お盆の帰省シーズンが到来した。久しぶりに実家に戻った際、何に注意したほうがいいのか。ファイナンシャルプランナーの内田英子さんは「老いた親が『家を売ってもこのまま住める』と話し始めたら、聞き流してはいけない。子供に迷惑をかけたくないという思いが裏目に出て、終の棲家を失い、親の生活費すら子供が背負うことになりかねない」という――。

■「リースバック」相談件数は5年で10倍に

暑い日が続く中のお盆休み。帰省して家の中をあらためて見回し、年を重ねた親と実家を前に、「この家、どうするんだろう」と実家の将来を不安に思う人は少なくないのではないでしょうか。

こういった世の中の不安を反映しているのでしょう。最近では、住み慣れた家を活用して老後資金を得る、不動産取引のしくみが話題になっています。その一つが「リースバック」です。

写真=iStock.com/Pattanaphong Khuankaew
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pattanaphong Khuankaew

リースバックは、端的に表現すれば「自宅を売ってまとまったお金を受け取りながら、そのまま家賃を支払って住み続けられるしくみ」です。一見すると、とても魅力的なサービスです。しかし、生活視点で見ると、筆者はリースバックを、いわば「劇薬」だと考えています。一番怖いのは、まとまったお金と引き換えに所有権を手放し、生活基盤の管理権を他者に明け渡してしまうこと。つまり、住み慣れた家から望まぬ退去を求められる可能性がある――ということです。

国民生活センターによると、住宅のリースバックに関する相談件数は、2019年度の24件から2024年度には239件へ増加しました。件数は少ないものの、近年急増しており、約5年間でおよそ10倍です。なお、2024年度の契約当事者の約7割は70歳以上でした。

■検討きっかけは「老後資金への漠然とした不安」

筆者のもとにも、「広告を見た。自分にも使えないか」「利用すれば、老後資金の不足を解消できるのではないか」といったご相談が寄せられることがあります。こうしたご相談の多くは、すでに生活が立ちゆかなくなっているのではなく、持ち家以外の金融資産が心許なく、医療や介護、住宅の修繕など、これから必要になるお金に漠然とした不安を抱えている方からです。

貯金を取り崩すことは怖い。家を現金化できれば大丈夫かもしれない。まとまったお金が手に入って、固定資産税も支払わなくてよくなる。そう聞けば、心が動くのは決して不自然なことではありません。

リースバックを検討している方は、特別な方たちではありません。むしろ、普通の生活を考えている、普通の方々なのです。

そもそも持ち家の大きなメリットは、住宅ローンを完済したあと、毎月の固定支出を抑えやすいことです。

もちろん、持ち家だからといって住居費がゼロになるわけではありません。固定資産税や火災保険料、マンションであれば管理費や修繕積立金、戸建てであれば定期的な修繕費も必要です。それでも、家賃や住宅ローンのような大きな支払いが毎月続かないことは、年金生活に入った家計にとって大きな安心材料となります。多くの方は、そのために高額な住宅ローンを返し続けてきたはずです。

■「売却代金」を得られるが、「家賃支払い」が必要

リースバックで自宅を売却すると、その日から家の所有権を手放し、賃借人になります。まとまったお金を得て、固定資産税などの費用負担から離れられる一方で、今度は毎月の家賃を払い続けなければなりません。

家賃は不動産会社が設定します。固定資産税などの支払いが不要になる一方、契約は必ずしも一生涯住めることを保証するものではなく、買い戻しを約束するものでもありません。買い戻しを希望する場合は、あらかじめ契約内容に盛り込んでおく必要があり、買い戻し価格は売却価格よりも高くなる場合もあります。なお、売却価格は相場の6〜7割が一般的です。

参考:国土交通省不動産・建設経済局不動産業課「不動産取引に係る新たなサービス形態について」

つまり、持ち家の「老後の固定支出を抑えやすい」というメリットが吹き飛んでしまうだけではなく、賃貸の家賃負担や契約終了のリスクを背負うことになります。条件によっては、修繕費の支払いも借主負担となったり、介護リフォームなどができなかったりして、持ち家と賃貸、それぞれのデメリットを同時に引き受けることになりかねません。

