シャハ首相=2026年4月、ネパール・カトマンズ(ゲッティ=共同)

 2026年3月にネパールの首相に就いたラッパー出身のシャハ氏(36)が矢継ぎ早に改革に着手している。政治刷新への期待感から若者を中心に高い人気を維持。実行力が売りで、就任早々、土地を不法占拠する住民の立ち退きを強行した。荒療治を懸念する声も出ている。(共同通信ニューデリー支局=岩橋拓郎)

 2026年4月下旬、首都カトマンズ南端の川沿いに長く延びる集落に治安部隊が集結した。外部の人が近づけないよう集落入り口の警備を固め、トタンや木、竹でできた家々の強制撤去を始めた。

 不法占拠された土地には無断で建物が建てられ、推計で2千世帯余りが住む。隣の自治体が管理する川の対岸は遊歩道が整備されているが、カトマンズ側は質素な住居が並び、雨期には川の氾濫で犠牲者が出る恐れがある。低所得層が多く、スラム化している。

 近隣住民は「歴代政権は問題だと分かっていたのに反対運動の激化を懸念して見て見ぬふりをしていた」と話す。そこにシャハ氏が切り込んだ。

 シャハ氏はカトマンズ市長時代にも不法占拠の土地の住宅取り壊しに着手した。住民に十分な通知をせずに強行し、当局と住民の衝突でけが人が出た。市長には治安部隊を動員する権限がなく当時は失敗したが、今回は大きな反対運動はなく、市内や近郊の数カ所で立ち退きを進めた。跡地は公園や道路にする。

 2歳の頃から集落に住んできたサル・バストラさん(40)は「木曜日の夜、警察が土曜朝までの退去を要請してきた。開発には反対しないが、急すぎる」と憤る。約200世帯の住民は政府が用意した集合住宅に移ったが、バストラさんは入れなかった。最小限の荷物を持ち、流浪の生活を強いられることになった。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「適正な手続きや法の支配を軽視している」と政権の手法を非難した。

 シャハ氏を首相の座に押し上げたのは、主要3政党が政権をたらい回しにした旧来型政治に嫌気が差した若者たちだった。20歳前後の約100人が通うカトマンズの日本語学校「作楽国際語学アカデミー」で生徒たちにシャハ氏の評価を尋ねると「賄賂をなくして」「仕事をつくって」と期待の声が次々に上がった。

 2021年から約3年、神戸市に語学留学したディペスさん(23)は「オリ前政権時代はパスポートを作るにも2万ルピー(約2万800円)の賄賂を担当者に渡さないと手続きが進まなかった」と話す。オリ前首相退陣につながった2025年9月のデモにも参加した。

 「きれいな言葉はいらない。仕事で結果を出してほしい」。シャハ氏が強権ぶりを見せたとしても、ディペスさんは変化を望んでいる。

 シャハ首相 2022年にネパールの首都カトマンズの市長になり、2026年3月、35歳で首相に就任した。20代前半からラッパーとして活動し、古参の政治家を批判する過激な歌詞で若者に支持された。本名のバレンドラ・シャハからバレンの愛称で呼ばれる。サングラスと黒いスーツがトレードマーク。インドに留学し構造工学の修士号を取得した土木技師の顔も持つ。

住宅が取り壊された集落に座り込む男性=2026年4月、ネパール・カトマンズ(共同)

住宅の取り壊しが進むネパール・カトマンズの集落を、対岸から見る人たち=2026年4月(共同)

住宅の取り壊しが進むネパール・カトマンズの集落=2026年4月(共同)

ネパール・カトマンズの集落入り口に集まった治安部隊=2026年4月(共同)

ネパール・カトマンズの日本語学校で学ぶ若者たち=2026年4月(共同)

シャハ政権の評価を語るディペスさん=2026年4月、ネパール・カトマンズ(共同)

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