ジブリと歌舞伎、こんなに相性がいいなんて!! スーパー歌舞伎「もののけ姫」観劇レビュー

©松竹
7月3日(金)から新橋演舞場で、スーパー歌舞伎「もののけ姫」(脚本=丹羽圭子、戸部和久 上演台本・演出=横内謙介)が開幕しました。
「もののけ姫」といえば、宮崎駿監督のアニメ映画として長年多くの人に愛されてきている作品。それをスーパー歌舞伎で・・?と気になり、ワクワクしながら会場に向かいました。
本作で主人公・アシタカを演じるのは市川團子さん。サンを中村壱太郎さん、エボシ御前を中村時蔵さんが演じます。市川團子さんといえば市川中車(香川照之)さんの息子としても知られていますが、今回の舞台で市川中車も乙事主役で出演されています。歌舞伎界では当たり前かもしれませんが、親子共演というのも気になるポイントです。
歌舞伎もジブリもどちらも熱狂的なファンの方がいらっしゃる界隈だと思いますが、私は、正直そこまで詳しいわけではありません。そんな私が、フラットに観劇してきた感想を、テンション高めにお届けしたいと思います。
「もののけ姫」の感想の前に、少しだけ「スーパー歌舞伎」について触れておきたいと思います。歌舞伎に馴染みがない方だと、そもそも「スーパー歌舞伎」と普通の歌舞伎の違いがよくわからない・・という方も多いのではないでしょうか(私も詳しく知ったのは最近です)。
スーパー歌舞伎は、1986年に三代目市川猿之助(のちの猿翁)さんが『ヤマトタケル』で創始した、比較的新しいジャンルの歌舞伎です。とはいえ、もっと近年なのかと思っていたので、思っていたよりも歴史があるんだぁ~と感じました。「ストーリー」「スピード」「スペクタクル」の3S(さんえす)を大切にしていて、宙乗りや早替り、迫力ある立ち回りをふんだんに取り入れながら、誰が見てもわかりやすく楽しめることを目指しているのが特徴です。近年では『ワンピース』などの人気作品が歌舞伎化されています。
つまり「古典に忠実な歌舞伎」というより、「歌舞伎の技術や様式を使って、新しい物語をエンタメとして見せる」ジャンル。歌舞伎初心者が最初の一歩として選ぶにはぴったりのジャンルだと、今回観劇してあらためて実感しました。

©松竹
そして、もう一つ舞台の内容に入る前に言わせてください。新橋演舞場は、開演前から気分が上がります。1階の売店だけでなく、毎回2階もついつい覗きに行ってしまいます。そして何より、他の舞台では味わうことが出来ないお弁当をいただけるのが、この劇場ならではの楽しみの一つです。
松竹のYouTubeには場内ツアーの動画もあるので、ぜひ事前にチェックしてみてください。メッセージを書くことができるスポットやフォトスポット、隠れキャラまで仕込まれているそうです。本編以外にも楽しむポイントが沢山ありますので、幕間も忙しいです(笑)。

©松竹
さて、肝心の舞台です。率直な感想を先に言うと、ジブリと歌舞伎がこんなに相性がいいのか!と冒頭から一瞬で世界観に引き込まれました。
歌舞伎はこれまでも何度か観てきたのですが、毎回悩まされるのが「お化粧で誰が誰だかわからなくなってしまう」問題(苦笑)。でも今回は「もののけ姫」というすでに知っているストーリーだったこともあって、さほど気にならない・・というより、誰が演じているかを気にする隙もないくらい、世界観にぐいぐいと引き込まれていきました。
そして、舞台上の森の木がとにかくリアルで、「もののけ姫」の世界がそこにしっかり立ち上っていました。さらに久石譲さんの音楽が重なった瞬間、完全にジブリの世界です。かといって、ジブリだけの世界に留まらないのがまたすごいところです。木を打ち鳴らす「ツケ」と呼ばれる、役者の見得や動きの決めどころで拍子木を打って強調する、歌舞伎ならではの効果音が効果的に取り入れられているだけでなく、歌舞伎ならではの「見得」ももちろん健在です。それらが見事にジブリの世界に溶け込んでいるのが本当に最高でした。

