【村上 茂久】「米国スターバックス」の経営不振は本当か?財務データの徹底分析で判明した「王者の余裕」

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アメリカのシアトルに本社を置くスターバックスは、世界最大のコーヒーチェーンとして知られている。ただここ最近は、同社の低調ぶりを伝えるニュースが目立っている。特に世間の大きな関心を集めているのが「日本法人の売却を検討している」という報道だ。

“巨大コーヒー帝国”で一体何が起こっているのか?

『決算分析のプロが教える 最高の教訓 倒産』の著作もある株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久氏が、スターバックスの財務データを徹底分析する。

米国スタバの経営不振報道

今や日本で最も多いカフェチェーンとして君臨する「スターバックス」。全国に2000店舗以上を展開し、マクドナルドと並び日本において最も定着した海外外食チェーンと言っても過言ではありません。

そんな中、6月にブルームバーグが報じた「スターバックスが日本事業の売却を検討している」というニュースは、多くの人に驚きをもって受け止められました。報道によれば、スターバックスコーヒージャパンの売却額は4000億〜5000億円規模とも見込まれ、日本単独でのIPO(新規株式公開)も選択肢に入っているといいます。

このニュースに触れて、「あのスタバでさえも日本事業を売らなければならないほど危機的な状況なのか?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。

一部の報道では、「本丸である米国事業の不振が引き金となっている」「手元資金も急速に減少している」といった、スターバックス本社の経営危機を思わせるような論調も見受けられます。

果たして、スターバックスはそこまで追い詰められているのでしょうか。 企業の実態を正確に把握するためには、ニュースの表面的な情報だけでなく、決算書という企業の「一次情報」に当たることが不可欠です。

今回は、Starbucks Corporation(以下、スターバックス)の決算書をもとに、財務の視点からスターバックスの現状と「スターバックス日本法人売却検討」の真の狙いを考察していきます。

「利益なき成長」の現状

まずは、スターバックスの全社的な業績推移から見ていきましょう。図表1は、新型コロナウイルスの影響を受け始めた2019年9月期(FY2019)から直近の2025年9月期(FY2025)までの、売上高と営業利益の推移をまとめたものです。

この表を見ると、非常に興味深い「ねじれ」が発生していることがわかります。

売上高に注目すると、コロナ禍で落ち込んだFY2020(2020年9月期)を底にして、その後は右肩上がりで成長を続けています。FY2025(2025年9月期)には371.8億ドル(約5.9兆円、1ドル160円で計算。以下同)に達し、過去最高を更新しています。店舗数の増加や価格改定が寄与し、売上は順調に伸びているように見えます。

一方で、本業の儲けを示す営業利益に目を向けるとどうでしょうか。FY2023(2023年9月期)に約58.7億ドルを記録した後は、FY2024、FY2025と2期連続で大きく減益となっています。特に直近のFY2025の営業利益は約29億ドルへと前年からほぼ半減しており、営業利益率も7.9%まで急低下してしまっています(図表2)。

このように、過去最高水準の売上高は371億ドルもの規模に成長しているにもかかわらず、利益がついてきていない「利益なき成長」に陥っていることが、決算書から読み取れます。

では、なぜスターバックスはこれほどまでに売上が伸びている一方で、利益は減っているのでしょうか。

コストを伴う「原点回帰戦略」

この減益の理由は、「新店舗への投資がかさんだから」といったシンプルな理由ではありません。その主因は、本丸である米国事業の苦戦を打開するための「大手術(リストラと人的投資)」による影響です。

スターバックスは直近数年間、米国市場において「既存店の客離れ」という深刻な課題に直面していました。これを食い止め、業績を回復させるために、経営陣は「Back to Starbucks(スターバックスの原点回帰)」という大規模な戦略を打ち出しました。

事実、この戦略の実行には、多額のコストを伴っています。

第一に、不採算店舗の大量閉鎖やサポート部門の組織再編です。FY2025の決算書を確認すると、店舗の閉鎖に伴うリース資産の償却や従業員の退職金などを含め、約8.92億ドル(約1427億円)という巨額の「リストラおよび減損費用(Restructuring and impairments)」が計上されています。

第二に、店舗で働く従業員への人的投資です。顧客体験を向上させるためには、パートナーの労働環境の改善が不可欠です。スターバックスは賃金の引き上げや福利厚生の拡充などの投資を加速させました。

さらに、昨今の世界的なインフレや、異常気象に伴うコーヒー豆の価格高騰が、商品原価や物流費を大きく押し上げています。

つまり、売上が伸びている裏側では、インフレによる「コスト高」に耐えながら、未来の成長に向けた「巨額のリストラ」と「人的投資」を同時に断行していたのです。

これらが原価と販管費を急増させ、結果としてFY2025の大幅な営業減益を招いたというのが、財務データから見えてくる真実です(図表3)。

「8期連続減益」の真相

スターバックスコーヒージャパンの売却に関する報道に伴い、一部の報道では、「スターバックス本体は減益が四半期ベースで8期連続、つまり約2年間続いている」とセンセーショナルに報じられました。スターバックスの業績は本当にそこまで悪い状況なのでしょうか。

