「出口」の見えないウクライナとロシアによる戦争。ICU教授のスティーブン・R・ナギさんは(政治学・国際関係学)は「両国に戦争をするための道具や材料を大量に供給しているのが、中国の習近平。自らの手は一切汚さず、戦争が長引き、戦死者が増えるほど儲かる」という――。
写真提供=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ
2026年7月3日、中国の首都北京で、中央軍事委員会(CMC)の習近平主席と別の指導者が、将軍に昇進した2人の軍将校と共に記念撮影 - 写真提供=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ

■なぜ習近平は「死の商人」と呼ばれるか

いまウクライナの戦場を歩くと、驚くべきものが目に入ります。前線の両側に、中国製品があるのです。

ロシアの奥深くでは、工場が中国製の工作機械をうならせ、ミサイルや戦車、砲弾の金属部品を削り出しています。

そのすぐ数百キロ先では、ウクライナ兵が小型ドローンを飛ばし、ロシア軍を偵察し攻撃しています。そのドローンの多くもまた、中国・深圳(シンセン)などの工場の部品でできているのです。

これは偶然ではありません。第2次大戦以来、ヨーロッパ最大の戦争に対する中国の静かな戦略なのです。これを理解すると、なぜ一部の専門家が習近平を現代の「死の商人」、どちらが勝っても儲かる国と呼ぶのかが見えてきます。

そしてこれは、私たち日本にも直接関わる重要な話でもあります。

習近平がロシアに送るもの

2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したとき、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本は制裁でモスクワへの扉を閉ざしました。欧米企業は、ロシアの兵器工場に必要な先端部品を売るのをやめました。一時は、ロシアの兵器製造マシンが止まるかに見えました。

そこへ、割り込んできたのが習近平率いる中国です。

北京は、完成した兵器(戦闘機や戦車、ミサイルなど)をロシアに渡すことは慎重に避けてきました。それは欧米が警告する一線を越えてしまうからです。その代わりに中国が売るのは、もっと目立たないけれど、同じくらい重要なもの。ロシアが自分で兵器を作るための「道具」と「部品」です。

最もわかりやすい例が工作機械です。これは金属部品を精密に削り出す、コンピューター制御の大型機械(CNCマシンと呼ばれる)です。現代のミサイルも、戦車のエンジンも、大砲の砲身も、これがなければ作れません。2022年以降、ロシアがこの機械を中国から輸入する量は爆発的に増えました。つまり中国は、ロシアに「魚」を与えたのではなく、「釣り竿」と「工場」を与えたのです。

ほかにもあります。中国はいまやロシアにとって、半導体、照準用の光学センサー、ドローン用モーター、ベアリング、そして火薬の原料であるニトロセルロースの最大の供給国です。これらは専門家が「デュアルユース(軍民両用)」と呼ぶ品物です。半導体は洗濯機にも、巡航ミサイルにも使えます。このあいまいさこそ、中国にとって好都合なのです。「ただの工業製品を売っているだけ」といつでも言い訳できるからです。

その規模は膨大です。中国とロシアの貿易は過去最高の水準に達し、年間およそ2400億ドルにのぼります。中国はロシアの石油やガスを安く買い、ロシアの経済と兵器生産を支え続けているのです。

■ウクライナに届くもの

このように中国の工具がロシアを武装させる一方で、中国はその技術をウクライナにも渡しています。

例えば、ドローンです。世界最大の小型民生ドローンメーカーは、深圳に本社を置く中国企業DJIです。戦争初期には、両軍とも安価な市販のDJIドローンを使って、敵の位置を偵察したり、小型爆弾を落としたりしていました。DJIはのちに両国への販売停止を表明しましたが、ほとんど意味はありませんでした。ドローンやその部品は、第三国を経由してウクライナに流れ続けたのです。ウクライナでつくられるドローンの小さなモーターや飛行制御装置、特殊な磁石は、多くが中国製です。両軍が同じ井戸の水を飲んでいるのです。

写真=iStock.com/traffic_analyzer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/traffic_analyzer

■その裏にある計算

では、習近平は一体何を企んでいるのでしょうか。答えは、中国が「冷徹に計算している」ということです。この戦争は、多くの意味で中国にとって戦略的な贈り物となりました。非難を浴びずに戦争を長引けば長引くほど、恩恵を得ます。

中国がロシアから安くエネルギーを手に入れられるのは、ほかに買い手がいないからです。ロシアは中国に従属するしかありません。かつては対等な大国だったロシアが、いまや技術も外交も北京に頼る「格下のパートナー」になったのです。

完成兵器ではなく道具を売り、両側に供給しながら、表向きは手を汚さずにいられる。これこそ純粋な「死の商人」の論理です。商人はどちらが勝つかなど気にしません。取引が続くことだけを望むのです。そのあいだも北京は、世界に向けて自らを「平和の仲介者」として演じ続けています。

