売れてない、でも満足度高い。iPhone Airはユーザー、Appleにとってどういう存在なのか?
iPhone Airという製品を、みなさんはどう見ているでしょうか。今回は「なぜAppleを選ぶのか」というこの連載のテーマを、この一台に絞って考えてみたいと思います。
正直に書くと、iPhone Airは数字の上ではヒット商品とは言いにくい製品です。昨年9月に発売されて、その翌月の10月には減産報道が出ていますし、取材でさまざまな人の話を聞いても、「よく売れている」という声はあまり聞きません。
ただ、自分はいま、冒頭の写真にあるようにiPhone 17 Pro MaxとiPhone Airの2台持ちで生活していて、メインで使っているのはiPhone Airの方です。バッテリーもカメラもディスプレイも、スペックで言えばiPhone 17 Pro Maxが上。それでも毎日ポケットに入れて出かけるのはAirなのです。なぜそうなるのか。そこに、いまのAppleらしさが詰まっている気がしています。
薄さを追求するために再設計したiPhone

iPhone Airの最大の特徴は、言うまでもなくその薄さです。厚さは約5.6mm、重さは165g。手に取ると、スペックの数字以上のインパクトがあります。「軽い」よりも先に「薄い」が来る。この感覚は、既存のiPhoneのどのモデルとも違います。

そしてこの薄さは、単にバッテリーを減らして削っただけのものではありません。
象徴的なのが、背面上部のプラトー部分です。チップをはじめとする主要な部品をこの一角に集約することで、本体そのものの薄さを実現しています。カメラの出っ張りとして見られがちな部分が、実は設計の要になっている。既存モデルの延長線ではなく、薄型化という一点に向けて内部設計をやり直した製品と言っていいでしょう。
フレームにはチタンが使われています。チタンといえば、iPhone 15 ProやiPhone 16 Proに採用されていた素材です。iPhone 17 Proがアルミ一体成形のユニボディに変わったいま、その系譜を受け継いでいるのがAirだというのは、この製品の立ち位置を象徴している気がします。素材にまで妥協のない一台なのです。
売れ行きとは対照的に、使っている人は満足している
おもしろいのはここからです。売れ行きの話とは対照的に、実際にiPhone Airを使っている人の満足度は総じて高いのです。「次もiPhone Airが欲しい」。それくらい気に入っている人の話を、取材の中で何度も聞きました。
GetNavi webで以前掲載されたレビューでも「薄さと軽さがもたらす高いポータビリティは、日常の持ち歩きで大きな利点」と評価されています。
数が出ていない製品なのに、手にした人の満足度は高い。この構図は、道具として考えると少し不思議です。ただ、思い当たる理由はあります。iPhone Airは「万人向け」を最初から狙っていない製品だからです。カメラを何よりも重視する人、バッテリーの持ちを最優先する人には、明確に向いていません。
そして薄さという価値は、少しおもしろい性質を持っています。もちろん、発表の時点から「この薄さが欲しかった」という人もいます。一方で、スペック表の「約5.6mm」という数字だけではピンとこなかったのに、店頭や誰かのiPhone Airに実際に触れて、初めてそのよさに気づいたという人も少なくありません。
数字では伝わりにくいのに、一度手にすると伝わってしまう。刺さる範囲は狭いけれど、刺さった人には深く刺さる。そういう製品なのだと思います。
バッテリーの持ちは、正直よくない
いいことばかり書くのはフェアではないので、はっきり書いておきます。iPhone Airのバッテリーの持ちは、正直よくありません。
これは2台持ちをしているとなおさら実感します。iPhone 17 Pro Maxのバッテリーの持ちは本当によくて、それに比べるとAirは明らかに心もとない。
自分はもともとモバイルバッテリーを持ち歩く習慣がありますが、Airをメインにしてからは、外で仕事をする日には必須の存在になりました。薄さと引き換えにバッテリー容量が小さくなっているのだから、当然と言えば当然ですが、ここを許容できるかどうかが、iPhone Airを選べるかどうかの分かれ目だと思います。
折りたたみiPhoneへの布石なのか
もうひとつ、iPhone Airを見ていて考えてしまうのが、薄型化技術の「その先」です。
折りたたみスマートフォンは、開いた状態の薄さがそのまま使い勝手に直結します。薄型のスマートフォン二台を並べたようなものを折りたたみとしたときに、折りたたんだときの厚みを許容できるものにするには、一台あたりの薄さを極限まで詰める必要があるからです。
iPhone Airで確立した薄型設計が、将来の折りたたみiPhoneにつながっていくのではないか。これはあくまで自分の推測ですが、そう考えると、iPhone Airは単発の実験機ではなく、次への布石にも見えてきます。

