(※写真はイメージです/PIXTA)

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長年の夢だった「夫婦でのハワイ旅行」を叶えるため、必死に働いてきた64歳会社員。しかし、突然帰省してきた娘の告白で、その夢は砕け散ってしまいます。ご褒美旅行と穏やかな老後。旅行計画は白紙・65歳以降も働くことになった、切実な事情を見ていきましょう。

雇用延長で年収ダウン…「65歳までは」と耐える日々

地方都市の中堅メーカーで営業職として長年勤めてきた野呂さん(64歳)。50代では役職にも就き、ピーク時の年収は850万円ほどありました。

しかし、60歳の定年を迎えた後の再雇用で立場は一変。給与は当時の半分以下である年収380万円まで激減。これまで指導してきた年下の後輩が上司になり、指示を受ける毎日は決して居心地が良いものではありません。何度も「いっそ辞めてしまおうか」という葛藤が頭をよぎりました。

それでも野呂さんが留まったのは、「65歳の年金受給まで」という期限があったからです。野呂さんは新卒から一貫して同じ会社に勤め上げてきたため、厚生年金の期間も長く、将来の年金受給見込額は夫婦合わせて月23万円ほど。退職金とこれまでの蓄えを合わせた貯金も1,800万円に達していました。

贅沢ができるわけではありませんが、65歳以降は夫婦でつつましく穏やかに暮らすには十分な資金計画のはずでした。

そんな野呂さん夫婦には、長年温めてきたひとつの目標がありました。それは「定年退職を迎えたら、夫婦でハワイ旅行に行くこと」です。

新婚旅行以来、仕事と子育てに追われて一度も海外へ行く機会がなかった二人。「憧れのハワイの海を眺めながら過ごしたい」――。円安ですっかり敷居が高くなったハワイですが、4泊から5泊程度、150万円くらいの予算をかけてもいい。人生で一度きりの夢のため、日々の節約と居心地の悪い職場での仕事に耐え抜いていたのです。

ところが、そのささやかな願いは、目前にして思いもよらない形で打ち砕かれることになります。

都内で暮らす長女が突然帰省…衝撃の告白

ある週末、東京のIT関連企業で働く一人娘のエリさん(26歳)が、珍しく事前連絡なしで実家に帰ってきました。

野呂さん夫婦にとって娘は自慢の存在。大学卒業後に上京し、華やかな都心のオフィスでしっかり働いていると思っていました。

しかし、この日帰ってきたエリさんの表情は暗く、妻が用意した夕食にも手をつけずに、ただ黙り込んでいます。重苦しい沈黙の末に口にしたのは、衝撃的な言葉でした。

「お父さん、お母さん、ごめんなさい……。カードの支払いが膨らんで、全部で500万円近くの借金があるの。怖くて……」

エリさんが配属されたのは、PR・広報部門。先輩や同僚は洗練された人ばかりでした。「自分だけダサいと思われるのが怖い」と、服装やメイクを整えるため、最初はカードの一括払いで買い物をしていたといいます。

1年目の手取りは24万円ほど。一般的に見れば低い収入ではありませんでした。それでも、家賃や光熱費といった支払いを考えれば、服飾費などに使える予算は限られます。

周囲には、実家通いで自由に使えるお金が多い同僚も少なくありませんでした。自分とは環境が違うとわかっていながら物欲は止まらず、カードのリボ払いを利用するように。

限度額に達すると、キャッシングや消費者金融のカードローンにまで手を出しました。最後は6枚のカードを使い分け、毎月の返済額は15万円以上に。ここ最近は、返済のためにまた借りるという、完全な自転車操業に陥っていました。

老後計画の破綻と、打ち砕かれたハワイへの夢

エリさんの話を聞き終えた野呂さんを、怒りや呆れ、そして「なぜもっと早く気づいてやれなかったのか」という後悔が襲いました。

「自分でなんとかしなさい」ということもできたのかもしれません。ですが、追いつめられて「もう消えてしまいたい」と泣きじゃくる我が子を前に、冷たく突き放すことなどできませんでした。

エリさんの「もう東京での一人暮らしは辞める。地元で再就職したい」という反省もあり、野呂さんは貯金1,800万円の中から500万円を取り崩し、エリさんの借金を全額一括返済することを決断したのです。

「あと少しお金を貯めて、ハワイへ行こう」と積み上げてきた貯金は大きく削られ、ハワイ旅行の計画は白紙となりました。それどころか、今後の生活費や医療費の備えを考えると、65歳で完全にリタイアすることも再考せざるを得ませんでした。

「65歳以降も、アルバイトや再々雇用で週4〜5日は働くことにしました。悲しいですが、子どもの危機を見過ごすことはできません。ハワイなんて、行っている場合じゃないでしょう? ですが、せめて近場の温泉でもいいから、妻を連れて行ってあげたいです」

野呂さんは遠い目をしながら、力なくそう呟きました。

手軽さの裏に潜む「リボ払い」と「キャッシング」の落とし穴

若い世代が知らず知らずのうちに多重債務に陥ってしまう原因に、「リボ払い」や「キャッシング」の仕組みとリスクを正しく理解していないことがあります。全国の消費生活センターには、「リボ払いで支払い残高が高額になってしまった」などの相談が寄せられ、国民生活センターでもクレジットカードの適切な利用を呼び掛けています。

一括払いで購入すれば手数料はかかりませんが、リボ払いは「いくら買い物をしても毎月の支払額が一定」という特徴があります。一見すると月々の負担が軽く感じられますが、裏を返せば「借金が減りにくい構造」になっているのです。

たとえば、50万円の買い物をし、リボ払いで毎月1万5,000円ずつ返済する場合(実質年率15%と仮定)、支払総額は約62万円となり、返済が終わるまでに3年以上かかります。月々の支払いが少ない分、感覚が麻痺し、次々と買い物を重ねてしまうことで、一気に返済不能な金額まで膨らんでしまうのです。

また、スマホやATMから数分で現金を引き出せる「キャッシング」や「カードローン」も同様です。金利は年15%〜18%と高く設定されていることが多く、一度利用し始めると「自分の口座からお金を引き出している」ような錯覚に陥り、あっという間に複数の会社から借り入れを重ねる事態に陥ります。

野呂さんがそうしたように、親心として「我が子の危機を救いたい」と借金を肩代わりしてしまうケースは少なくありません。しかし、親がお金を払って解決してしまうと、本人が借金の恐ろしさを痛感せず、再び同じ過ちを繰り返してしまうリスクもあります。

18歳以上(成人)の作った借金に対して、親が弁済する義務はありません。場合によっては、弁護士などの専門家に相談し、任意整理や自己破産といった債務整理の手続きを本人に取らせることも選択肢の一つです。

現代は、SNSで他人の華やかな生活が常に入ってきて、承認欲求を煽られやすい時代です。「見劣りしたくない」「惨めになりたくない」という焦りから、予期せぬトラブルに陥りかねません。こればかりは離れて暮らす親の力だけで未然に防ぐのは難しいのが現実です。

だからこそ、子どもが独立する前にカードの仕組みや金利のリスクといった「金融教育」を家庭内でも伝えておくことが重要になります。あわせて、普段から連絡を密に取り合い、手遅れになる前にお金の悩みを相談できる親子関係を築いておくことが、結果として家族全員の老後を守るための第一歩となります。

※参考
国民生活センター「18歳から大人に!クレジットカードの使い方を考えよう!」
東京都消費生活総合センター「リボ払いの手数料(利息)を計算してみよう」