写真=iStock.com/Stas_V
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Stas_V

■「住み替える」ならOK、「お金が心許ないから」はNG

では、リースバックは利用してはいけないしくみなのでしょうか。必ずしもそうとも限りません。筆者が選択肢の一つとして検討できると考えるのは、近い将来に住み替えや生活の再設計を検討していて、今の家に住む期間が限定されるケースです。

例えば、離婚後の財産分与で自宅と一定の金融資産を得たものの、その家に住み続ける気持ちはなく、売却を考えている。ただ、査定額には納得できず、すぐには転居先も決められない。このようなケースでは、通常の売却などと比較した上で、住み替えまでの選択肢として提示したことがあります。

また、病気などによって住宅ローン返済が難しくなり、生活全体を立て直す過程で、数年後の転居を前提として検討するケースも耳にしたことがあります。国土交通省が示す利用例では、高齢者施設へ入居できるまでの期間や、住宅を建て替えるまでの期間など、退去時期とその後の行き先が想定されています。

参考:国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」

いずれの場合も、「いつまで住むのか」という出口があり、売却後の家賃、転居費、その後の生活費まで見通せる相談体制の中での利用を想定しています。

少なくとも、できる限り今の家で人生の晩年を過ごしたい高齢者に、先のお金が心許ないからという理由だけで、いきなり勧めるものではないと考えています。

■家賃を払えなければ「退去」を求められる

国民生活センターには、深刻な事例が寄せられています。

参考:国民生活センター「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!」令和7年5月21日

報道発表によると、ある70代女性は、生活費に困っていたときにテレビCMを見てリースバックに関心を持ち、自宅を約1600万円で売却。当初の家賃は約6万円でしたが、3年後、突然約11万円に上昇。すでに売却代金を生活費に使っており、家賃を払えないなら退去するよう求められたそうです。

また、認知症が疑われる80代男性が、自宅を相場からかけ離れた400万円で売却。月4万円の家賃を払う契約をしていたと、家族が後から気づいた事例もあったようです。

賃貸借契約が「定期借家契約」であれば、期間満了によって契約は終了します。貸主と借主が合意すれば再契約できますが、貸主が拒めば退去しなければなりません。事業者が物件を第三者へ売却し、貸主が変わる可能性もあります。

さらに、自宅を不動産業者へ売却する契約には、宅地建物取引業法上のクーリング・オフは適用されません。契約後に考え直しても、違約金などが必要になる場合があります。買い戻しも当然に認められる権利ではなく、価格や期限、契約条件によっては実現できません。

このように、契約上の「住み続けられる」期間は、「ご自身が望む期間」と一致するとは限らないのです。

■「迷惑かけたくない」は危険なサイン

親がリースバックを考える背景には、「子どもに迷惑をかけたくない」という思いもあるようです。自宅を現金に換え、固定資産税や家の管理から解放されれば、万が一のときに子どもに売却や相続の手間をかけずに済む。そのように考えているのかもしれません。

しかし、家賃を払えなくなれば、退去先を探す必要があります。高齢になってからの賃貸住宅探し、保証人や保証会社の手配、引っ越し、家財の整理は大変です。場合によっては施設探しも必要です。売却代金が尽き、生活費まで不足すれば、子どもが生活を全面的に世話せざるを得なくなる可能性もあります。

もちろん、自宅を売却することで、将来、子どもが空き家の管理や処分を担わずに済むというメリットはあります。ただし、それは売却後の親の生活が無理なく続く見通しがあってこそです。

帰省したとき、親から次のような言葉が出たら、リースバックの要注意フラグが立ったと見てください。

「売っても、このままずっと住めるらしい」
固定資産税も修繕費も要らなくなる」
「家を現金化した方がいい」
「これで子どもに迷惑をかけなくて済む」
「必要になれば、あとで買い戻せる」

もしまだ契約していないなら、まずは全力で立ち止まってもらってください。

出典=国民生活センター「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」

■「本当にお金が足りないのか」を見極める

リースバックという劇薬を使うときには、十分な検証と正しい使い方、使用後のケアまで考えることが重要です。慎重に検証してみたら、とるべき対策はリースバックではない、という可能性は十分に考えられます。

