トヨタ一強はなぜここまで進んだのか、リセールバリュー偏重で変わった日本人の「クルマの選び方」

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トヨタ自動車の一強ぶりが際立つ日本の乗用車市場。1位から8位までをダイハツ工業からのOEM(相手先ブランドによる供給)モデルを含むトヨタ車が独占、30位まで範囲を広げても過半数の16車名がトヨタブランドだった今年(2026年)7月の登録車販売ランキングは、まさにそれを象徴するものだったと言える。
なぜトヨタ車に需要がこれほど集中するのか。信頼性の高さ、ランニングコストの低さ、大型ミニバン「アルファード」よろしくターゲットユーザーの心理を突くことのうまさなどさまざまな理由が挙げられているが、それらを一言に集約するなら、リセールバリューの高さに行き着く。
クルマには信頼性やランニングコストだけでなく走行性能、乗り心地、デザイン、パッケージング、装備などさまざまな評価項目があるが、リセールバリューへの貢献度合いは項目によって大きく異なる。クルマ作りにおいてその見極めが最もうまいのがトヨタであり、それが三河の天下統一かというほどの一強ぶりにつながっていると言っていいだろう。

トヨタ自動車の「アルファード」(写真:共同通信社)
「見て、乗って、比べる」が当たり前だったクルマ選びの時代
トヨタが強いという状況は何も今に始まったことではない。それは、国内新車販売が年間777万台と過去最高を記録したバブル期の頃から、ある程度の波はあれど一貫していた。だが、ここまでトヨタ一色だったわけではない。近年までは販売ランキング上位より少し下になると、いろいろなメーカーのいろいろなモデルが群雄割拠していたのだ。
クルマのコモディティ化が進み、販売されるモデルの画一化が進んだのは多様性が失われた大きな要因だが、変化したのはクルマだけではない。それに劣らず大きく変わったのはユーザーのクルマの選び方、買い方だ。
自動車市場が多様性を保っていた時代においては、ユーザーは今とまったく異なるクルマの買い方をしていた。
第一候補だけでなく競合モデルの販売店にも出かけて実物を見て触れて、必要とあらば何度も比較試乗してみて、条件交渉を重ねて最終的に購入するというプロセスである。今日では信じ難いことだが、クルマが特別好きというユーザーでなくとも多くの人がそれをやっていた。
そういう時代においてはマイノリティメーカー、人気の低いモデルにも立つ瀬があった。購入前にいろいろなクルマを乗り比べるのが当たり前だったために、マイナーであってもそのメーカー、モデルの持つテイストが直接顧客に知られる機会が今日よりはるかに多かったということが大きい。
「マツダ地獄」でも選ばれた、リセールを超えるクルマの魅力
その時代も、リセールバリューにはブランドやモデルによって大きな差があった。その象徴として、昔よく使われた言葉のひとつが“マツダ地獄”である。
マツダ以外の販売店や市中の中古車販売業者に売却する場合の買い取り額が低く、結局ある程度高く引き取ってもらえるマツダの販売店でクルマを買い続けることになるということを揶揄的に表現したものだ。
だが、そんなマツダも結構分厚いファン層を擁していた。独自技術としてはロータリーエンジンが有名だが、それだけではない。空力特性や高速巡航性能にこだわった欧州車ライクなクルマ作りはそれを好む層から熱烈に支持された。
また2リットルターボの競合がひしめくWRC(世界ラリー選手権)に1.6リットルターボ「ファミリア(海外名323)4WD」で参戦。排気量の差を考えれば戦闘力では不利だったが、氷上ラリーなどで時々総合優勝を飾ったりしていた。マイノリティを好むユーザーにとっては判官びいきのような心理をかき立てられるような活動だった。
リセールバリューは低いがファン層の吸引力は強いというブランドはマツダだけではなかった。