AppleがiPhone Airを出した意味
ここ数年、Appleに対しては「イノベーションがなくなった」「毎年代わり映えしない」という批判をよく目にします。たしかにiPhoneは、毎年順当なアップデートを重ねていれば、それなりに売れ続ける製品です。商売として考えれば、その方が確実でしょう。
では、Appleが尖った製品を出したらどうなるか。iPhone Airに対して今度は、「カメラがシングルだから」「スピーカーがモノラルだから」という声が上がります。保守的なら保守的だと言われ、挑戦したら挑戦したで足りない部分を指摘される。考えてみれば、なかなか厳しい立場です。
でも、これは当たり前のことでもあります。すべての人を満足させる製品は、そもそも作れません。そして、あらゆる批判を避けようとすれば、行き着く先は「誰の不満も買わないかわりに、誰の心にも深く刺さらない製品」です。平均点の製品は批判されにくい。でも、誰かがそれを理由に選ぶこともまた、少ないのです。
逆に言えば、iPhone Airに具体的な批判が集まるのは、この製品の輪郭がはっきりしていることの裏返しでもあります。何を捨てて、何を取ったのかが明確だからこそ、捨てられた側の機能を大事にしている人からは声が上がる。批判の存在そのものが、この製品が「何かに全振りした」ことの証明になっているとも言えます。
思い返せば、Appleはこういうことを何度もやってきた会社です。初代MacBook Airは、封筒から取り出すというあの演出とともに、世界に衝撃を持って迎えられました。ただ同時に、値段の高さやポートの少なさへの批判も少なくありませんでした。それでも「薄くて軽いノート」という価値を貫いた結果、あのかたちは後のノートPCの標準になっていきました。
もちろん、Appleの挑戦がすべて実を結んできたわけではありません。鳴り物入りで登場しながら、静かに姿を消していった製品もあります。Appleといえども、成功もすれば失敗もする。ただ、失敗を恐れて挑戦をやめてしまえば、MacBook Airのような「後の標準」も生まれなかったはずです。尖った製品の評価は、出た瞬間には決まらない。Appleの歴史は、その繰り返しでもあります。
iPhone Airがどの道を辿るかは、まだわかりません。ただ、全員の平均点を狙うのではなく、「薄さに価値を感じる人」という新しい誰かのために一台を用意し、批判が出ることをわかったうえで世に出した。カメラやバッテリーを重視する人には、ちゃんと別のモデルが用意されています。ラインナップ全体で全員に応え、一台一台は誰かに深く刺さるように作る。この設計思想こそ、自分がiPhone Airに惹かれている一番の理由なのだと思います。
完璧ではない製品だが、ロマンがある
そして実際に薄いスマートフォンを毎日持ち歩いてみて、特に感じるのはズボンのポケットに入れたときの干渉の少なさです。座ったとき、歩いているとき、ポケットの中でスマートフォンの存在を意識する場面が明らかに減りました。普段使いのサイズとして、これは絶妙なバランスだと思います。

しかも、実際に使っているとディスプレイがiPhone 17 Pro Maxに比べて極端に小さいとは感じません。大画面の見やすさは確かにPro Maxの魅力ですが、Airの画面で不便を感じる場面はほとんどない。「薄くて軽いのに、使い勝手は犠牲になっていない」。この感覚が、自分がメイン機をAirにしている理由です。
製品として完璧かと聞かれれば、そうではありません。でも、この製品にはロマンがあります。バッテリーを犠牲にしてでも、ここまで薄くしてみせる。その割り切りの潔さに、思わずニヤッとしてしまうのです。
そんな尖った製品を、Appleがメインのラインナップに並べてくる。最近のAppleからは、そういう変化の兆しを感じています。順当なアップデートを丁寧に積み重ねる時期が続いたからこそ、iPhone Airのような一台が出てきたことに、自分は「またこういうものを作り始めたのか」という期待を持っています。
先日、iPhoneは日本で値上げされました。円安などの影響とはいえ、標準モデルでも10万円台半ばからという価格は、もう「なんとなく」で選べる金額ではなくなりつつあります。だからこそ、これからは「なぜこれを選ぶのか」が、いっそう問われる時代になるはずです。その問いに対して、明確な理由で応えてくれる製品があるかどうか。iPhone Airの存在は、Appleを選ぶ理由をひとつ増やしてくれたと自分は感じています。
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