メッシのユニホームを手にするアルゼンチンサポーター(C)共同通信社

写真拡大

【現地発 北中米W杯は今日もクレージーだった!】#16

【前回を読む】FIFAは一線を越えてしまった…トランプ介入問題が世界中でミーム化、陰謀論まで噴出

 ボンジーア! W杯2026も102試合を終えて、いよいよ決勝と3位決定戦の2試合を残すだけになった。暑い中で戦う選手は大変だろうが、取材する方も大変だったよ。ここまでボクも4万キロくらい旅をした。ダラスからカンザスシティーまで約800キロをレンタカーを運転して10時間で走破したこともあった。道中ではいろいろなことを見聞きした。

 米国の物価高はとんでもない。FIFAはカネを持っているサポーターの方ばかり向いて、ほとんどの「普通」の人は置いてけぼり。特に経済状況の悪い南米サポーターにとっては厳しかった。

 そこで一部のアルゼンチン人は、旅費をつくるため、メッシのユニホームを売ることにしたんだ。米国の店舗での正規のユニホームは180ドル(約2万9000円)から250ドル(約4万1000円)。でも、彼らが売り歩く偽物は、オリジナルとほぼ見分けがつかなくて30ドル(約4900円)。試合が終わってアルゼンチンが勝つとその値段は50ドル(約8100円)から60ドル(約9700円)に値上がりするけど、それでも公式の3分の1以下だ。

 正規のユニホームがあまりにも高いから、ファンはたとえ偽物と分かっていても手を出しちゃうんだよね。売人は胴元からユニホームを仕入れて毎日数時間だけ働く。メッシがゴールを決めると、ユニホームを買う人が増えるから、懐にカネが流れ込むってわけだ。うまくいけば、これで宿泊費も交通費もチケット代も全て賄える。

 だけど、もちろんこれは違法。そこで米国の国土安全保障捜査局(HSI)は「偽ユニホーム作戦」と名付けられた手入れを開始した。これまで彼らは米国内の3つの巨大な流通拠点を摘発した。そこにはなんと合計40万枚のメッシの偽ユニホームがあったって話だよ。細工も巧妙で、FIFAやW杯のロゴ、オフィシャルを証明するホログラムまで印刷できる特殊な機械も押収されている。

 また当局は中国やバングラデシュから運ばれてきた22台もの海上コンテナも押さえた。中には人気チームであるアルゼンチン、ブラジル、フランス、スペイン、そして日本のサムライブルーのユニホームもあったって。

 しかし、売人たちは警察より上を行く。彼らは秘密のデジタルアプリを開発。試合当日には携帯電話上の暗号化されたチャットシステムを使って、リアルタイムで警察情報を交換しているらしい。おかげで彼らは接近してくる警察パトロールの動きを把握して、彼らが来る前にユニホームでいっぱいのバッグを車の中に隠すことができるんだ。弁護士らによると、大会開催からアディダスやナイキが被った損失額は数億ドルになるってことだ。

(Ricardo Setyon/ジャーナリスト)

翻訳=利根川晶子(とねがわ・あきこ)埼玉県出身。通訳、翻訳家。1982年W杯でイタリア代表タルデッリに魅せられ、89年にイタリア・ローマに移住。「ゴールこそ、すべて」(スキラッチ自伝)など著書、訳書多数。