安定の二けた勝利(コロラド・ロッキーズの公式Instagramより)

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残留が決定

 日本時間8月4日午前7時、メジャーリーグのトレードデッドラインが過ぎ、去就が注目されていたコロラド・ロッキーズの菅野智之(36)の残留が確定した。2日後の6日、12勝目をかけて臨んだレイズ戦では6回途中、5安打3失点で降板。6月以降、負けなしの7連勝を挙げていたが、5敗目となった。

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 トレードで先発投手の補強を考えていたフィラデルフィア・フィリーズ、シカゴ・カブス、サンフランシスコ・ジャイアンツなどに探りを入れていた現地メディア関係者によれば、「ロッキーズは、菅野の放出トレードに応じる返答をしていたようだ」という。

安定の二けた勝利(コロラド・ロッキーズの公式Instagramより)

 その通りだとすれば、先発投手の補強を考えていたチームは菅野の獲得を見送ったことになる。もっとも、菅野の放出説が囁かれた当初から同時に伝えられていたのは、「彼を放出したら、ロッキーズは残りのペナントレースを乗り切れるのか」という声だった。実際、菅野が10勝目を挙げた7月24日のブルワーズ戦後、決勝弾を放ったカイル・キャロス(24)は、

「我々を優位なゲーム展開にいつも導いてくれる。これまでもずっとそうしてくれた。マウンドに送るなら、彼以上に相応しい投手はいない」

 と、菅野を称賛していたほどだ。

「菅野は31日(現地時間)、ロッキーズの本拠地クアーズ・フィールドで行われたカンザスシティ・ロイヤルズ戦に先発し、11勝目を挙げました。7回途中1失点で後続にマウンドを譲る際、スタンディングオベーションが起こりました。ファンはこれが見納めだと思ったのでしょう。ベンチに下がった後も次々と選手たちが集まり、ハグを交わしていました。そのシーンを見たときは、てっきりトレード移籍が決まったのだと思いましたが……」(現地記者)

 トレードは実現しなかった。しかし、改めて聞いてみると、今季の活躍と「獲得が見送られた理由」には関連性があることが分かった。

「ここまで19試合に先発登板し、被本塁打数は21。昨季は33本で、ア・リーグのワーストでした。このペースで行けば、昨季とほぼ同じ数の被本塁打を記録するでしょう。昨季の防御率は4.64で、トレードが見送られた時点での防御率が4.47。ロッキーズに来て何かが大きく変わったということではなく、昨季のままといったほうが適切かもしれません」(米国人ライター)

 菅野は昨年9月、4試合に先発したが、勝ち星はゼロ。9月の月間防御率も6点台まで悪化しており、「昨季と変わっていない、被本塁打が多い欠点は解消されていない」となれば、9月に失速劇が繰り返されるのではないかと懸念されたそうだ。

 しかし、昨季のア・リーグワーストの被本塁打王が昨年を上回るペースで勝ちを積み上げてきたのも事実であり、ロッキーズの本拠地クアーズ・フィールドは高地にあるため、本塁打が出やすい球場でもある。なのに“大炎上”することはなかった。その点について、米アナリスト会社も頭を抱えているという。

「菅野が11勝……11勝というと、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸(27)と同じです。最多勝争いでナ・リーグトップは、フィリーズのクリストフェル・サンチェス(29)の14勝。菅野の逆転は決して不可能な数値ではありません」(前出・現地記者)

データの上では…

 米アナリスト会社が「菅野が最多勝争いに加わっている」ことに首を傾げているのは、3つのセイバーメトリクスの数値に注目しているからだ。守備の影響を除いた防御率で、投手のリアルな能力値とされるFIPが5.39。奪三振、与四球、被本塁打から計算され、昨季の大谷翔平(32)は1.90を記録していた。5段階で投手を分別するが、最高位は2.50以下で、「圧倒的な投球内容」となる。2段階目が「2.51から3.50」、3段階目が「3.51から4.20」、4段階目が「4.21から5.00」。

 メジャーリーグの先発ローテーションに入ってくる投手であれば、ほとんどが3段階目の数値までに収まるが、菅野はいちばん低い5段階目の「5.01以上」。FIPでは「改善の余地アリ」の厳しい評価になる。

 また、三振、四球、打球の性質まで加味された「実力反映」の指標であるSIERAでも、菅野は5.11と低い数値になっている。

「米フリーエージェント市場で上位にランキングされる投手のSIERAは2点台で、3点台半ばの投手は30位以下に置かれます。山本はナ・リーグでもトップクラスです」(前出・同)

 山本は昨季、SIERA2.04でナ・リーグトップにも躍り出たことがある。それに対し、菅野は6.00台。この2人が11勝で並んでいるわけだから、米アナリスト会社が首を傾げるのも当然だろう。

「さらにいえば、菅野のQS(クオリティ・スタート=先発投手が6回以上を投げ、3点以下に抑える)率は31.6%、山本は80%です」(前出・同)

 菅野は被本塁打の多さを指摘されると、その度に「まあ、ソロホームランなら」と苦笑いを返しているという。「失点しても最小限なら割り切って受け入れる」という考えに変わったようだが、それだけが「勝てる理由」ではないだろう。

「奪三振数の多い投手は強い打球を打たれるケースが少ないので、セイバーメトリクスの数値も良くなります。安打や四球で走者を出す投手と、走者を溜めてしまう投手を比較すると、ともにゼロで抑えたとしても後者のほうが数値が悪くなります。菅野は走者を溜めても最少失点で抑えようというピッチングです」(前出・同)

「粘り強く」は巨人時代からの投球スタイルである。昨季と球種の割合もほとんど変わっていないが、今季はウイニングショットでスライダーを投じることも多くなったという。昨季は決め球でフォークボールを要求されていたが、ロッキーズでは年長者らしく、自分の意見も言うようになった。

「左打者に対し、スライダーでボールゾーンから外角ギリギリに入ってくるスライダーで見送らせるストライクを取っています。その横に曲がる軌道のスライダーで追い込んだあとに投げるスライダーは、軌道が違います。斜めに落ちてくる、縦の軌道です」(前出・現地記者)

「マネー・ボール」シーズン2

 ロッキーズのポール・デポデスタ編成本部長(52)は今年2月の菅野獲得の会見で、「クアーズ・フィールドではERA(防御率)などの数字より『勝つチャンスを作ること』が大事なんだ。彼はそれをやってくれる」と言い切っていた。

 デポデスタ編成本部長はドジャースでも編成を担当していた時代があるが、ロサンゼルスのメディアは「グーグル・ボーイ」とあだ名し、批判的に見ていた。独自のセイバーメトリクスのデータ解析でMLBを驚かせたアスレチックスの「マネー・ボール」にも関わっており、その仕掛け人だったビリー・ビーン氏(64)の下で編成を学んだ人物である。

「マネー・ボールは、資金力のないチームのやり方」というのがロサンゼルス・メディアの考え方で、デポデスタ編成本部長はドジャース退団後、いくつかの球団を渡り歩き、16年からはNFLのクリーブランド・ブラウンズで「チーフ・ストラテジー・オフィサー」を務めてきた。ブラウンズでの10シーズンの通算成績は56勝99敗1分け。昨年10月、ロッキーズからのオファーを受けて野球界に復帰したのだが、異種目のNFLで得た別視点でのデータ分析法があったのか、同本部長は菅野獲得を強く推した。

 菅野の11勝は「マネー・ボール」シーズン2の序章かもしれない。

デイリー新潮編集部