「子供はわかってあげない」上白石萌歌

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 照りつける太陽、打ち寄せる波。1年の中でもっとも相性がいい季節と場所の組み合わせといえば、やはり「夏の海」だろう。とはいえ、明るく賑やかな海水浴場だけがイメージのすべてではない。映画解説者の稲森浩介氏がセレクトした「夏の海の映画」で、女優たちの揺れる表情を堪能してみよう。

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【写真】「夏と海」の映画できらめいた女優たち

父と再会する夏休み

〇「子供はわかってあげない」(2021年)

 幼い時に別れた父親と再会し、夏休みのひとときを海辺で一緒に過ごす。そんな高校2年生を、上白石萌歌が演じた。

 水泳部の朔田美波(上白石萌歌)は、3年生が大会で負けて泣いているのに、思わず笑ってしまうようなあっけらかんとした少女。書道部員の「もじくん」こと門司昭平(細田佳央太)とは、好きなアニメが同じことで意気投合する。美波が彼に幼い時に別れた父親(豊川悦司)を探す手伝いを頼むと、その父は新興宗教の教祖だったことがわかる。恐る恐る海辺の父の家を訪ねると、そこには風変わりな中年男がいた。

「子供はわかってあげない」上白石萌歌

 久しぶりに会った父との時間は何とも気まずい。やがて、泳げない父に海で泳ぎ方を教えると、失われた時間が少しずつ取り戻せたように思える。どこまでも続く夏の海の描写は、美波の心を映すように波打ち揺らいでいる。

 監督は沖田修一。「南極料理人」(2009年)や「横道世之介」(2013年)など、今を誠実に生きる人々を淡々と描くのが得意だ。今作でもドラマチックなことは起こらないが、複雑な育ち方をした少女に、エールを送るように描いている。

 上白石萌歌の実質的な初主演映画だ。あまり物事を深く考えない明るい高校生のようで、最後に見せる一筋の涙が、外から窺い知れない細くて脆い心を表現している。公開当時に上白石は、「美波はほとんど私って言ってもいいかもしれない。自分の夏休みをそのまま映画にしてもらったよう」と語っていた(「映画ナタリー」2021年8月20日)。

あの夏の海を忘れない

〇「あの頃、君を追いかけた」(2018年)

 台湾で大ヒットした作品を、乃木坂46の齋藤飛鳥と山田裕貴の主演でリメイクした。

 浩介(山田裕貴)は、学校の規則に反抗的な問題児。同級生の真愛(齋藤飛鳥)は、教師から浩介のお目付役を任命されて……。真愛の親友・詩子(松本穂香)を含めた同級生7人の高校から卒業後までの10年間を描く。

 最初は反発し合っていた2人が、徐々に惹かれ始めて交際を始めるというよくある話だ。しかしこの作品にはいくつかの仕掛けがある。冒頭の結婚式に出席するシーンは、ラストまで誰と誰が結婚するかわからないようになっている。そして最後に「もしあの時こうしていたら」のifの世界が描かれるのだ。

 もう一つ、公開次に話題になったのが時制の入れ替えだ。高校の最後の年が描かれるのだが、卒業式の後に受験の時期が描かれ、最後に夏休みに皆で海へ行くシーンと順番が逆だ。

 もちろんこれには意図がある。海辺で7人は一人ひとり将来の夢を語り合う。「俺たち、どんな大人になるんだろうな?」と。10年後の結婚式で、ある人物が「7人で会うのはあの夏の海以来だね」としんみり言うシーンがある。順番を逆にしたのは、彼らにとってあの夏の海がどんなに大事だったかを強調したかったからだ。

 齋藤は子役時代を除いて今作が映画初出演だった。公開当時、今後の女優業について「まだそんなレベルではないが挑戦していきたい」と述べている。その言葉どおり「【推しの子】-The Final Act-」(2024年)では、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し夢を実現した。

母の手紙を待ちながら

〇「ニライカナイからの手紙」(2005年)

 幼い頃に母と別れた少女が、毎年誕生日に届く母からの手紙を胸に成長していく物語。八重山諸島・竹富島を舞台に、映画では単独初主演となる蒼井優が演じた。

 風季(蒼井優)は、母(南果歩)と郵便局長のオジイ(平良進)と3人で美しい島・竹富島で静かに暮らしていた。ある日、母は風季をおいて東京に出かけて行くが、そのまま島には戻ってこなかった。風季にとって、海は母と過ごした大切な思い出の場所。岸壁には郵便ポストがあり、母宛の手紙を投函する。そして毎年誕生日には母からの手紙が届くのだ。しかし、成長するにつれ母がなぜ自分の元を離れたのか疑問を持ち、風季は東京に母を訪ねることに……。

