日本女子代表(なでしこジャパン)DF熊谷紗希(ロンドン・シティ・ライオネス)がプロデュースする次世代育成プロジェクト「SAKI KUMAGAI WORLD CHALLENGE」の実施報告記者発表会が14日、東京都内で行われた。第1回では全国から選ばれたU-12年代の女子選手4人が10日間にわたってロンドンへ留学。世界トップクラスの環境に触れ、ピッチ内外で大きな一歩を踏み出した。

 同プロジェクトは、一般社団法人なでしこケアが女子サッカーの普及と次世代リーダーの育成を目的に実施したもの。トライアル大会で65名から6人を選出し、4人制サッカー4v4の全国大会「4v4 JAPAN CUP」出場を兼ねた最終選考で選ばれた4選手が今年3月下旬にロンドン留学に臨んだ。

 現地ではアーセナルのアカデミーU-13のトレーニングに参加したほか、ホームステイや栄養に関する勉強会も実施。欧州でプレーする日本人選手との交流機会も設けられ、MF浜野まいか(チェルシー)、DF古賀塔子(トッテナム)らが選手たちを訪問。マンチェスター・ユナイテッドに所属するMF宮澤ひなたや、ウエスト・ハムのFW植木理子、DF遠藤優らとも交流したという。

 熊谷はアーセナルの練習に参加した当初の4選手について、「いつもの元気がないというか、緊張した様子だった」と振り返る。それでも、留学終盤には変化が見られた。

「最後の練習になると、自分から話しに行ったり、話せる仲間ができたりしていた。10日間だけで成長を見るのは難しいけど、帰国後のメンタリングや対話も含めて、改めてすごく成長したと感じた」

 熊谷自身が12歳だった頃は、地元の北海道に身近な女子サッカーの環境がなく、男子に交じってプレーしていたという。「女子サッカーを通じて海外へ行くような環境はなかった」と振り返り、幼い頃から世界を体感できる今回の機会に大きな意義を感じている。

「日本の女子サッカー選手は、中学校に上がるタイミングでやめてしまう人も多い。受け皿や環境の問題もあるけど、選択肢を広げてほしい。最後に選ぶものがサッカーではなかったとしても、そこで得た経験がその子たちの未来につながればいい」

 浜野も「12歳という若いうちに海外を経験できるのはうらやましい」と今回のプログラムへの印象を語った。自身は10歳でサッカーを始め、12歳当時は「目の前のことに精いっぱいだった」という。

「海外の選手を見て、肌で感じるものがあって、言葉や文化も経験できる。12歳の時点で目指す場所がそこになるのは、すごくいい経験だと思う。サッカーを続けても、続けなかったとしても、人生において貴重な経験になる」

 熊谷は4選手の技術面だけでなく、物怖じしない姿勢にも驚かされたという。3月の女子アジア杯後に4人と会ったとき、「アーセナル行けそう?」と声をかけると、「全然行けます」と返されたエピソードを明かし、「自分たちの頃より心臓が強い。どんどん飛び込ませたほうがいいのかなと思った」と笑顔を見せた。

 なでしこケアは2019年に熊谷、近賀ゆかりさん、大滝麻未さんが設立。熊谷は創設当初から子どもたちを海外へ連れていく構想を抱いていたが、実現までには7年を要した。

「選手であることを言い訳にして、なかなか形にできなかった。でも今回、FIFAのプログラムがきっかけになった。本気でやれば、ここまでできるんだとわかった。できるとわかった以上、もうできないとは言えない」

 第2回では、地方在住の選手も参加しやすいように地域予選の導入を検討している。トライアウトや4v4の全国大会を通じて候補選手を選び、渡航前には英語などを学ぶ準備プログラムも実施。次回もアーセナルとの取り組みを予定しており、帰国後には継続的なメンタリングを行い、子どもたちをフォローする。

 熊谷が「サッカーが私の世界を広げてくれた。サッカーがくれた力を、今度は次の世代へ渡したい」と語った今回のプロジェクト。世界を遠い憧れではなく、自ら手を伸ばせる場所に変える挑戦は、次の世代へと続いていく。

(取材・文 石川祐介)