スバルは日本市場で復権できるか、主力SUVフォレスター試乗で見えた確かな商品力と国内販売戦略に残る弱点

フォレスター X-BREAK S:HEV EXのフロントビュー(筆者撮影)
日本の乗用車市場における2026年上半期(1〜6月)の販売実績が最も低調だったスバル。トヨタ自動車やダイハツ工業からのOEM(相手先ブランドによる供給)を除いた自社モデルの販売台数は3万5400台、前年同期比14%減というスコアも国内乗用車メーカー8社中ワーストだった。
スバルはその理由として生産が低調だったことを挙げる。電動化戦略の柔軟性を高めるため、主力生産拠点のひとつである矢島工場で、既存ラインをエンジン車・ハイブリッド車とBEV(バッテリー式電気自動車)の混流生産に対応させる改修を行った影響で、一時的に供給が滞ったというのだ。
北米販売は回復基調、それでも日本で苦戦が続くスバル
実際、矢島工場の生産減の影響は日本だけでなく世界に及んだ。
特に米国では第1四半期(1〜3月)の販売台数は前年同期比マイナス15%の大幅減となった。しかし、改修の影響が和らいだ今年の第2四半期(4〜6月)は前年同期比6.8%増と販売台数が大幅に増加。このペースだと第3四半期(7〜9月)には年初からの累計でも前年比プラスに転じる公算が大きい。
スバルの最大市場である北米では平均在庫日数が業界平均より大幅に少ない状態が続いており、大幅値引きをせずとも売れることからインセンティブ(販売奨励金)も低水準に抑制されている。スバル車の人気は衰えていないのだ。
それに対し、矢島工場の改修だけでは説明がつかないのが日本の販売減。一部モデルは需給がタイトになっているが、ほとんどのモデルのリードタイムは見込み生産をやらないスバルの標準である2カ月に収まっている。クルマの供給を増やせばその分だけ販売が伸びる北米とは事情が異なるのだ。
9年前の2017年、スバルは第5世代「インプレッサ」がヒット作となったことで過去最高の14万台以上を売った。だが、同年秋に発覚した完成検査不正を境に販売が減少。コロナ禍以降、OEMモデルを除くと一度も年間10万台の大台を回復できていない。
スバルにとってこの現状はいささか寂しいものであるばかりでなく、同社の販売の8割近くを北米市場が占めるという単一市場への過度な依存を解消するメドが立てられていないことも意味する。
日本での復権はスバルにとって是が非でも果たしたいところだが、今のスバル車は日本で勝ち筋を見いだせるのだろうか。昨年(2025年)4月にリリースされ、同年12月に決定した「2025─2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」で大賞を受賞した主力SUV「フォレスター」のロードテストを実施した。
スポーツモデルから実用SUVへ、フォレスターが歩んだ30年
フォレスターはスバルの軸足が日本から米国に移っていく様を如実に体現したモデルだ。第1世代が発売されたのは1997年。当時WRC(世界ラリー選手権)で活躍していたスポーツモデル「インプレッサWRX」をそのままクロスオーバーモデルにしたようなキャラクターで、デビュー当初は全車ターボエンジンだった。
第2世代はキープコンセプトだったが、2007年末に登場した第3世代は、米国市場を狙い背の高いSUVに大きくキャラクターチェンジ。第4世代までは高出力エンジンをラインアップしていたが、第5世代では200馬力を超えるエンジンがなくなり、実用一点張りの庶民派SUVとなった。
現在販売されている第6世代はその第5世代の流れを汲む。目新しいのはトヨタの基盤技術を使ったストロングハイブリッド「S:HEV」が搭載されたこと。そのうえで1.8リットルターボエンジンの低価格グレードも用意するという二段構えの戦術を取っている。駆動方式は全車AWD(4輪駆動)である。
ロードテスト車はストロングハイブリッドの「X-BREAK S:HEV EX」。税込み車両価格は452.1万円だが、テスト車にはハーマンカードンのプレミアムオーディオとサンルーフが追加装備されており、それらを含めた価格は474.1万円。走行ルートは北関東一円で総走行距離は416.9km。乗車人数は1〜2名、空調はAUTO設定とした。

フォレスター X-BREAK S:HEV EXのマスク。ヘッドランプは先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビームが仕込まれているが、その判断や応答性の高さは特筆すべきものがあった(筆者撮影)
ではレビューに入る。まずは第6世代フォレスターの総合的印象だが、一般的な付加価値要素に関しては正直、取り立てて見るべき部分は少ない。
デザインは華美な演出が花盛りの今日においてはかなり地味なほうであるし、車内も特別な上質感があるわけではない。194馬力というS:HEVの合成出力も現代のハイブリッドとしてはごく一般的なもので、ライバルを出し抜くような速さは持ち合わせていない。乗り心地はかつてスバル車の美点のひとつだったが、競合モデルが著しい進化を果たした今日ではごく平均的である。