 熊沢尚人監督はこの難しい役を誰ができるのだろうと悩んでいたが、風季のイメージにぴったりの蒼井に思い当たったという。「完成したシナリオを送ったところ、泣きながら一気に読んでくれたそうです」と。そして蒼井の魅力とは「ずっと芝居を見ていたくなるんです。意図している以上のエモーションを表現してくれる」(「キネマ旬報」2005年7月上旬号)と絶賛している。

 ニライカナイとは沖縄地方に伝わる伝承。母は風季と海を見ながら「水平線のずっと向こうにね、ニライカナイって呼ばれてる神様が住む理想の世界があるって言われてるさ」と教えた。風季にとってのニライカナイは、手紙によって母と繋がっている大切な場所なのだ。美しい海や自然を背景に、母娘の織りなす絆が心に残る作品だ。

運命の出会い

〇「溺れるナイフ」(2016年)

 ジョージ朝倉のコミックを原作に、山戸結希監督が実写映画化。

 15歳の夏、東京でモデルをしていた夏芽(小松菜奈)は、父の故郷に引っ越すことになる。そこで神主一族の末裔であるコウ(菅田将暉)と出会い、一瞬で恋をしてしまう。2人の出会いは鮮烈だった。赤い鳥居が立つ、泳いではいけないと言われる海に、夏芽は服を着たままコウと一緒に飛び込む。彼の鋭いナイフのような心に触れるほど、離れられない夏芽。そしてコウも夏芽を忘れられず、次第に気持ちを通わせていく。だが、夏祭りの夜にある悲劇が……。

 地方都市の湿気や熱気を背景に、先の見えない若い恋が描かれている。小松は「最初、夏芽のことがよくわからなくて、日々の撮影もハードな中で不安だった」と語っている。一方山戸監督は「小松さんがなぜこれほどまでに女性から支持されているのかと考えた時、その『孤高なまでの清潔感』をお借りして『幻想みたいな性』を捉えてみたいなと思いました」と小松の魅力を語っている(「キネマ旬報」2016年10月下旬号)。

 小松と菅田は「糸」(2020年)の共演後、2021年に結婚する。小松は本作の公開時に菅田のことをこう語っている。「菅田さんはギターを持ってきて休憩中に弾いたり、自分がリラックスする方法が分かっていてすごく自由でした。柔軟性がある役者さんで素晴らしい」と(「FASHON PRESS」2018年11月4日)。本作と同じようにきっと運命的な出会いだったのだろう。

兄と妹の海の思い出

〇「涙そうそう」(2006年)

 夏川りみらが歌う名曲「涙そうそう」をモチーフにして作られた。両親がいない兄妹を、妻夫木聡と長澤まさみが演じる。

 将来自分の店を持つことを目標に、那覇で働く新垣洋太郎(妻夫木聡)。そこに高校に合格した義理の妹・カオル(長澤まさみ)が離島からやってきて、一緒に生活することに。父が失踪し、母を病で亡くしていた2人にとって、お互いの存在が生きる糧となっている。兄は妹のために昼も夜も休みなく働き続け、そんな兄の身体を心配する妹だった。

「涙そうそう」とは、涙がポロポロ溢れ出るという意味。森山良子が、若くして亡くなった兄を想い作詞した。兄妹は、母(小泉今日子)が亡くなる時、「涙が出そうになったら鼻をつまむといい」と教えられる。店を出す資金を騙し取られた時、兄と別れて妹が一人暮らしをする時、兄妹は鼻をつまんで涙を堪えてきた。

 歌詞に“古いアルバムめくり ありがとうってつぶやいた”とあるように、物語の中で家族のアルバムが何度も出てくる。そこに貼ってある写真の中に、幼い兄が妹をおんぶして美しい海岸を歩く一葉がある。2人にとって、沖縄の青い海や光は幸福だった時間の象徴だったのだ。

 本作は長澤にとって「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)から2年後の作品。当時19歳で、高校1年生から大学生、そしてひとり立ちするまでを演じている。兄を呼ぶときはいつも「にいにい」と言って、少女に戻ったように甘える姿が印象的だ。それだけに幕切れの哀しさは、終わってしまう夏のように切ない響きを残す。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部