そして4階には麻雀や囲碁の店が目立っていて、いよいよ、よくわからなくなる。

 わずか5フロアをぼんやりと歩いただけなのに、妙に疲れていた。窓もほとんどない空間に大量のテナントがびっしりと並び、磁場のようなものを生んでいる気がした。エネルギーが吸い取られたような感覚があって、とにかく、どこかで休みたかった。

 そこで、昭和46年開業の「喫茶フジ」を見つけた。同ビルの地下1階にあるその店は、喧騒から逃れるために造られたシェルターのように静かで、少し、くたびれていた。

 その空気が、心地よかった。

 渋谷で感じた「それっぽさ」が一切ない、正真正銘の、古くから営まれる喫茶店だった。

 店内には銭湯の壁のように大きな富士山の写真が飾られていて、古い1人掛けのソファに座る客はスーツを着た人が大半だった。各々作業をしたり、談笑したり、仮眠を取ったりしていた。店舗内にガラスで囲まれた喫煙スペースがあり、うまそうに煙を吐く男女の姿もあった。

 みんな、疲れているように見えた。

 疲れていても許される場所があることは、このビルにとって、この街にとって、大事なことのように思えた。

 パンケーキとアイスコーヒーが運ばれてくる。じっくり味わい、食べ終わっても、少しの間じっとしていた。

 昭和の面影を強く残す店は、令和のシェルターになって労働者を守ってくれていた。

<文/カツセマサヒコ 挿絵/小指>

※週刊SPA!2026年4月28日号より

―[すこしドラマになってくれ~いつだってアウェイな東京の歩き方]―

【カツセマサヒコ】
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」