「大変ですよ…“水商売の駆け込み寺”が潰れたわけだから」 決済代行「全東信」倒産が“夜の街”に衝撃を与えた本当の理由
週刊新潮には、かつて《CLUB》欄という見開き2頁の連載があった。東京・銀座を中心に、日本全国、夜の街のあらゆる話題を取り上げるルポだ。「飲食店の脱税をチェックするため、税務署職員が毎週欠かさず読んでいた」との“伝説”を生んだ人気連載である。いまは亡き名コンビ、岩本隼・國安輪記者によって1976年にスタート。その後、福島清茂・野村健記者が引き継ぎ、1997年に1076回で連載を終了した。
そんな《CLUB》欄が、もし、いまあったら――まちがいなく、この話題を取り上げていただろう。以下、先輩記者に敬意を表し、1回限りの復活《CLUB》欄をおとどけする。
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「カードだめなの? じゃほかへ行くよ」
7月初旬のある夜、サラリーマンのA氏(50代)は、池袋で行きつけの某チェーン居酒屋に入った。すると、いつもニコニコ顔で迎えてくれる店長が、半ば泣き顔で「あの〜、いまクレジット・カードが使えないんですが、お会計は現金でよろしいですか?」と聞いてきた。

たまたま持ち合わせがあったので、A氏は「大丈夫だよ」と、いつものカウンターに陣取り、ホッピーを呑み始めた。
すぐ後ろが入口だったので、次々とお客が入ってくる様子がわかる。そのたびに店長が「カードが使えないんですが……」と、確認している。見ていると、「現金OK」と、そのまま入店するお客もいるが、「え〜カードだめなの? じゃ、ほかへ行くよ」と引き返す客もけっこういる。
A氏は店長に「たいへんだね。おたく、例の〈全東信〉だったの?」と聞いた。
「そうなんすよ〜。うちは系列店も入れると都内に10数店舗あるんですが、カード決済は〈全東信〉だったんです……ここ数日まいってます。QRコード(PayPay)決済は大丈夫なんですが、うちあたりは年輩のお客様が多いので、カード決済が8割でした。未入金もウン百万円になりそうで……」
クレジット・カード決済代行会社〈株式会社 全東信〉(本社・大阪市)が7月6日に自己破産し、即日、大阪地裁により破産手続きが開始された。負債総額は1259億円。2年前、違法悪質店に決済端末を設置して社員が逮捕される事件を引き起こし、急速に信用を落としていた。それ以前から粉飾決算がつづいていたとの報道もあり、今回の倒産で、全国2万店への未入金は総額53億円にのぼると見られている。
そんな今回の騒動で、カード決済の“内幕”を初めて知った方も多いようである。現に上記のチェーン居酒屋でA氏が目撃したなかに、「え? VISAが倒産しちゃったの?」と勘ちがいしている客がいたという。
そもそもカード決済とは、どういう仕組みになっているのか。ある金融機関で、カード関係の部署に勤務した経験のあるBさんに、説明してもらった。
カード決済システムに関与する「5者」とは
「カード決済システムには、5者が関与しています。(1)利用者(お客)、(2)加盟店(お店)、(3)カード発行会社(三井住友カード、楽天カードなど)、(4)決済代行会社(GMOペイメントゲートウェイ、SBペイメントサービス、全東信など)、(5)ブランド・ネットワーク(VISA、Mastercardなど)です」
ここでよく誤解されるのが、(5)ブランド・ネットワークの存在だという。
「VISA、Mastercardという名前の会社がカードを発行しているように思われがちですが、彼らは、あくまで国際的なネットワークを貸し出しているだけです。たとえば、通販のamazonには〈Amazon Prime Mastercard〉があります。これを実際に発行しているのはamazonではなく、〈三井住友カード〉です。決済の際にMastercardのネットワークを利用するので、その名前が印字されているのです。ただし、American ExpressやJCBのように、1社でカード発行会社とネットワークを兼ねているところもあります」
ショッピングや飲食店でカードを利用すると、瞬時に、お店からネットワークを通じて、カード発行会社に確認情報が飛ぶ。盗難ではない正規カードか、有効期限内か、利用限度額内か――以上3点でOKであれば〈承認〉が出て、取引成立となる。次は、実際の代金の流れだが、
「お店から送られてきた金額データに基づき、決済代行会社は手数料を差し引いた金額を立て替えて、お店に振り込みます。後日、利用したお客の口座から利用金額が引き落とされ、決済代行会社に支払われます。手数料は、カード発行会社、決済代行会社、ネットワークの3社に分配されます」
この手数料は、決済代行会社や契約条件によって様々なのだという。
「安い会社で2%前後というところもありますが、おおむね3.0〜3.5%くらいでしょう。そのほか別途、決済代行サービス利用料も必要で、月額5000〜1万円くらいかかります。振込手数料やシステム運営費もとられる。要するにカード決済ビジネスは、意外と利益が少ないのです。いまでも“カード不可、現金のみ”のお店があるのは、そのためです。しかし、このキャッシュレス時代にそんなこともいっていられないので、どこも我慢したり、手数料分を見込んだ定価設定にしたり、あるいはランチや低金額ではカード不可にするなど、あれこれ工夫しています。時折、独自の手数料を乗せるお店があります。これは法律違反ではありませんが契約違反なので、発覚すると加盟店解除になります」
そして問題なのは、決済代行会社からお店への、代金の立て替え振込みだという。
「どこも入金は、おおむね1カ月か1カ月半ほどあとになります。大きなお店であれば平気でしょうが、個人経営で、日銭の自転車操業でやっている店にとっては、きついでしょう」
そこを突いたのが、〈全東信〉だった。
