全国200店舗以上を展開するそばチェーン「ゆで太郎」のこだわりは何か。池田智昭社長は「工場製麺ではなく、店内の製麺機で打った麺をその日のうちに使い切っている。また、ダシの取り方も、他のそばチェーンと比べて一風変わっている」という――。

※本稿は、池田智昭『ゆで太郎の儲かる仕組み 22年連続黒字を支えるがっちり経営術』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/zepp1969
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zepp1969

■セントラルキッチンは効率がいい?

ゆで太郎は、店内で製麺し、天ぷらも揚げていますが、もっと効率化した方がいいのではありませんか」

外食産業の方から、そんな質問を受けることがあります。そのたびに私はこう答えます。「そもそも、効率化の定義が違うんです」と。

多くのチェーン店では、セントラルキッチンや工場で一括製造し、各店舗へ配送しています。大量に作ることができ、品質も均一になります。店舗では温めたり盛り付けたりするだけなので、人件費も抑えられます。ファミリーレストランの厨房では、ほとんど調理をしない店も少なくありません。

そう考えたら、確かに効率がいいのかもしれません。しかし、出来上がった料理を各店舗に運ぶ輸送コスト、鮮度管理などを含めて考えると、そこまで効率がいいものでもないと私たちは考えています。

一方で、店内で製麺し、その場で茹で、天ぷらを揚げる。手間はかかります。でも、お客様に提供する品質は確実に上がります。

■店内製麺のほうがメリットだらけ

私たちはチェーン店ですが、飲食店として勝負をしている以上、美味しいものを提供したいという矜持は常に持っています。出来合いを温めただけのものと、店内で製麺して揚げたての天ぷらをのせたもののどちらが美味しいかは言うまでもないでしょう。

品質という視点で見れば、私たちのやり方の方が、むしろ効率的なのです。しかも、麺は店で作ると原価は一括製造のおよそ半分になります。

品質は上がる。原価は下がる。それが自社製麺の強みです。

うちの製麺機はそば用ですが、今はラーメン屋さんがたくさん使っているそうです。製麺機メーカーの一番のお得意先がラーメン屋さんになっているくらいで、昔は有名製麺所から仕入れることを売りにしたラーメン屋さんが多かったと記憶していますが、今は自店で製麺していることが売りになる時代です。

オリジナルのスープと麺で個性を出し、それを求めてお客さんが集まります。つまり、買うより自分で作る方がずっと安く、宣伝になる。それはとても効率がいいことなんです。

■立ち食いそばチェーンより高評価なワケ

もちろん、効率化そのものを否定するつもりはありません。ただ、効率化とは工場化することではない。人を減らすことでもありません。

何のために効率化するのか。そこを考え続けた結果が、今のゆで太郎なのです。

現在の結論に至るまでに、ずいぶん時間がかかりました。ただ、店舗それぞれで調理してうまいものを出し続けることを選んだのです。

私たちのお店のファンの皆さんは「ゆで太郎は美味しい」と口を揃えます。町中で聞いても、立ち食いそばチェーンと比較しても、かなりの高評価をいただいていると自負しています。

一見すると非効率に見えることでも、お客様にとって価値があるなら、それは効率が悪いとは思いません。むしろ、その積み重ねこそが、ゆで太郎というブランドを最も効率よく育ててきたのだと思っています。

まとめ
効率とは、人を減らすことではない
価値を最大化することである

■打ちたて・茹でたてのフレッシュな麺

「挽きたて・打ちたて・茹でたて」

そばの世界では、この「三たて」が美味しいそばの条件だと言われていますが、ゆで太郎は店舗ごとに従業員がそばを打っているのをご存知でしょうか。

指定の製粉所で丁寧に挽いたそば粉を店舗へ届け、店内で粉から製麺する。そのため、店舗に製麺機を設置しています。

画像提供=ゆで太郎システム
ラーメン屋でも使用されている、ゆで太郎の製麺機 - 画像提供=ゆで太郎システム

製麺に関しては正直に言うと、効率が悪いなと思います(笑)。工場で一括して作れば、いっぺんに大量に作れて、人件費も下がり、均質なものができます。

チェーン店として考えれば、その方が合理的だという意見もよくわかります。それでも私たちは、1日に4回、多い日は6回に分けて少量ずつ製麺しています。なぜか。その方が美味しいからです。