結論から言えば、この「8期連続の減益」という数字は事実です。ただし、見方には注意が必要です。企業の四半期決算において「減益」と言う場合、直前の四半期(前期比)と比べるのではなく、「1年前の同じ時期(前年同期比)」と比較するのが一般的なルールです。小売業や飲食業は季節による売上の波(季節変動)が大きいため、前期比では正確な実態が掴めないからです。

図表4の通り、FY2024の第2四半期からFY2026の第1四半期までの丸2年間(ぴったり8四半期)、確かにすべての期において前年同期の利益を下回り続けていました。先述したリストラ費用やインフレの重しが、丸2年にわたって利益を圧迫し続けていたことがわかります。

しかし、注目すべきは直近の最新決算であるFY2026第2四半期(2026年1-3月期)です。営業利益は8.21億ドルとなり、前年同期の601億ドルを上回りました(図表5)。

FY2026第2四半期において、ついに「増益」へと転換し、負の連鎖に歯止めをかけているのです。

報道の「8期連続減益」という言葉だけを見ると泥沼の業績悪化を想像してしまいますが、実際にはすでに「Back to Starbucks」戦略による店舗網の整理などの大手術が一段落し、スターバックスの業績における最悪期は脱しつつあると言えます。

米国スタバの倒産リスクは?

続いて、もう一つの懸念点として、一部報道で指摘されている「手元資金(現預金)が急速に減少している」という点について考察していきましょう。スターバックスの貸借対照表を見ると、確かに現預金残高は減少傾向にあります(図表6)。

では、スターバックスは資金繰りに窮しており、倒産リスクはあるのでしょうか。

企業は赤字が続くといつか倒産するのではなく、キャッシュ(現金)がなくなることで倒産します。そして、企業の倒産リスクや資金繰りの状況を見るには、「キャッシュ・フロー計算書」を見ることが重要です。

実際、本業からどれだけのキャッシュを生み出したかを示す営業キャッシュフロー(営業CF)を見ると、スターバックスはFY2024には約61億ドル、利益が半減したFY2025であっても約47.5億ドルという、極めて潤沢なキャッシュを稼ぎ出しています。本業が生み出すキャッシュフロー(営業CF)で、店舗の出店や改装などの投資キャッシュフロー(投資CF)を十分に賄えている状態です。

数字で確認をすると、FY2025でスターバックスの投資CFは約24.9億ドルのマイナスであり、そのうちの9割以上の23億ドルが資本的支出です。この資本的支出23億ドルのマイナスは、営業CFの47.5億ドルの半分以下です(図表7)。

では、なぜ手元キャッシュが減っているのでしょうか。

その答えは財務キャッシュフロー(財務CF)にあります。 スターバックスは、営業CFから投資CFに使った金額の残りのほとんどを、株主に対する配当金の支払い(Cash dividends paid)や自社株買い(Repurchase of common stock)といった「株主還元」を行っているのです。

実際、FY2024には約38億ドル(配当約25.9億ドル、自社株買い約12.7億ドル)、FY2025には約28億ドルもの巨額の資金を株主に還元しています(図表8)。

つまり、「本業の稼ぎが減って資金繰りに窮しているからキャッシュが減っている」のではなく、「株主還元を積極的に行っているから手元にキャッシュが残らない」というのが真相です。手元資金を厚くしたければ株主還元を減らせばよいだけであり、倒産リスクとは程遠い、資金繰り的には非常に余裕のある状況だと言えます。

実際のところ、株主還元を長年続けていることでスターバックスのB/Sは債務超過です。ですが、この状態は必ずしもスターバックスの健全性が悪いことを示しているわけではありません。

というのも、配当や自社株買いを行うと、自己資本は減少することになりますが、スターバックスは事業活動で余ったキャッシュのほとんどを継続的に株主還元に回した結果として、FY2025時点の債務超過(Total shareholders’ deficit)が80億ドル以上になっているからです(図表9)。

では、なぜスターバックスは最大5000億円とも評価される優良資産である「日本法人」を手放そうとしているのでしょうか?

つづく記事〈直営店モデルのスターバックス「フランチャイズビジネス」にシフトする可能性も…日本法人の売却検討は資金難による「苦肉の切り売り」ではなかった〉で詳しく解説します。

【つづきを読む】米国スターバックスが狙い始めた「コメダ珈琲モデル」…日本法人売却検討は資金難による「苦肉の切り売り」ではなかった