フォレスター X-BREAK S:HEV EXのリアビュー。この角度から見てもひと目でスバルと認識させる識別点は少ない(筆者撮影)

スバルのアイデンティティであるシンメトリカル(左右対称)AWDのエンブレムが車体後側方に付く(筆者撮影)
いかにも特徴のない凡庸なモデルのようにも感じられるのだが、実はフォレスターの神髄はそういう表面的な部分とは別のところにある。
視界の良さ、運転のしやすさ、車内の居住感や荷室の使い勝手といった、表面的な性能や演出に比べて目立たないがクルマを目いっぱい使い倒すユーザーにとっては大変重要な項目の作り込みは実に素晴らしいものがあった。

フォレスター X-BREAK S:HEV EXのサイドビュー。強調されてはいないがグラスエリアの広さはこのクラスとしては最大級(筆者撮影)
カメラに頼らず死角を減らす「驚異の視界性能」
もう少し具体的にフォレスターの美点について述べてみよう。まずは運転のしやすさや安全性に直結する視界の良さだ。
車体を側面から見ると、エンジン全高が低く、かつ後方に傾けて搭載される水平対向エンジンの効用でボンネット後端の高さが低く抑えられていることが見て取れる。ドアガラスの下端はその低いAピラー(フロントガラスとサイドウィンドウの間にあるルーフを支える左右の柱)の付け根からさらに下向きに弧を描くようなライン。窓ガラスの面積をできるだけ広く取るための措置だろう。
SUVをスタイリッシュに見せるため、多くのメーカーは車体の上半分をどれだけ薄く見せるかということに腐心しているが、フォレスターは分厚く見えることをまったく意に介していないようなプロポーション。スタイルより機能を優先させるスバルらしさがにじみ出ている部分である。
室内から見ると、単に窓ガラスの下端を下げているだけでなく、Aピラーとドアミラーの位置関係に工夫を凝らし、斜め前方の死角を徹底的に削減する努力が払われていることが分かる。視界の向上に寄与しているのは斜め後ろ方向、後ドアとバックドア間の側面に設けられるリヤクォーターガラスもしかりで、振り向いた時の見切りや死角の小ささは同クラスのSUVの中で最も優れたものであった。

運転席から助手席側を俯瞰。高強度部材でピラーの断面積を減らすだけでなく、運転席から見た時に被覆率が最小になるように設計されているという(筆者撮影)

後席後方のリアクォーターウインドウは面積自体十分に広いが、運転席から見てガラスにかかって見えないような ピラーの切り方にするなど、実効性の高い仕様策定がなされていた(筆者撮影)
スバルは日本メーカーの中でもとりわけ視界にこだわる傾向があるが、それは同社が標榜している“雪国総合性能”が深く関わっていると考えられる。
筆者は冬季に豪雪地帯でロードテストをたびたび行ってきたが、雪の降りが強かったり湿った雪が降っているときはレーダー、ソナー、カメラなどの先進安全システムが着雪で簡単にダウンする。その際に重要になるのが、ドライバー自身が得られる直接視界だ。
最近はカメラがあるから視界はそこそこに確保してデザインを優先させるというクルマ作りが多く見受けられるが、現実の運用ではそれが障害になる。日本のみならず米国でも積雪地帯でスバル車のシェアが高くなる傾向がある。温暖期のロードテストではあったが、さもありなんという感があった。

運転席から見たAピラーまわりの視界。ドアミラーとピラーの位置関係を含め、死角の削減が徹底されているのが印象的だった(筆者撮影)
後席も荷室も使いやすい、レジャーで真価を発揮する実用性
車内の居住感も優れていた。窓が広いことに加えて後席の着座高が前席よりかなり高く取られているため、後席も開放感が非常に高い。4名乗車での長時間のドライブを快適にこなすのに重要なポイントだ。
後席の着座位置を高く取ると荷室容量が少なくなる傾向があるが、フォレスターはその制約がありながら十分な奥行きが確保されていた。

フォレスター X-BREAK S:HEV EXの後席。十分な広さを確保しつつ座面を前席よりかなり高い位置に置いており、眺望に優れる(筆者撮影)
それに加えてロードテスト車のX-BREAKには荷室に大荷物を滑り込ませるのに便利なスライドレール(ラゲッジスムーザー機能)が仕込まれていたが、実際に使ってみたところ、これが想像以上に便利だった。今回載せたのは家具などだったが、レジャー用品や登山用具、大型の釣り具などを積載するのにも大いに役立つだろう。

X-BREAKは荷室の床に大型・重量物を積み込みやすくするスライドレール(ラゲッジスムーザー機能)が標準装備されていた(筆者撮影)

