イメージ画像

写真拡大 (全3枚)

今回のシリーズでは中国の流行語である「中産階級破産7点セット(中産破産七件套)」を基に、中国の中産階級が破産に至る7つのリスクを解説している。

前回の記事では不動産バブル崩壊後に不動産ローンを抱える危険性について紹介した。シリーズ連載となる今回は「専業主婦」の破産リスクを解説する。

中国の中産階級破産7点セット(第1回)不動産不況で住宅ローン返済できず競売物件増加

破産7点セットに専業主婦が入る理由

一見すると当たり前か、もしくは裕福さの象徴のように思える専業主婦が、なぜ家庭を経済的危機に陥れるリスクとみなされるのか。その背景には、中国特有の社会構造と労働市場の厳しい現実がある。

日本と違い、中国の中産階級にとって本来の家庭の姿は共働きだった。夫婦両方が働くことで、収入の多様化とリスク分散が図れるからだ。

しかし専業主婦化は、家庭収入を夫の給料に依存するため、夫が解雇・病気・過労で働けなくなった瞬間に収入がゼロとなる。たとえ夫が大手企業勤めの高年収であっても、中国特有の「35歳限界説」によって解雇され、家庭経済が破綻する可能性がある。

家計を揺らす「35歳限界説」

中国の労働市場には「35歳限界説」という残酷な現実を表す言葉がある。インターネット業界や金融業界では、35歳を超えると高収入・高年齢としてリストラ対象になりやすく、再就職も極めて困難となる。

専業主婦の場合、夫がリストラされた後、妻が職場復帰して収入を補てんするのが難しい。中国では女性の再就職は困難で、特に長期のブランクがあると採用されにくい。

結果、夫が働けなくなったら、家計に救いの手がない。35歳で職を失うリスクが高い中国社会では、専業主婦化は「ぜいたく」ではなく「危険な賭け」という認識が強まっている。

社会保険・医療保険の個人依存構造

また、中国では日本のような被扶養者制度がない。そのため専業主婦であっても夫の会社の社会保険に扶養として入ることはできず、個人として加入する必要がある。もし夫が上記の原因でリストラ・給与削減となった場合、妻の社会保険料は固定費として重くのしかかる。

つまり、専業主婦化は一見すると生活の余裕に見えるかもしれないが、実は社会保障の枠組みから脱落する危険をはらんでいる。

フードデリバリー配達員の24.3%が女性

上海で暮らしていると、女性フードデリバリー配達員の急増が目に付く。実際に2025年に発表された中国のフードデリバリー大手、美団の調査によれば、フードデリバリー配達員は全国約1400万人、うち女性が24.3%を占める。約4人に1人が女性だ。

2025新藍領人群洞察報告より

また、そのうち美団に所属する女性フードデリバリー配達員は2022年~2024年で51.7万人から70.1万人へ、2年で35.6%も増加している。

美団研究院の調査報告より

中国社会科学院の調査によれば女性フードデリバリー配達員の85%が既婚者で、うち96.6%が出産し、72.8%は未成年の子どもを持つ。これらの女性の多くは、経済的にやむを得ない選択としてこの仕事に就いている。

ここに破産7点セットの「専業主婦」との関連性が浮かび上がる。

2010年~2022年における中国の経済成長期では男性の収入だけで家庭を養えたため、女性の就業率は低下した。多くの中産家庭で「夫が働き、妻は専業主婦」がステータスシンボルだった。しかし、景気後退・大規模リストラ・賃金停滞が進む中で、このモデルは持続不可能となった。

この女性フードデリバリー配達員の急増は、中産家庭の妻たちが夫の収入減や失業を補うため、時間的に柔軟な労働に流入している実態がうかがえる。

破産7点セットの「専業主婦」は専業主婦そのものを否定している意味ではない。「単一収入+高額固定費+雇用不安定」という構造への警告である。そしてその警告通りに破綻した家庭の妻たちが、今、フードデリバリー配達員として働いている。

不動産バブル崩壊後の中産家庭をさらに追い詰めるのが、もう一つの破産リスクである「子どもへの教育投資」だ。次回は、見えや焦りから抜け出せなくなる中国の教育課金と、それが家計を崩壊させる危険性について解説する。

文/下川英馬 内外タイムス