《お子様ランチの日の丸はどうなるの?》社民党党首・福島みずほ氏「国旗損壊罪」への危機感「個人の内心の自由を抑圧する高市政権はとにかく変えるしかない」
日本国旗を傷つける行為を罰する「国旗損壊罪」が日本中で大きな議論を呼んでいる。7月17日に、参議院本会議で採決が行われ、自民党、維新の会、国民民主党、参政党などの賛成多数で可決・成立した。
いまだ賛否がわかれるなか、作家で俳人の日野百草氏は戦前の新興俳句弾圧事件などから、おそれを感じているという。社会民主党党首の福島みずほ議員も、同法案への異議を強く唱えてきた。2人が抱く「危機感の正体」とは──。【前後編の前編】
「社会通念上相当」というのが極めて曖昧
──高市早苗政権による国旗損壊罪創設法案が衆参本会議で可決・成立しました。自民・維新両党はもちろん、国民民主党、参政党なども含め、賛成多数でした。
福島:ついに個人の内心に深く国家が入ってくる時代に入ってしまったということです。私は弁護士でもあるのでそれについての意見もあるのですが、他人の物を損壊したら器物損壊罪ですし、他人の土地に侵入して引きずり下ろしたら住居侵入罪・建造物侵入罪になるわけですよ。
日野:すでにそうした法で処罰できるものに国旗損壊罪が加わる、これは「心の問題」ということですね。
福島:自分の服とか靴とか本とか断捨離するとして、それをゴミとして捨てても断捨離であって犯罪は成立しませんよね。
日野:捨て方にもよりますけど、まずないですね。
福島:自分のものであっても、差し押さえにあっている場合は封印等破棄罪や強制執行妨害目的財産損壊等罪などにあたりますし、ペットについては虐待してはいけませんから動物虐待罪(動物愛護法第44条第2項)が成立することはありますが、基本的に自分の物を正しく処分する分には罪は問われません。
日野:他人の権利を侵害しない限り、そうなりますね
福島:しかし国旗損壊罪は、自分の持ち物である国旗を損壊しても処罰される。
日野:そういう懸念もあってか自民党は5月の党会合で「お子様ランチの日の丸」が処罰の対象になるか、についてプロジェクトチームを組んで「社会通念上相当」と認められるであろう国旗については処罰の対象外としました。
福島:その「社会通念上相当」というのが極めて曖昧なのです。お子様ランチの日の丸は折っても破っても処罰されない、どうでしょう。本当にそうなのか。
日野:アニメやゲームなどの創作物も「社会通念上相当」と認められるとして、作中で引き裂いたり燃やしたりもまた対象外としました。この「相当」というのが信じられないと。
福島:そのさじ加減は警察や検察の胸先三寸ですよね。これが政治家として、弁護士としての違和感なんです。
日野:戦前に新興俳句弾圧事件という治安維持法による弾圧がおこなわれ、多くの俳人が「作中のこの表現は天皇批判である」などと、特高警察や憲兵のさじ加減、胸先三寸で逮捕された時代もありました。
福島:かつて無季の俳人である渡邊白泉が「戦争が廊下の奥に立つてゐた」と詠んだ戦前のような時代に戻ってしまいかねません。国旗損壊罪の法律案には〈人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法〉とありますが、「人に著しく不快とか嫌悪の情」というのは罪刑法定主義に反します。刑法の処罰は構成要件が明確でなければなりませんから、これでは極めて主観的で危ないと思います。
日野:判断する人によって不快や嫌悪が変わってしまう。
福島:国旗に対する思いって人によってさまざまじゃないですか、好きだから罰しない、嫌いだから罰するというのはおかしい、そういうことなんです。
国旗損壊罪が違憲となるアメリカ
──国旗損壊罪は罪刑法定主義に反する、という懸念は与党内からも上がっています。
福島:国旗を大切に思う国民感情を保護法益とするなら、国旗に対して人がどう思うかはさまざまですから、非常に危うくなってしまう。例えば学校とかさまざまな場所にある国旗を古くなったから捨てるときとか、どう扱うかがとても問題になってしまう。
日野:アメリカに国旗損壊罪はありませんね。
福島:表現の自由が合衆国憲法修正第1条で保障されていますから、個人の内心に関することとしてそういう法律は作られていません。私はこのアメリカ人の姿勢をとても尊敬しています。国旗を燃やすことが嫌悪か愛かはわからないわけで、そのような内心の自由を処罰することは憲法違反なわけです。
日野:アメリカ人だって愛国者だから現行の星条旗が好きとは限りませんからね、南軍旗(アメリカ連合国旗)こそアメリカの旗と思う人もいるでしょうし、テキサスの愛国者の中には一つ星のローンスター(テキサス州旗)こそアメリカであるという人もいるでしょう。
福島:国旗に対する思いもその表現もさまざまです。議員も国会とかで国旗に深々と頭を下げるようになりましたが、あれ、与党も野党も昔はあまりしなかったんですよ。なんとなくみんながするようになって、新人議員もそういうものかとするようになった。
日野:頭を下げることは本人の自由ですが、頭を下げない人を咎めることはおかしいでしょう。
福島:そういう空気というか、いずれ何かすごく大問題になっていくなと。これもまた私の違和感であり、それこそ戦争が廊下の奥に立っている、そう危機感を持っています。そんな個人の内心の自由を抑圧する高市政権は、国民の生活ではなく国家主義的なものが前面に出ている。高市政権は非常に危険な存在だと思います。
憲法を変えるのではなく活かすべき
──憲法改正の手続きなどを定めた国民投票法改正案が可決しました。与野党の賛成多数でした。
福島:結局、高市首相は改憲に挑戦することを明言している。私は絶対改憲すべきじゃないと思っています。むしろ憲法を変えるのでなく活かすべきだと考えています。
日野:現行憲法の一部改正もだめですか。
福島:だってまだその素晴らしい憲法を活かし切れていませんから。同性婚も〈婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。〉とある24条だけでなく、〈すべて国民は、個人として尊重される。〉の13条と〈すべて国民は、法の下に平等〉の14条を活かさなくちゃいけません。
日野:活かせば改憲せずに済むと。
福島:包括的差別禁止法や日本にまだない国内人権機関を作るとか、とくにヘイトスピーチ解消法はさらに活かして大改正して、川崎市の「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」のように罰則を規定するとか、こういう活かす方向で憲法を守るべきです。
(後編へ続く)
【プロフィール】
福島 みずほ/社会民主党党首。参議院議員(5期目)。元・内閣府特命担当大臣。東京大学卒業後、弁護士として選択的夫婦別姓、婚外子差別などに取り組む。1998年初当選。環境・人権・女性・平和を4本柱に活動。現在、参議院外交防衛委員会委員、同・行政監視委員会委員、同・北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会委員。
日野 百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や政治倫理、近現代史のルポルタージュや文芸論、芸術論を手掛ける。一般社団法人日本ペンクラブ広報委員会委員、同・言論表現委員会委員。現代俳句協会会員。MFA(芸術修士)。