家具類を荷室に積んで輸送。荷室の床に仕込まれたラゲッジスムーザー機能が便利(筆者撮影)
一方で取りこぼしもあった。最も気になったのはダッシュボード中央の縦型ディスプレイで、CPUのパワーが足りていないのかコマンドの入力に対する反応が遅く感じられた。
カーナビのボイスコマンドはGoogleアシスタントやAlexaのようなAIによる文脈判定能力を持たない旧式なタイプで、ボイスコマンドの正確性や地図データの更新状況にも不満が残った。
もう一点、オプションのスライディングルーフはガラスのスペックが低かったのも減点部分。猛暑でなくとも夏の直射日光を浴びるとそれだけで暑い。シェードを閉めずともある程度耐えられるようなガラスを選択してほしいと思ったところだ。
その他、細かい部分の難点もあったが、バカンスエクスプレスとしての使いやすさが圧倒的という美点はそれらを気にならなくさせるのに十分だった。

フォレスターのインストゥルメンタルパネルはフル液晶タイプ。古典的な円形メーターのデザインにすることもできる(筆者撮影)

センターディスプレイの上端にはエンジンオイルの温度を表示させることも可能。オイルクーラーの性能が高く、ハイブリッド走行時にエンジンが停止するとたちまち温度が下がる(筆者撮影)
実燃費19.9km/リットル、新型フォレスターS:HEVの実力を検証
経済性、走りに関しては旧型の第5世代に設定されていたマイルドハイブリッドから大幅な性能アップを果たしていた。
水平対向4気筒2.5リットルミラーサイクルエンジンの最高出力は160馬力と、トヨタのハイブリッド用2.5リットルエンジンの177馬力に比べてアンダーパワーだが、194馬力という電気モーターとエンジンの合成出力は1.7トン台という重めの車体を軽快に走らせるのには十分だった。

パワーソースは2.5リットル水平対向4気筒+2モーターハイブリッドのS:HEV(筆者撮影)
AWDシステムは機械式で、駆動力を前60:後40の割合で配分し、状況に応じて100:0〜50:50の間で変化させるというもの。
だが、ドライ路面の一般道や高速道路を普通に走っている分にはその変化が体感されることはほぼない。雪道や泥濘路への適応性についてはすでに高い評価を得ているので、S:HEVのシステムもそういう過酷なコンディションにおいても有効性を発揮するものと推察された。
燃費は旧型のマイルドハイブリッド版のe-BOXERに比べて大きく向上した。高速2、郊外路4、市街地4の割合で走行した後の満タン法燃費は19.9km/リットル。同条件で走ったわけではないのであくまで参考だが、過去のロードテストの実感に照らし合わせると、旧型のマイルドハイブリッドe-BOXERの場合14〜16km/リットルで推移したであろうところ。
第6世代の販売比率はS:HEVが2、ターボが1であるという。40万円前後高価であるにもかかわらずS:HEVのほうが販売で優越しているあたり、スバルユーザーの多くが燃費向上を求めていたことの証左であろう。
“知る人ぞ知る”では届かない、スバルが日本で変えるべき「売り方」
現状、日本のスバル車ラインアップの中ではBEVの「トレイルシーカー」の次に平均価格が高いフォレスターだが、商品力自体は十分以上に良い水準にあると思われた。だが、それだけで日本のマーケットにおけるスバルのプレゼンスを上げる材料になり得るかというと話は別だ。
動力性能やデザインなど、ユーザーが直感的につかみやすい部分については地味というのは、実はスバルの本来の立ち位置である。
「レガシィRS」やインプレッサWRXをはじめとするハイパワーモデルが同社のイメージリーダーとなっていたバブル期から2000年頃までがむしろイレギュラー。目立たないが深雪路や泥濘路といったハードなコンディションを乗用車で黙々と乗り越えるクルマ、デザイン上の華やかさより滑るような乗り心地を味わえるクルマこそがスバルの身上だったのだ。

フォレスター X-BREAK S:HEV EXの前席。撥水シートなどアウトドアでの使用を考慮した仕様となっている(筆者撮影)
そのような“知る人ぞ知る”というキャラクターは、年間走行距離が短く、クルマに華やかさや、所有すること自体の満足感を求めるユーザーが多い日本市場とは、すこぶる相性が悪い。
その日本で年間販売を15万台、20万台と伸ばしていくには、スバルと相性が良さそうな、クルマをレジャーに積極的に活用する層に訴求し、他銘柄からの乗り換え需要を取り込んでいく必要がある。
スバルの営業部門は、こうした仕掛けを伝統的に得意としてきたとは言い難い。だが、北米市場への偏重を是正するには、北米での販売を減らすのではなく、日本を含む他市場を増やすしかない。チャレンジしなければならない時期が来ているのである。スバルの次の一手が注目されるところだ。
筆者:井元 康一郎