工場で製造した麺は配送時間を考え、少なくとも2日は品質を保てるように作らなければなりません。一方、ゆで太郎では店内で打った麺をその日のうちに使い切ります。鮮度がまったく違うのです。もちろん、その分だけ手間はかかります。しかも、製麺は想像以上に繊細な仕事です。

■ベストな加水率を見極める「職人技」

そば粉はロットごとに水分量が違います。製粉前のそばの実の状態が毎回違うからです。さらに、その日の気温や湿度も影響します。空調設備が整った現在でも、素材によるわずかな違いは残ります。

一番難しいのは加水率の調整です。製麺機を使っているからといって、ボタン一つで同じ麺ができるわけではありません。どれだけ水を加えるか。そこは経験がものを言います。機械はブレを減らしてくれますが、最後は人の目と経験が必要です。その技術を身につけるには、やはり時間がかかります。改めて考えると、かなり非効率です。

それでも私たちが店内製麺を続ける理由は、お客様が最初の一口を食べた瞬間の感動を大切にしたいからです。打ったその日に茹でたそばと、工場で作られて2日かけて運ばれてきたそばでは、香りも食感も違います。

その違いを数字で表すことはできません。でも、食べたお客様には伝わります。

「やっぱり、ゆで太郎は美味しい」

そう感じていただき、価格にもボリュームにも満足していただけるから、また足を運んでくださるのです。私たちが効率化を追い求め過ぎないのはそういうことです。職人に依存し過ぎないように技術を分解して、誰でもできる仕組みにしてきましたが、それは機械に頼るということではありません。

技術を仕組みにすることと、美味しさまで効率化することは別です。数字の上の効率より、お客様が食べた瞬間に感じる満足の方が大切です。その体験価値を守るためなら、あえて非効率を選ぶ。それが、ゆで太郎の自家製麺に対する考え方なのです。

まとめ
効率より、お客様の「美味しい」を優先する

■「20分ダシ取り」→「5分ダシパック」に

ゆで太郎のダシの取り方は、他のそばチェーンとは少し違います。創業から10年ほどは、20分かけてダシを取っていました。これは町のそば屋で一般的な、厚削り節を長時間煮出すやり方を短縮したものです。本来は40分ほどかける工程ですから、それでもかなり時間をかけていました。

和食では、大きな鍋で花かつおから一番ダシを取り、その後、二番ダシをうどんや煮物、丼のつゆに使います。ダシは和食の土台であり、そばつゆにも欠かせません。しかし、それだけに非常に手間のかかる仕事でもあります。

私が考えたのは、「もっと短くできないか」ということでした。もし5分で同じ品質のダシが取れたら、作業は大きく変わるはずです。

そうして生まれたのが、「5分ダシパック」でした。もちろん、強火で煮れば早くダシが取れるという話ではありません。日本のダシは繊細です。雑に扱えば、香りも旨味も損なわれてしまいます。そこでヒントになったのが、市販のダシパックでした。

■品質と効率を両立した画期的仕組み

鰹節などを細かい粉末にし、パックに詰める。これを95度のお湯で5分ほど煮出すだけで、十分なダシが取れるのではないか。

写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

試行錯誤の末、その方法を実現しました。一度に6リットルのダシが取れ、そこへ3分の1ほどのかえしを加えれば、ゆで太郎のかけつゆが完成します。

普通なら二番ダシまで取るところですが、このパックは味も香りもすべて出し切る設計なので、そのまま廃棄します。

この仕組みが画期的だったのは、品質と効率を同時に実現できたことです。従来は朝、大鍋でダシを取り、寸胴へ移して冷まし、営業前にもう一度温め直していました。その間に香りは少しずつ飛んでしまいます。ガス代もかかります。

一方、5分ダシパックなら、その時に必要な分だけ、その場で作れます。前日から仕込む必要もありません。

工場でストレートつゆを製造して各店舗へ配送するチェーン店もあります。しかし完成から提供まで時間がかかる以上、香りはどうしても落ちてしまいます。5分ダシパックは、品質を落とさず、しかも作業時間まで短縮できました。

私はそば屋の職人出身ではありません。だからこそ、「40分かけるのが当たり前」という固定観念に縛られずに済んだのでしょう。「うまい・安い・早い」を全国で再現するには、職人技を誰にでもできる形へ置き換えなければならない。