「〈全東信〉は、月に6回という、超短期入金なのです。最短で4日後入金サービスもありました。そのため中小店にとっては福音で、一時期、20万店もの加盟があったほどです。ただし手数料は個別見積りで高め。契約条件によって、3.0%から最大5.0%までの幅がありました」
それだけ引かれても、とにかくキャッシュをすぐ入金してくれる〈全東信〉は、ありがたかった。だが実態は、違法悪質店契約問題、資金繰りの悪化で、近年、危機的状況がつづいていたのだ。
ところで、この騒ぎで、おそらく日本でもっともカード決済店が集中していると思われる銀座では、どういうことになっているのだろうか。
銀座の老舗バーにも「月額利用料0円!」のチラシが……
「うちは〈全東信〉ではないので、難を免れました」と、冷静な表情で語るのは、銀座の某老舗バーのマスターである。
「銀座には約1000店舗のクラブやバーがありますが、大半が〈一般社団法人・銀座社交料飲協会〉(GSK)に加盟しています。その多くは、ここが推奨する安定した決済代行会社に加盟しているので、〈全東信〉被害を免れていると思います。またGSKは、独自に〈株式会社銀座カードサービス〉という会社も運営しており、カード会社とお店との契約やトラブルをサポートしてくれるんです」
それでも〈全東信〉被害にあっている店がないわけではない。
「近くの寿司屋では、入口に“カードご使用になれません”の貼り紙がありました。そういう店を助けようと、いま、難をのがれたクラブのママさんが、現金を握りしめて食事や同伴に利用してあげているようです」
〈全東信〉被害にあったカフェ・バー経営者の話。
「〈全東信〉の決済端末が不通になったのは、7月6日からでした。最初は通信ネットワークの不調かと思って、隣りの店に様子を尋ねたら、そこは大丈夫だという。聞いたら大手銀行系列の決済代行会社〈JMS〉でした。てっきり〈全東信〉の端末故障か通信不備だと思い、お客様に現金のお会計をお願いしました。幸い全員が現金で応じてくださったので助かりました。しかしまさか“倒産”だったとは……それ以前1週間ほどの売り上げは未入金のままです」
ここは、従業員も少ない小規模なお店なので、なんとか乗り切れそうだという。だが、多くのホステスを抱え、売上げも多く高い家賃を払っているクラブでは、なかなかそうもいかないようだ。あるミニ・クラブの雇われママさんの話。
「うちはGSK推奨の決済代行だったので大丈夫でしたが、すぐにGSKからメールが来ました。『カード決済端末緊急対応します!』とあり、『〈全東信〉に加盟していた場合、新たな決済代行会社を紹介します』『通常、切り替えに1カ月以上かかりますが、今回は特例として簡易型決済端末をすぐに導入できます』とありました。さらに『GSK会員様は、日本政策金融公庫の融資制度をご利用の際、会員優遇金利の対象となります。資金繰り等でお困りの場合は、こちらもご活用ください』とも。銀座でカード決済にまつわるこの種の騒ぎが起きたのは、初めてではないでしょうか。そもそも銀座のクラブで現金会計をやっていたお店なんてあまりないでしょう。被害にあったあるお店は『毎日、おつり用のピン札を準備するのがたいへんで……』とぼやいていました」
そしていま、銀座の飲食ビルの郵便受けに、やたらと、ある種のチラシが毎日入っている。別の決済代行会社の勧誘チラシである。その1枚には、
〈手間なく簡単導入! 毎日入金サービスあり。決済手数料2.38%〜。初期設定費用・決済端末レンタル料・月額利用料(通常1980円)→すべて0円!〉
と、まことにおいしい条件が並んでいる。いま日本中で、〈全東信〉旧加盟店が新たな決済代行会社を探しているとあって、他社は勧誘に必死のようである。ところが……。
“水商売の駆け込み寺”だった〈全東信〉
「新宿で小さな深夜営業バーをやっている知人が、〈全東信〉被害にあいました。ところが、新しい決済代行会社に申し込んだものの、審査に通らなくて困ってるそうなんです」(銀座の老舗バー・マスター)
実は、〈全東信〉倒産で、未払いもさることながら、これが最大の問題なのだという。先の某金融機関B氏の話。
「〈全東信〉は、1980年代に発足した、大阪ミナミの飲食店や風俗店の互助組合がルーツなのです。その後、カード決済代行事業に進出し、〈全東信〉となって全国展開しました。その際、深夜営業や風俗系、実績のない新規店など、本来、審査に通りにくい店をどんどん加盟させたので、“水商売の最後の駆け込み寺”などと呼ばれ、ここまで大きくなったのです。そういうお店が、いまから別の決済代行会社に加盟しようとしても、審査を通らないケースがかなり出ると思われます。今後、日本中でカード使用不可の飲食店が増えるのではないでしょうか」
しかしそもそも、なぜ「決済代行会社」なんぞを使わなければならないのだろうか。
「もちろん、決済代行を通さず、直接にカード発行会社と取引してもかまわないのです。しかし個人経営店が、たくさんあるカード発行会社と、いちいち直接契約する手間と経費を考えると、とても無理でしょう。しかも直接取引ともなると、審査が厳しいうえ、システム構築もお店のほうでやらねばなりません」(金融会社のB氏)
かようにカード決済ビジネスとは、意外と脆弱なシステムだったのである。そもそも日本の江戸時代では「掛売り」といって、代金の支払いは盆と暮れの年2回、ツケ払いが常識だった。いわば、現代のカード決済の原型のようなものである。それを「現金払い、掛売りなし」に変えたのが、日本橋に「越後屋」(のちの三越)を開業した三井高利だった。
日本の飲食店は、この「越後屋」創業精神にもどったほうがよいのかもしれない――かつての《CLUB》欄だったら、こう締めくくっただろう。
森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。
デイリー新潮編集部