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“スバリスト”が象徴する、リセールでは測れないクルマ選び
スバルは平成に入って「レガシィ」がステーションワゴンブームの旗手となったこと、「レガシィRS」「インプレッサWRX」がラリーで活躍したことなどで急速に一般化した。だが、その前は事業用の軽自動車「サンバー」を別にすると、“スバリスト”と呼ばれる愛好家には熱烈に支持される一方、それ以外のユーザーからはほとんど見向きもされないクルマだった。
そんなスバル車の取り柄はもっぱら水平対向エンジンと4WDとされてきたのだが、ところが美点はそれだけではなかった。
レガシィが出る前の「レオーネ」は販売台数は少なく、リセールバリューも低かった。だが、レンタカーでモデル末期の格安グレード、レオーネ1.6リットル「マイア」が回ってきた時に乗って驚いた。トヨタ「コロナ」も日産「ブルーバード」も裸足で逃げ出すほど乗り心地が滑らかだったのである。
スバリストを自称する知人にその話をすると、自分がクルマを製造したわけでもないのに「よくぞ聞いてくれました」とばかりにスバルのクルマ作りの蘊蓄をとうとうと語りだすほどだった。
そのほか、三菱自動車、ダイハツ工業、スズキ、そして国内の乗用車販売から撤退しているいすゞ自動車と、どのブランドも今日とは比較にならないほど“濃いファン”を抱えていた。
もちろん昔であっても金銭的なメリットが大衆の消費行動に最も影響するということは今と変わりはない。そんな中で人気モデルとはリセールバリューに大差があるマイノリティカーに手を出す猛者が今日よりはるかに多かったのはなぜか。
1年待ち、2年待ち…長納期が奪った「比較して選ぶ」余裕
当時、マイナーモデルを買う際にユーザーがエクスキューズとして用い、時にはディーラーマンもセールストークとして用いていた言葉がある。それは「乗り潰すのならリセールバリューは関係ない」である。
今日でもそういう買い方をする人はいるが、かつてはこれがメジャーな買い方のひとつとしてはるかに深く定着していた。いろいろと乗り比べてみた結果、いいと思ったモデルやブランドと心中する気持ちがあれば、それを買うのは全然アリだったのだ。
今日、そういう買い方が以前ほど一般的ではなくなった理由は、先に述べたクルマのコモディティ化や価格高騰など多々あるが、そこにとどめを刺す格好となったのが、2020年のコロナ禍に始まる生産混乱と、その後の半導体・部品不足による納期の長期化である。
大衆車を買うのにも1年待ち、2年待ち、果ては受注停止といった状況が続き、ユーザーは複数のモデルを見比べて検討してみるといった余裕をまったく失ってしまった。実物を見てからなどという悠長なことを言っていては何年も待たされるかもしれないという切迫感から、カタログを見ただけで、一刻も早く注文に踏み切るケースも目立つようになった。
昔、いろいろなクルマの実物を見て触れて乗って比較検討するというのが一般的な買い方であったことは今日では信じ難いと前述したが、当時にしてみれば自分の好みや用途、ライフスタイルに合うかどうかもわからないうちにクルマを注文するなど信じられないといったところだろう。
リセール偏重の先にある、失われゆくクルマ選びの多様性
クルマのネット販売が話題になったのは21世紀に入る頃、ITバブルの時代だったが、当時は「見もしないでクルマを買うなんて」と多くのユーザーがそっぽを向き、まったく定着しなかった。
今日ではすっかり様変わりし、クルマを見ずに事前予約をするユーザーが数万人に及ぶことも珍しくなくなった。それだけメーカーが信用されているという側面もあるが、実物を見ずに買うということは、裏を返せばクルマの中身を細部まで確かめることを、ユーザーが以前ほど重視しなくなっているということでもある。
もちろんユーザーとて見てもいないクルマを買って失敗したくはない。仮に気に入らなかったとしてもリセールバリューが高ければ傷は浅くて済むし、世間的に評判を得ているモデルであれば自尊心も満たされる。金銭的なメリットと自分の気持ちへの折り合いの付けやすさの両面で、定番主義になって当然という世相なのだ。
果たしてそんなクルマの買い方は本当に楽しいのだろうか。今はどんなクルマを選んでも致命的な失敗になるリスクは低いので、移動の道具として割り切るユーザーなら、面倒なクルマ選びなどどんどんパスしていいと思う。
しかし、クルマに少しでも関心のある人には、こんな時代だからこそ実物主義に立ち戻ったクルマ選びをやっていただきたいところだ。
そしてもし自分が本当に気に入ったクルマのリセールバリューが低いという場合、乗り潰すつもりで自分の思いの方を貫いてみるのも一興かと思う。長く乗ることを前提にするなら、少なくとも購入時ほどリセールバリューの差を気にする必要はなくなるのだから。
将来そういうユーザーが消滅したら、その時こそ日本の自動車マーケットが完全にモノカルチャー化することだろう。
筆者:井元 康一郎
