日米の協調介入も所詮は「時間稼ぎ」? 【骨太執筆】高市政権「経済ブレーン」たちの致命的な「マーケットセンスのなさ」

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「骨太ショック」の尻ぬぐい

高市早苗政権で初めてとなる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が閣議決定された7月21日、海外市場では約39年半ぶりの円安水準となる1ドル=163円台まで円安が進行。長期国債の利回りを示す長期金利はほぼ30年ぶりに高水準からさらなる上昇をうかがう展開となった。高市政権の積極財政路線を懸念した「骨太ショック」である。

「責任ある積極財政元年、日本の挑戦を起動する!」との副題が付けられた骨太の方針で「財政健全化」の文言が削除されたことなどから、日本の財政運営に対する市場の不信感が高まったためだ。

市場では日本国債の格下げ観測さえ燻るが、「行き過ぎた緊縮志向と未来への投資不足の流れを断ち切り、国内投資を徹底的にテコ入れする」などと意気軒高な高市首相の危機感は乏しかった。

割を食ったのは、「予算編成の抜本的な改革を行う」(高市氏)との大方針の下、骨太の方針の原案づくりから外された挙げ句、市場の混乱を抑える尻拭いだけは強いられた財務省だ。

円安と長期金利上昇が連動する「日本売り」に歯止めをかけるため、7月31日には約28年ぶりとなる日米協調の円買い介入まで繰り出したが、「首相の姿勢が変わらなければ、時間稼ぎに終わりかねない」(主計局幹部)との徒労感も漂う。

骨太の方針は、政権の経済財政政策の方向性を打ち出す手段として、小泉純一郎首相時代の2001年に初めて策定された。政府の経済財政諮問会議での議論を経てまとめられるが、各省庁が夏に行う来年度予算の概算要求基準に反映されることもあり、これまでは一貫して財務省が舞台回し役を担ってきた。

これで財政規律を喪失か…

毎年度の政策経費を借金に頼らず税収などでどれだけ賄えているかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の黒字化目標を掲げるなど財政健全化の大枠を維持しながら、時の政権の関心が強い政策分野については予算の増額を認める「首相特別枠」を設定。飴と鞭で歴代政権を手なずけてきた。

先進国の中で最悪水準の公的債務残高を抱え、予算編成を赤字国債に頼る状況が続く中、歴代政権側も財政運営を円滑に進めるためには財務省の手を借りるのが得策と判断してきた。デフレ脱却を名目に機動的な財政政策を掲げた安倍晋三政権ですら、骨太の方針作りで財務省を排除しなかった。

だが、高市首相の対応は根本的に異なった。昨秋の政権発足直後から、サナエノミクスの司令塔である城内実経済財政相を中心に「2026年の骨太の方針の原案は自分たちで書く。財務省には一切、手を触れさせない」と決断。実際、取り巻きのリフレ派エコノミストや城内氏が顧問を務める自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の政治家らを知恵袋に「骨太検討チーム」を立ち上げた。

首相や城内氏の経済ブレーンが民間議員・有識者メンバーを務める諮問会議や日本成長戦略会議の議論と連動させる形で、骨太の方針原案策定に向けて着々と肉付けを図ってきた。財政見通しや政策効果の試算、文書の練り上げなど技術的な部分は「定見がなく時の政権の言いなりになる」(自民党筋)内閣府の官僚を手足に使った。

こうして出来上がったのが、6月30日に公表された「骨太の方針」の原案だった。40年度までに370兆円超の官民投資で名目国内総生産(GDP)を25年度の約670兆円から1100兆円近くまで押し上げるとぶち上げる一方、財政規律への配慮を大きく後退させた。

「財政健全化」の文言はなくなり、小泉政権以来、金科玉条の目標とされてきたPBについては「単年度の黒字化を追求しない」と明記。サナエノミクスを推進するため「一時的な(PBの)悪化も容認する」との財政規律喪失を疑わせるような考えさえ示された。

金融政策への露骨な介入?

代わりに債務残高の対名目GDP比率を低下させる新たな指標を掲げた。高市政権は成長投資とインフレで名目GDPの規模が拡大すれば、赤字国債を多少増発してもこの比率が下がり、財政の持続可能性をアピールできると目論んでいるようだ。だが、市場では「財政ギャンブル」などと懸念する声が広がっている。

政府が主体的にコントロールできるPBとは異なり、名目GDPは成長率や物価上昇率、金利など多くの他律的な要素に左右される。サナエノミクスの政策効果が不発でGDPを想定通りに押し上げられなければ、借金だけを膨らませる事態となり、このお手盛りの指標でさえ財政悪化は鮮明になる。

原案に「『強い経済』の実現に向けて、日銀の適切な金融政策運営が非常に重要だ」との文言が盛り込まれたことも大きな波紋を呼んだ。

日銀の金融政策決定会合に毎回出席し、たびたび利上げを牽制してきた城内経財相の「強い意向を反映した文言」(官邸筋)というが、市場では「露骨な金融政策への介入」と受け止められた。日銀の利上げが遅れて物価高が加速しかねないとの懸念から、円安や長期金利の上昇に拍車がかかった。

城内氏は記者会見で「趣旨と異なる理解で誤解だ。政府が低金利誘導を促している事実はない」と反論。「各国で金利は上昇しており、『骨太ショック』と煽るのはマッチポンプだ」と、市場を敵に回すような発言を繰り返した。

城内氏周辺では「投資家は骨太の中身をちゃんと読んでいるのか」とか「カネ儲けのネタにしているだけではないか」などとの軽口が飛び交っていたというから呆れるばかりである。

市場の怖さを知らない「素人政権」が引き起こした骨太ショックの事態収拾に走らされたのは、結局、財務省だった。日米の協調介入もあって、歴史的な円安は一時的に収まってはいるものの、財務省の苦難はまだまだ続きそうだ。

後編記事円高で一服も、一難去ってまた一難…サナエノミクス投資「青天井」の予算要求で財務省を待ち受ける「地獄の予算編成」』に続く。

【つづきを読む】円高で一服も、一難去ってまた一難…サナエノミクス投資「青天井」の予算要求で財務省を待ち受ける「地獄の予算編成」