【後藤 健生】W杯のシステムが激変する可能性も…「悪評紛々」インファンティノFIFA会長再選大揉めの舞台裏

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インファンティノ会長への不信

サッカーW杯の主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)が大きく揺れている。

W杯がスペインの優勝で終わった約1週間後の7月28日に、FIFAのジャンニ・インファンティノ会長(スイス人)が「FIFAフォワード・エンタープライズ(FFE)」という子会社の設立計画を発表すると、UEFA(欧州サッカー連盟)やAFC(アジア・サッカー連盟)などがすぐに反対を表明。FIFA上級顧問を務めていたカルロス・コルデイロ氏も計画に反対して辞任した。

すると、7月31日になってFIFAはあっさりと計画を撤回。わずか4日間の慌ただしい展開だった。

しかし、8月10日にはUEFAやAFC、CONCACAF(北中米カリブ海連盟)が共同声明でインファンティノ会長への不信を表明。来年3月に予定されているFIFA会長選挙を視野に、騒ぎは一向に収まりそうもない。

FIFAは2026年の北中米W杯で約150億ドル(2兆4000億円)の収益を得たという。参加国数増加によって試合数が従来の64から104に増え、しかもアメリカン・フットボール用の巨大スタジアムを使用できたためだ。そして、将来のW杯の運営をFFEに託することによって収入をさらに増やせるというのだ。

だが、外部の投資家からの資金を取り入れることによって、「彼らの要求でサッカーというスポーツにネガティブな影響が出るのでは?」という懸念が高まった。

来年の3月にはFIFA会長選挙が予定されており、一時は無投票でのインファンティノ会長三選確実と言われていたものの、情勢は流動的になっている。

では、インファンティノ会長はなぜそこまで収益増にこだわるのか? そして、そもそもインファンティノ会長とは何者なのだろうか?

無名だったインファンティノ

インファンティノ氏は、2016年にFIFA前会長のゼップ・ブラッター氏が汚職に関与したとして活動停止処分を受けたため、後任として会長に選出された。後任を決める選挙には、当初UEFAのミシェル・プラティニ会長が出馬する予定だったが、プラティニ会長も汚職に関与したとされたため、急遽、UEFA事務局長だったインファンティノ氏が担ぎ出されたのだ。UEFAとしてはプラティニ氏の活動停止が解除されれば再びプラティニ氏を推す意向だったという。

つまり、インファンティノ氏はあくまでもプラティニ氏の代理だったのだ。

FIFA会長に就任するまで、インファンティノ氏はほとんど無名の人物だった。UEFA幹部ではあったものの、あくまでも「有能な実務者」でしかなかった。

それまでのFIFA会長は“大物”ばかりだった。

1961年から13年間会長職にあったサー・スタンリー・ラウス(イングランド)は審判員として尊敬を集め、ルール改正にも関わった人物だった。

1974年の会長選挙でラウス会長を破って、以後24年間にわたってサッカーの商業化を進めたジョアン・アヴェランジェは、元五輪選手(水球)で運送業を営むブラジルの大富豪。FIFA会長就任前からブラジル・スポーツ連盟(サッカー連盟)会長やIOC(国際五輪委員会)委員を務める南米のスポーツ界の“ボス”だった。つまり、FIFA会長就任以前から富と名声(および悪名)を得ていたのだ。

アヴェランジェ会長の後任のブラッター(スイス人)は、アヴェランジェ会長の下で事務局長として辣腕を振るっており、会長に就任するずっと前からFIFA内で権力を握っていた。

そうした大物たちに対して、2016年に会長に就任したインファンティノは無名の人物だった。UEFAが当初会長候補に推したプラティニは、1980年代にフランス代表の主将として活躍した世界的スーパースターだったが、インファンティノには選手経験もなかった。

「たなぼた」でFIFA会長に就任したインファンティノとしては、大物ぞろいの歴代会長に並んで名を残すためにも、その権力の座を手放さないためにも、早急に実績を残す必要があった。

できることは何か……? その答えがFIFAの収益増だった。

独裁者との交渉術

UEFA事務局長時代のインファンティノの最大の実績は、欧州選手権「EURO」の出場チーム数を増やすことによってUEFAの収益を増やしたことだった。それと同じ事をFIFAでも実行しようとしたのだ。

増加した収益の一部は、サッカー振興のために各国のサッカー協会に分配される。これは発展途上国の小さな協会にとってはありがたい支援で、トレーニング施設やスタジアムの整備などに使用できる。そして、支援を受けた協会は次の会長選挙ではインファンティノ会長の支持に回るというわけである。

インファンティノ会長就任後、2018年にはロシア、2022年にはカタールでW杯が開催された。両国が開催国に決まったのはインファンティノ会長就任よりずっと前のことだったが、どちらも政権交代の可能性がほとんどない権威主義国家だった。

当然、FIFAとしては開催国の統治者(プーチン大統領やタマーム・ビン・ハマド首長)との関係構築が必要で、こうしてインファンティノ会長は独裁者との交際術を身に着けた。

2026年大会の開催地が米国、カナダ、メキシコの3か国に決まったのはインファンティノ会長就任直後の2018年のことだった。

米国といえば、アメリカン・フットボールのNFLやバスケットボールのNBAなど収益性の高いプロスポーツが繁栄している国だ。

収益を見込んで投資家たちが各競技のプロリーグを設立して、チームを結成。放送局と連携して収益を増やすビジネスパターンによって米国スポーツは発展してきた。

地元の人たちが作った小さなクラブが、次第に成長・発展して構築された欧州のサッカー界とは構造が違うのだ。

そして、収益増を追求したインファンティノ氏は、W杯の米国開催を機に米国式経営モデルを導入しようとしたのだ。

その結果、2026年W杯ではダイナミック・プライシングシステムが導入されて、チケット料金が高騰。放送(配信)局がCMを入れやすくするために「ハイドレーション・ブレーク」(給水タイム)という名目で、前後半の途中に休憩を入れて事実上のクオーター制を導入。決勝戦ではハーフタイムショーが実施され、ルール上「15分以内」と決まっているハーフタイムは27分に及んだ。

また、会長就任後に経験した2回のW杯から学んだ「独裁者との交際術」も、トランプ米大統領との付き合い方として十分に生かされた。

そして、さらに収益を増やすためにインファンティノ会長は、W杯終了後にFFEという子会社を設立して米国の投資ファンドの資金を導入する計画を発表したのだ。

混沌とした会長選挙の行方

収益の増加という意味では、それぞれ合理的な判断だったのかもしれないが、インファンティノ会長は、あまりに急ぎ過ぎた。サッカーの米国化に対して、欧州などの伝統国が一斉に反発。FIFA平和賞授与などトランプ大統領への過剰な接近も、欧州諸国の反発を招いた。

それが、今回の大騒動の原因となったのだ。

FIFA会長選挙の行方は混沌としている。

55票を持つUEFAが反インファンティノで結束したとしても、54票を持つアフリカはインファンティノ支持に回る公算が強い。AFCはFFE設立反対を声明したが、インファンティノ会長はサウジアラビア(2034年W杯開催国)のムハンマド皇太子とも親しいので、アジアは分裂する可能性がある。

会長選挙の行方によっては2030年W杯のあり方も大きく変わることだろう。これからも注目していきたい。

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