年を取ったらTシャツとデニムは<鬼門>…作家・林真理子「『いつまでも白いTシャツが似合うあなた』は幻想にすぎない」
健康やお金、おしゃれ、人間関係……70代、そして80代の人生1分1秒を楽しんで生きていくには、どうしたらよいのでしょうか。72歳を迎えた作家・林真理子さんは「70代は頭も体もまだ大丈夫。それなりに蓄えもできている。でもこれまでと全く同じことをしていたらダメ」と語ります。そこで今回は林さんの著書『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』より一部を抜粋し、林さんの痛快・人生論をお届けします。
【書影】72歳の人気作家が本音で語る、今の1分1秒を楽しんで生きるための痛快・人生論。林真理子『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』
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Tシャツを着てはいけない
これはよそゆきに限る、という意味。
Tシャツを着た写真を見てがっかりした。ハイブランドのTシャツで、自分ではイケてるつもりであったが、首の縦ジワがはっきり見え、何よりも体全体が丸っこくぶよぶよしている。老いの現実をありありと見せてくれるのがTシャツなのだ。
Tシャツは好きでよく買っている。もらいものも多い。自宅にいる時にTシャツは欠かさない。けれども若いはちきれそうな肉体が着るものは、やはり老いた体を拒否するかのようだ。特に首回りがよれよれしたものは絶対にダメ。首のシワと見事にシンクロしてしまう。あくまでも、
「これはうちで着ているだけなの」
ということを自分に言いきかせよう。
「いつまでも白いTシャツが似合うあなた」は幻想にすぎない。
同じアイテムにジーンズがある。今はデニムと呼ぶらしい。
Tシャツとデニムは鬼門
たまに小粋に着こなしている老人がいるが、たいていはファッション関係かマスコミ関係だ。ふつうの人はチノパンにした方が無難だと思う。
それでなくても年をとると、膝の屈伸がつらくなる。硬いデニム地は向いていないと思う。
私の友人はパリのフォーシーズンズに泊まった時に、いつもデニム(おばさんだからジーンズか)を穿いていた。思わず、
「ちょっと……何もここで……」
と言ったところ、
「まわりの人たちによく言われるのよ。ジーンズ穿いてすごいね、って。うちの家内はもう何十年も穿いていないよって」
と得意そう。
そうか、彼女にとってデニムというのは若さの象徴なのか、と納得だが、あれからさらに月日はたった。年寄りのデニムは、よほどカントリーライフになじんでいない限りは、似合わないと思った方がいい。自宅で穿く分には勝手であるが、あの素材はもはや硬すぎて年寄りにやさしいとも思えない。
とにかくTシャツとデニムは鬼門。場合によっては「イタい」アイテムそのものになる。
年寄りにとって「イタい」という評価ほどつらいものはない。
通販で下着を買ってはいけない
いつもはデパートで買うようにしているのであるが、行く時間がなくて通販にした。2300円のショーツを頼んだところ、届いたのはなんと8枚セットである。それもピンクやブルーの派手な色が交じっている。もったいないからと使用していたのであるが、なんだかみじめな気分になってきた。
「もし交通事故に遭ったらどうしよう」

(写真提供:Photo AC)
それ以上に、いきなり倒れたり、気分が悪くなったりすることもあるだろう。
知り合いの男性が気分が悪くなり、救急車で運ばれた。その時一緒に治療室に入った男性の下着があまりにもボロいのを見て、
「絶対に清潔ないいものを着なくては」
と心に誓ったそうだ。彼は私の故郷・山梨の人だった。山梨といえば、休暇で帰ると他に行くところがないので、よく地元のスーパーに行った。田舎によくあるタイプのスーパーで、一階は食料品、二階はゲーム機や衣料品が置かれていた。よくここで帰郷した時用のトレーナーやパンツ(ズボンか)を買ったものだ。そうすると、たちまち自分が「田舎のおばさん」になるのであるが、それがとてもリラックスして快適だったのを憶えている。
2階はいつも人がおらず寒々としていた。下着売場だけが異様に広かった。そこで私は人生の真実に触れることになる。
レジで中年の女性が長々と何かやっている。もらいものの商品券やクーポン券を、店員と一緒に数えているのだ。レジ台の上には家族のものと思われる下着が何枚か置かれていた。
「いいなあ」
と私は思う。家族に新しい下着を着せようとこうして商品券やクーポン券を貯めていたのだ。これが愛情でなくて何だろう。
できるだけ良質でふつうのものを
愛情といえば、この下着売場のいちばん目立つコーナーがすごかった。ショッキングピンクのスケスケのセットや、黒いレースのショーツやブラがいっぱい飾られていて、私など頬を赤らめたものだ。まるで風俗で使われるような色と形である。
「そうかあ」
合点した。
「田舎は娯楽がないもんなあ……」
何を言いたいかというと、下着はその人の人生の一端が見えるものなのだ。
若い頃は「非常用」とか言って、イタリアやフランスで、工芸品のような下着を買ったものであるが、まるで夢のように昔の話である。今の私はできるだけ良質でふつうのものを身につけている。冬はババシャツという防寒向きのものをしっかりと着る。女はババシャツを着た時に、すべてのことを諦めるはずだ。
※本稿は、『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

