかけのものに過ぎないと見る。
アリもノコルと一戦交えるつもりだったのではないか。だからバルカで争いが起こることを示唆した。なにしろテントは、莫大な価値のある、レアアースのフローライトを所有する。争いの種には困らない。組織をまとめられるのはカリスマ的なベキしかいないのではないか。
シーズン1と2での最も目立った変化は、凄腕ハッカーのブルーウォーカーこと太田梨歩役の交代。シーズン1ではTBSと関係が深い大手事務所に所属する飯沼愛(23)が起用されたが、飯沼の事務所退所と合わせるように降板が発表された。代わりに花岡すみれ(22)が役を引き継いだ。
それより大きな変化もあった。シーズン1でメイン脚本家だった八津弘幸氏(54)は、シーズン2には参加しなかった。2013年版のTBS「半沢直樹」などを書いた売れっ子で、シリアスな題材にユーモアを忍ばせることを得意とする人だ。「VIVANT」がシーズン2に入った途端、痛快さが薄らぎ、笑いの要素が消え、難解になったが、八津氏の不参加は関係するのか。
八津氏の不参加の理由は、トラブルなどではない。単純にNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の脚本を担当しているからだ。同時期に2本書くのは無理だ。代わりに原作者でもある福澤克雄監督(62)が脚本陣にも加わった。監督が脚本も書くのはドラマ界では珍しいが、映画界では頻繁にある。
シーズン1では、乃木と野崎たちがバルカ国の砂漠で地元警察とカーチェイスを繰り広げる場面があった。手に汗を握った。第1回だった。カーチェイスの途中では、乃木たちが警察犬の追跡から逃れるため、顔に糞を擦り付ける場面があった。笑えた。推理することを放棄し、頭を空っぽにして観ても楽しめた。
個人視聴率は第11回の12.1%から徐々に下がり、第13回は9.7%だった。しかし、15本あるほかの連続ドラマは1%台から5%台前半にとどまっている。相変わらず断トツである。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