※割合は、SIPRI TIV: Trend Indicator Value(金額ではなく、装備品の軍事的価値を示すSIPRI独自の指標)に基づく。出典=防衛相

■同じやり方を「日本」に対してもやってくる

さて、こうした状況が日本にどんな影響を与えるのか。それは深刻な内容も含まれています。

中国がウクライナで練習している「やり方」は明日にでも日本とその隣国に向けられうる型(テンプレート)なのです。北京が何を学んでいるかをよく見てください。それは、「一発も撃たずに戦争を左右できる」ということです。必要なのは、工作機械、半導体、ドローンのモーター、そしてレアアース(希少金属)。そうした誰もが依存するものを握り、誰に渡し誰に渡さないかを決めることだけなのです。

もし、台湾や尖閣諸島をめぐる危機が起きれば、日本の工場も、自衛隊も、ハイテク経済も、いかに多くの重要部品が中国の手を通っているかを突然思い知らされるでしょう。ウクライナを苦しめているのと同じ依存が、私たちを縛る可能性があるのです。

中国はすでに、この力を武器として使うことを示しています。圧力をかけたいときに、レアアースやドローン部品の輸出を制限してきたのです。いまロシアとウクライナで試されていることが、本物のアジアの危機が始まる日には、日本、韓国、台湾に向けられるかもしれません。

つまり、ウクライナ戦争は、いつか私たちに使われるかもしれない道具の「実演」なのです。ひとごとのようにニュースを見ていてはいけません。

■日本と友好国にできる3つのこと

では、高市早苗首相と日本のパートナー国は、実際に何ができるのでしょうか。実践的な3つの手立てが浮かび上がります。

第1に、北京を通らない供給網(サプライチェーン)を築くことです。日本はアメリカ、EU、韓国、台湾、オーストラリアと協力し、工作機械、半導体、ドローン部品、レアアース磁石といった重要品目を、信頼できる仲間のあいだで生産すべきです。目的は中国を完全に切り離すことではなく(それは不可能です)、たった一国が日本の経済と防衛の「電気を消す」ことができない状態を作ることです。国内でのドローン生産やレアアース精製への投資は、具体的で急を要する第一歩です。

第2に、制裁の抜け穴をふさぐことです。いま中国製部品は、第三国やペーパーカンパニーを経由してロシアの兵器工場に届いています。日本はG7と連携し、こうした裏ルートを追跡し、違反企業の情報を共有し、一貫した罰則を科すべきです。民主主義国がばらばらに動いていては抜け穴は開いたままですが、足並みをそろえれば、二股をかける北京の代償は一気に高まります。

第3に、ウクライナの教訓をアジアの備えに変えることです。日本はウクライナの経験から直接学ぶべきです。安価なドローンがいかに戦場を変えたか、供給依存がいかに弱点になったか、そして国がいかに素早く適応しなければならないか。

台湾やフィリピンなどのパートナーと、平時の今のうちに技術や訓練を共有しておくほうが、危機が始まってから慌てるよりはるかに賢明です。抑止力は、前もって築くものであって、砲火の下で即席に作るものではありません。

どれも派手な手立てではありません。壮大な演説も軍事パレードもありません。しかし、仲間うちでの静かで着実な準備こそ、北京が最も見たくないものなのです。

(注)資料は、ミリタリーバランス(2025)、Janes Fighting Ships 2024-2025などによる。出典=防衛相

■慌てふためくな、備えよ

中国製の工作機械がロシアのミサイルを作り、中国製のドローン部品がウクライナの反撃を助ける――。この光景は、習近平が21世紀の「力」をどう考えているかを映す窓なのです。

中国は学びました。勝つために、どちらかの側につく必要はない、と。必要なのはただ、誰もが依存する道具、部品、技術を握り、あとは他人に戦わせ、血を流させることだけなのです。習近平の静かな計算は、戦場で何が起ころうと、中国は得をするというものです。

日本とその友好国にとって、答えは恐れでも、慌てふためくことでもありません。それは「備え」です。今、問われているのは日本にいる私たちが同じ教訓を学ぶ気があるかどうか。同じゲームが、私たちに対して仕掛けられる前に。

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スティーブン・R・ナギ国際基督教大学(ICU)教授
マクドナルド・ローリエ研究所(MLI)シニアフェロー兼中国プロジェクト・リード、および日本国際問題研究所(JIIA)のCGOフェロー。著書に『Japan as an Adapter Middle Power: Navigating Ideological and Systemic Divides』(Routledge、2026年)があり、マイク・ローゼンバーグ氏との共著となる近刊『How to Thrive in the New World Order — A Business Blueprint for an Age of Instability』(2027年)も刊行予定。
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(国際基督教大学(ICU)教授 スティーブン・R・ナギ)