©松竹
原作へのリスペクトを感じる再現度の高さもポイントです。舞台を観ながら「あ、あのシーンだ・・!」「このシーンは、あそこだ!」と、脳内でジブリの映像が何度も再生されていました。
面白いのは、脳内で再生されるアニメの映像と、目の前の舞台がまったくケンカをしないことです。これはやはり再現度の高さゆえだと思います。アニメの記憶と生の舞台、両方を同時にイメージでき、ちょうどいい具合にシンクロしているような、世界観が補完されているような感覚でした。原作がある舞台はこれまでも観てきましたが、そのときとはまったく違う、初めて感じる不思議な感覚でした。

©松竹
驚かされるシーンは沢山あります。その中でも、ヤックルなどはもちろん生きた動物では表現できないので人が演じているのですが、その違和感が全くないことにも驚きました。ヤックルだけでなく、途中で馬が花道を通って舞台に登場しますが、一瞬本物の馬が出てきたのかと思って驚いてしまったほどでした。本当にあっぱれです。
立ち回りも、乙事主とモロの君の合戦も見逃せないサンとエボシ御前の対決シーン、そしてアシタカの立ち回りも見逃せません。歌舞伎とはまた違うスピード感のある動きで、とにかくかっこいい!そして人間ではない乙事主とモロの君の合戦シーンは、まさに歌舞伎!といった動きと圧倒的な存在感で、舞台の大きな見せ場のひとつになっています。
本作は花道もフルに活用されているので、席を選べるなら花道が見える席が断然おすすめです。役者さんがすぐそばを通っていく臨場感は、花道側でこそ味わえるものだと思います。
見せ場といえば、2幕には華やかな演出のシーンや宙乗りもあって、見ごたえ十分です。具体的な内容はここでは控えますが、派手な演出でありながら「もののけ姫」の世界観を見事に表現していて、個人的にも感動したとても美しいシーンのひとつです。ぜひ劇場で確かめてみてください!
ちなみにこの宙乗りは、本当に圧巻で流石歌舞伎!と感じたシーンの一つです。そして、宙乗りを楽しむには、個人的には1階席よりも2階席・3階席の方が役者さんとの距離が近くなるのでおススメです。目の高さに近いところを飛んでくる迫力を味わいたい方は、あえて上の階の席を選ぶのもおすすめです。一度3階席で体験したことがありますが、自分に向かってくる感じはなかなか味わえるものでもなく、1階席だと見えない表情などもあり、ちょっとした優越感を感じたことを覚えています。ぜひ一度体験してみてください。
思わず驚いてしまった銃声の演出もあったので、初見の方はその点だけ心構えをしておくと良いかもしれません(笑)。

©松竹
そして最後に、これはどうしても言わずにいられません。コダマの可愛さです!!登場した瞬間、会場からも思わず声が漏れるほどの可愛さで、仕草や動きのひとつひとつが本当に愛おしいです。
歌舞伎とジブリという壮大な世界観の中に、ふと現れる癒しの時間。一瞬も見逃すまいと気を張って観ていた気持ちが、ふっとほぐれるような、そんな重要な役割をコダマたちは担っていたように思います。可愛さ全開でありながら、ちゃんとシシ神の森の世界観を表現しているのも大事なポイントです。

©松竹
個人的な話ですが、スーパー歌舞伎の世界観が本当に好きです。歌舞伎の持つ伝統を大切にしながら現代の舞台に見事に融合していて、むしろ歌舞伎ならではのかっこよさがより引き出されている感じがします。歌舞伎初心者の入門としても、本当におすすめできる舞台です。
見逃したシーンを確認したい、理解を深めたいとか好きなキャストが出ているから…といった理由とはまた違う感覚で、「もう一度あの世界観を感じたい・・!」という思いから、また観たいと思わせてくれた素敵な舞台でした。
歌舞伎を観たことがない人も、ジブリの「もののけ姫」を知らない人も、もちろん「もののけ姫」が好きな人も、それぞれのかたちで楽しめる舞台だと思います。ぜひ劇場に足を運んで、その世界を体感してみてください。
(文:松坂柚希)
スーパー歌舞伎 もののけ姫
原作 宮崎 駿
オリジナル音楽 久石 譲
脚本 丹羽 圭子、戸田 和久
上演台本・演出 横内 謙介
協力 スタジオジブリ
□出演
市川團子
中村壱太郎
中村時蔵
市川猿弥
市川笑三郎
市川青虎
市川寿猿
市川笑也
市川門之助
市川中車
◻︎公演日程
公演日程:2026年7月3日(金)~8月23日(日)
会場:新橋演舞場
□公式サイト
https://mononoke-kabuki.jp/
