「卵子がほとんど残ってないので子どもを産むのは難しい」26歳で「早発閉経」と診断されたお天気キャスターの女性(38)が返答に悩んだ“悪気のない会話”
26歳のときに早発閉経の診断を受け医師から「子どもを産めないかもしれない」と告げられた千種ゆり子さん(38)。
【写真】「卵子がほとんど残っていない」と早発閉経の宣告を受け苦しんだ千種さん
女性の100人に1人と言われる早発卵巣不全は「早発閉経」とも言われ、一般的には50歳前後で迎える閉経が40歳未満で来る病気だ。
一橋大学の法学部卒業後、新卒で入った会社で働きながら気象予報士試験に3回目の試験で合格し、念願のお天気キャスターとして働き始めた矢先の衝撃の診断だった。2年前から婦人科に通いながらも、なぜ発覚が遅れてしまったのか。診断を告げられた瞬間の心境について聞いた。(全3回の1回目)

千種ゆり子さん ©文藝春秋 撮影・佐藤亘
◆ ◆ ◆
--いつから体調に異変を感じたのでしょうか。
千種 生理不順に気づいたのは24歳の時でした。新卒で入った東京の会社で働いてた頃で、東日本大震災の影響で仕事が大変で、働きながら気象予報士の勉強もしてたので最初は「ストレスかな?」と思ってました。
--病院などへはいかれたんですか?
千種 生理が3カ月来なかったタイミングで、家の近くの婦人科に行きました。結婚と妊娠の希望を聞かれて「今はない」と答えたら「様子を見ましょう」となってピルを処方されました。
--それで改善されたのでしょうか。
千種 ピルを飲むと月経(出血)があるんですけど、やめると来なくなる。それでもう一回ピルを飲んでみるように言われて、出血が起きたらピルをやめてみて……ということを繰り返してました。なかなか良くならないなとは思ってたんですけど、病院には通ってるし、何かあれば先生が言ってくれるだろうから大丈夫って思い込んでたんですよね。
「涼しいオフィスで作業してるだけなのに、突然パッと体が火照って…」
--そうこうしているうちに、お天気キャスターに合格して青森へ。
千種 2013年に気象予報士試験に合格して、2014年から念願のお天気キャスターとしてNHK青森放送局で働きはじめました。でも青森で働き始めた26歳の夏に新たに体調に異変を感じるようになって。
--どんな異変だったのでしょう?
千種 お天気キャスターの仕事って本番で出演してるのは10分くらいで、1日のほとんどは天気図の解析をしたり自分が話すための原稿を書いたりとデスクワークなんです。でもエアコンが効いた涼しいオフィスで作業してるだけなのに、突然パッと体が火照って熱くなるんです。汗が吹き出してきて、ハンディクーラーで必死に冷やしてると5分くらいでパタッと暑さを感じなくなる。でも少し経つと、また突然体の中から熱が沸き上がってきて……といった感じで猛烈な暑さに襲われるようになったんです。
--症状に心当たりはあったのですか。
千種 全くなかったです。仕事中も気になるくらい不快な症状ではあったんですけど、念願のキャスターの仕事を始めたばかりでしたし、どうにか日々をやり過ごすことしかできませんでした。青森での新生活と新しい仕事に慣れるのに精一杯で、原因を突き止めるエネルギーはなかったですね。
--とするとどうやって原因がわかったのでしょう?
千種 青森に行ってからも婦人科には通っていて同じようにピルで生理を起こしてたんですけど、2年も続けてるのに何も変わらないのはおかしいと思って、病院を変えたんです。家からの近さで選んだ病院だったんですけどそこがたまたま青森で1番不妊治療に詳しいと言われるクリニックで、先生から薦められAMH検査というものをしました。AMH検査とは、卵子のもとになる原始卵胞の残りの数がおおよそわかる血液検査です。
--結果は。
千種 「早発閉経の疑いがあり、卵子がほとんど残ってないので子どもを産むのは難しいかもしれない」と告げられて、子供が産めない絶望感と、やっと原因がわかったという安心感のようなもの、両方に包まれました。同時に、急に暑くなって汗が吹き出してくる現象も、更年期障害でよく聞くホットフラッシュだったとわかりました。
--子どもがほしい気持ちは元々どうだったのですか?