そこで、まず確認したいのは、親は本当にお金が足りていないのか、です。

もし年金やその他の収入で、毎年の支出を賄えているのであれば、自宅の売却を焦る必要はありません。むしろ、売却したことがかえって裏目に出る可能性があります。

また、医療や介護のお金が不安だという方も多いでしょう。しかし、医療費には所得や年齢に応じた自己負担上限を設ける高額療養費制度があり、介護にも利用者負担が高額になった場合の負担軽減制度があります。まずは親がどのカテゴリにあてはまりそうなのか、確認してください。持ち家に住み続ける前提で、必要なお金を見積もってみることが大切です。

写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

「何に、いくら足りないと思っているのか」「引っ越すつもりがあるのか」「家賃は払い続けられるのか」「売却代金をどのように使うのか」を、親と一緒に整理してみましょう。提示されている売却価格が妥当な金額となっているか、他の複数の宅建業者に意見を聞くことも大切です。

一方、すでに契約してしまっている場合は、早急に以下を確認してください。

□ 売買契約がどこまで進んでいるか
□ 解約条件と違約金
□ 家賃の値上げ条件
□ 普通借家か定期借家か
□ 契約期間と再契約の条件
□ 修繕や原状回復費の負担
□ 契約者が亡くなったあと配偶者が住み続けられるか

■まずは「年金だけで暮らせているのか」を探る

とはいえ、親にいきなり「年金はいくら」「貯金はいくらあるの」などと聞くのは難しいものです。親も、どう話せばいいのかわからない。あるいは、話してくれないかもしれません。切羽詰まった状態になっていない限り、お金の困りごとを聞かれてすぐに具体的に話せる方は案外少ないものです。

お金の使い方にはその人の価値観が表れます。価値観の違う相手、文脈を読んでくれない相手には話さないものです。日頃、夫婦間のお金の話し合いに立ち会うことも多いですが、夫婦も親子も同じで、お金の話は簡単には進みません。

だからこそ最初は、お金ではなく普段の様子から、親の視点をうかがうことがおすすめです。郵便物がテーブルの上に積み重なったままになっているとか、お風呂やトイレの汚れ方が酷くなったとか、なんとなく空気が悪いとか、違和感を覚えることがあれば、普段の暮らしのことを尋ねてみましょう。何か困っていることはないか。植木や電球の交換などなんでもいいのです。小さな困りごとから、お金の困りごとを話してくれることがあります。

それでも親が話してくれない場合は、年金が振り込まれる口座の残高推移が一つの手がかりになります。1年間遡ってみて、年金が入る前の残高に余りがある状況が繰り返されているなら、年金だけで生活できている可能性は十分に考えられるでしょう。このとき、もし思いもよらない結果に直面したとしても、ご自身の価値観にあてはめて親を責める行動は慎んでください。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■帰省時には「親の不安」に寄り添って

めったにない帰省で、しかも限られた時間の中ですべてを把握するのは難しいかもしれません。ただ、親には誰にも話せない不安があり、それが劇薬の服用を後押ししてしまうことがあります。しかも一度口にしてしまうと、元の状態には戻せません。だからこそ、親側の目線に立ってみてください。

親が一人で抱え込まない体制づくりが大切です。「必要なお金はいくら」で「どんなシーンで必要になるのか」を一緒にクリアにすることを目指していく。そうした姿勢から入ることをおすすめします。

小さな気づきかもしれませんが、親のこれからの暮らしの安心につながる糸口が見えてくるはずです。

※記載内容は執筆時点(2026年8月)の情報です。制度や法令は変更される場合がありますので、ご検討の際は最新情報をご確認ください。

----------
内田 英子(うちだ・えいこ)
FPオフィスツクル代表
愛媛県在住。人生の意思決定に伴走する専門家。証券会社・保険ショップ勤務を経て独立し、商品を販売しない完全フィーベースの独立系FPとして活動。教育費・住宅・老後資金・相続まで、家計を「暮らしを経営する営み」と捉える生活経営の視点で幅広く伴走する。なかでも「お金の話になると夫婦でうまく話せない」という悩みに寄り添い、お金を対立の種ではなく、二人が分かり合う糸口に変えていく「夫婦関係 × 生活経営」に多く立ち会う。それぞれのライフデザインに照らしながら、夫婦で描く戦略づくりに伴走する。全国からオンライン相談に対応。
----------

(FPオフィスツクル代表 内田 英子)