その発想が、このダシパックを生みました。もちろん、40分かけて丁寧にダシを取るそば屋を否定するつもりはありません。ただ、時間をかけることと、美味しいことは必ずしも同じではない。

品質を維持したまま工程を短縮する。職人の技術を再現可能にする。その難題を乗り越えられたことが、ゆで太郎にとって大きな転機だったのです。

まとめ
固定観念にとらわれない

■北海道から九州まで同じ味を貫く

実は、ゆで太郎のつゆは創業以来まったく同じ味ではありません。

ただし、変えたのは「幹」ではありません。より多くのお客様に「美味しい」と感じていただくための、「枝葉」の変更です。

ゆで太郎は北海道から愛媛、福岡まで店舗がありますが、全国どこで食べても同じ味を提供しています。

関東と関西ではつゆの好みが違うことはよく知られています。それでも私たちは地域によって味を変えません。

東京で生まれたそば屋として、「江戸切りそば」の味を全国で守る。それが私たちの考え方です。実は「江戸切りそば」という言葉も、地方へ出店するようになってから生まれました。

東京にしか店がなかった頃は、あえてそんな呼び方をする必要はありませんでした。ところが地方へ出ると、「麺が細い」「色が白い」「つゆが醤油っぽい」といった声をいただくようになります。

■「江戸切りそば」に込めた思い

人は生まれ育った土地の味を基準にします。だから、東京のそばは「知らない食べ物」のように感じられたのでしょう。

そこで、「これは東京のそばですよ」と伝えるために、15年ほど前、私が「江戸切りそば」という言葉を考えました。

商標登録はできませんでしたが、この言葉には「東京の味を全国で守る」という思いを込めています。

だから地域ごとにつゆを変えることはしませんでした。東京の味を守る。その「幹」だけは、一度も変えていません。

一方で、実はおつゆ自体は2回ほどマイナーチェンジをしているんです。創業当初に比べると、今は少しだけマイルドで、少しだけ甘くしています。

きっかけは、お客様の声でした。20年ほど前、「麺はいいけれど、つゆがしょっぱい」というご意見をたくさんいただいたのです。

当時のクレームの7割ほどが、「しょっぱい」という内容でした。私は東京の下町育ちですから、その味に違和感はありませんでした。

でも、「東京らしさ」と「しょっぱさ」は同じではありません。そこで、江戸の味は守りながら、ほんの少しだけ甘く、ほんの少しだけやさしい味へ調整しました。

■「やっぱり、うちの方が美味しいな」

江戸そばには、「辛いつゆを少しだけつけて食べる」という文化があります。

昔ながらの味を守り続ける店もありますし、時代に合わせて変えていく店もあります。どちらが正しいという話ではありません。私たちは、「全国で愛される東京のそば」を目指して、少しずつ調整する道を選びました。

池田智昭『ゆで太郎の儲かる仕組み 22年連続黒字を支えるがっちり経営術』(ワニブックス)

ちなみに、これまでつゆのマイナーチェンジをお客様にアナウンスしたことはありません。「じゃあ今までは美味しくなかったのか」と思われても困ります。美味しいかどうかを決めるのは、お客様です。私たちではありません。もちろん、競合の研究もしています。

今もおそば屋さん巡りは続けています。

でも、そのたびに思うんです。

「やっぱり、うちの方が美味しいな」と(笑)。

もちろん、見るべきところは見ます。学ぶべきところは学びます。でも、それで自分たちの「幹」を変えることはありません。守るべきものは守る。変えるべきものだけを変える。その積み重ねが、「江戸切りそば」という今の味を育ててきたのです。

まとめ
幹は変えるな。改善は止めるな

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池田 智昭(いけだ・ともあき)
ゆで太郎システム社長
1957年生まれ、東京都出身。明治大学文学部卒業後、1980年にほっかほっか亭FCオーナーとして独立。1984年にFC店オーナーを辞め、ほっかほっか亭入社。フランチャイズ本部の社員になると、スーパーバイザーとして手腕を発揮。多くのオーナーを支援してきた。2004年ゆで太郎システム設立。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)「がっちりマンデー‼」(TBS系)出演でも話題。
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ゆで太郎システム社長 池田 智昭)