千種 父親がサラリーマンで母親が専業主婦という伝統的な家族構成の中で育ったので、私自身子どもがほしい気持ちは強い方だったと思います。30歳くらいまでに1人目を生んでできれば2人目も……と、いつか子どもを生む人生しか考えたこともありませんでした。
医者の指示をちゃんと守っていたのに…
--通院していたら大丈夫だと思ってしまいそうです。
千種 最初の病院も大きなところだったので、すっかりそう思っていました。でも後から調べると、婦人科によっても得意な領域が違って、それ以外の分野は経験などが少ないこともあるとわかりました。最初の婦人科はお産では有名な病院で、早発閉経みたいに若い女性の疾患にはあまり出会うことが無かったのか……。東京の主治医は、「2年間も効果が出ないピルを続けてAMH検査もしてないのはちょっとおかしい」と言っていました。
--そんなこと患者にはわかりませんよね。
千種 はい。「婦人科にもちゃんと行ってたのに、どうして今までのお医者さんはAMH検査をしてくれなかったんだろう」「もっと早く見つけてくれればこうならなかったのかもしれないのに」ってやり場のない憤りも込み上げてきました。
でも同時に、自分に知識がなくて「AMH検査をしてください」と言えなかったことの後悔も押し寄せて。
--診断を受けて相談できる人はいたんですか?
千種 診断後にはなりますが、まず父にメールで早発閉経のことを伝えてました。母には父から話してもらいました。母は専業主婦で子育てに多くの時間を割いてきた人なので、「娘が子どもを産めないかもしれない」と知ることは、母もつらい気持ちにさせてしまうんじゃないかと思って伝えにくくて。
--お父さまはどんな反応を?
千種 ショックを受けられたら辛いなと思って相談したのですが、「アクセク生きても、ゆっくり生きても人生そんなに変わりません。毎日を燃焼して生きていれば必ず道は開けると思います。」と言ってくれました。そう言うしかないのはわかっていましたけど、やっぱりほっとしました。
--表に出る仕事をしていると誰かに相談するのも難しいですよね。
千種 親以外にはほとんど話しませんでしたね。つらかったのが、年代的にもちょうど周りが結婚して子どもを産み始めているタイミングだったんです。みんなは私が早発閉経で悩んでると知らないので、食事に行けば「結婚は? 子どもはほしいと思ってる?」みたいな話が自然と出ますし、「子どもが生まれて引っ越したから遊びに来て」って普通に誘ってくれるんですよ。
--悪気はなくても耐えられなさそうです。
千種 自分が子どもが産めないかもしれないという事情を説明することもできないし、自分がそうなりたかった姿を目の前にして笑顔でその場にいなきゃいけないのは胸が締めつけられました。「今は耐えられない」と思って友達との集まりを避けてしまったこともあります。
青森では治療が難しく、「東京の病院に行く必要がある」
--早発閉経は診断を受けると治療方法などはあるのですか?
千種 早発閉経の人のための不妊治療というのがあると教えてもらったのですが、青森のクリニックでは知見が足りなくて難しいので、妊娠を目指すならば東京の病院へ行く必要があると言われました。
--ただ、青森で夢だった仕事を始めたばかりですよね。
千種 そうなんです。それに診断を受けたのが3月で次年度の出演は決まっている。そこから降板するとなると迷惑をかけてしまいますし、せっかく歩み出したキャリアだから投げ出さずに区切りまではやりたいという気持ちが強かった。なのでもう1年だけ青森でお天気キャスターをしてから東京に戻ろうと決めて、2016年に東京のキー局に移って不妊治療を始めました。
〈「子どもを産めない自分を受け入れられなかった」29歳で不妊治療を中止したお天気キャスター・千種ゆり子(38)が今も抱える“後悔”とは〉へ続く
(雪代 すみれ)
