(※写真はイメージです/PIXTA)

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電気代や物価の高騰が続くなか、年金暮らしの高齢者を中心に「冷房の使用」をためらう人は珍しくありません。しかし、酷暑に耐えるための無理な節約は、結果的により大きな代償や危険を招くことになりかねません。ある78歳女性のエピソードを通じて、酷暑を安全かつ賢く乗り切る方法を考えます。

78歳女性「電気代が怖い」

昨年の7月上旬、東京都内の住宅街で、一人暮らしの女性が自宅で倒れているのを、近所の住民が見つけました。倒れていたのは、佐々木和子さん(78歳・仮名)。呼びかけへの反応が鈍く、救急隊が到着した時には、室内の温度は35度近くまで上がっていました。エアコンの電源は切れたまま。動いていたのは古い扇風機1台だけでした。

和子さんの年金は月12万3,000円、手取り額は11万5,000円ほど。8年前に夫が亡くなった後、築40年の分譲マンションに住み続けていました。月々の住居費は、管理費と修繕積立金を合わせて2万1,000円。毎月の支出はおおよそ10万円。数字だけ見れば、月に1万〜1万5,000円程度残る計算です。

しかし、実際にはそう簡単ではありません。固定資産税の支払い、冠婚葬祭、家電の故障など、不定期の出費が重なります。預貯金は約180万円ありましたが、和子さんは「これを減らしたら終わり」という感覚を強く持っていました。

春先、電気料金の請求書を見たときのことです。前年より500円ほど高くなっていました。

「たった500円と思うかもしれないけど、年金暮らしには大きいんです。もう電気代が怖い。エアコンでもつけたら、夏場は1万円を超えるかもしれない」

総務省統計局『小売物価統計調査』によると、2025年4月の電気料金は全国平均1万3,528円、前年同月は1万3,130円でした。

わずかな差といったところですが、和子さんが言うとおり、年金が生活基盤となっている高齢者にとっては影響が大きいものです。請求額の上昇をきっかけに、冷房の使用をためらう高齢者は少なくありません。

この年、初めて真夏日を記録したのは6月中旬のことでした。その後、連日のように30度を超えていました。しかし和子さんは極力エアコンは使用せず、朝のうちに窓を開け、日中はカーテンを閉める、首に濡れタオルを巻き、麦茶を少しずつ飲む――といった自己流の暑さ対策を続けていたそうです。ところが7月に入ると、35度を超える日が増えていきました。

それでも和子さんはエアコンをつけませんでした。

「今月はもうギリギリだから、できるところまで我慢してみる」

その言葉を、前日に電話した娘が聞いています。娘は「お願いだから冷房をつけて」と何度も説得しました。しかし和子さんは、「昔はエアコンなんてなくても夏を越せた」と聞き入れませんでした。そして翌日、電話に出ない母を心配した娘が近所の知り合いに連絡し、倒れているのが発見されたのです。救急搬送先の病院で、和子さんは軽度の熱中症と診断され、点滴治療のため4日間入院することになりました。

節約の代償は「5万7,000円」

退院後、病院から届いた請求額は4万6,800円。高額療養費制度の対象にはならない水準でした。さらに、救急搬送後に処方された薬代が6,000円、自宅療養中に利用した配食サービスが4,500円。合計すると、約5万7,000円の出費になりました。

和子さんは請求書を見ながら、こう漏らしました。

「エアコンを我慢して浮かせたかったのは、せいぜい月3,000円か4,000円。それなのに、一度倒れただけで5万円以上。何をしていたんだろうね」

実は、和子さんのエアコンは故障していたわけではありません。10年以上前の機種でしたが、問題なく動いていました。娘が電力会社の料金シミュレーションを確認したところ、28度設定で1日8時間使用した場合でも、1ヶ月の追加負担は3,500〜5,000円程度と見込まれました。

もちろん、使用時間や機種によって差はあります。それでも、和子さんが恐れていた「月1万円を超える電気代」にはならない可能性が高かったのです。

退院から2週間後、和子さんの部屋には新しい温湿度計が置かれていました。娘が購入したもので、室温が28度を超えると警告音が鳴る仕組みです。和子さんは、警告音が鳴るたびにエアコンをつけるようになりました。ただ、スイッチを押す瞬間には、今でもためらいがあるといいます。

「やっぱり、『電気代が上がる』と、頭に浮かぶんです」

消防庁によると、7月13日〜7月19日までの全国の熱中症による救急搬送人員は1万857人。そのうち6割以上が高齢者です。また、家の中で熱中症になる人も4割を超えています。

暑さを我慢する節約は、医療費という別の形で家計に跳ね返ってくることもあります。そうなると本末転倒です。自治体によっては、高齢者世帯へのエアコン購入補助や電気料金支援を実施しています。このような制度も活用して、今年の酷暑も乗り切りたいものです。