ロピアはカツ丼界の“黒船”だ

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「トライアル」が東京に本格的に進出し、カツ丼界が活況を呈している。孤高のとんかつ研究家・かつとんたろう氏が、8店舗を食べ比べて徹底考察リポートーー。

 スーパーというところはおもしろいもので、注目してみるとさまざまな発見がある。弁当売場を見てみよう。売場のもっとも目立つところにあるものはなんだろうか、販促用のポップを立てている商品はなんだろうか、そうやって見ていくと、その店が売りたいもの、客にアピールしたいものがわかってくる。

 いくつもの店をまわっていくうちに、どこの店にも共通して、弁当売場で非常に目立つ商品があることに気づく。そう、カツ丼である。

 たとえば、昨年東京に本格的に進出した九州発のディスカウントスーパートライアルを見てみよう。筆者の自宅近くにある小型店舗のトライアルGO、その入口の扉の正面にはまず弁当売場がある。同じくコンビニサイズのスーパーである「まいばすけっと」と比べると、弁当の推し具合が違う。その中心にいるのはやはりカツ丼。現在でこそ348円(以下価格は税抜き表記)だが、東京進出時には277円、税込みでも299円という驚愕の価格で話題になったカツ丼だ。

 肝心の味は、全体的に甘め濃いめの味つけだが、それでいて尖ったところはなく、いいバランスに収まっている。総じて値段に比しての満足感は非常に高い。

 70円ほど値上げしたとはいえ、この値段であっても対抗できるスーパーは少ない。その例外のひとつがOKストアだ。弁当売場の中でもひときわ目立ち、数も多く並べられているカツ丼の価格は、トライアルを下回る339円。味は出汁がかなり甘めに感じる。少しパッケージが小さめのようだったが、それでも表示カロリーが他社より高めだったのは、甘さのせいだろうか。だがその甘さのおかげか、食べ終わったあとはかなりの満腹感を覚えた。

どこの店でも、カツ丼は弁当売場で非常に目立つ

■王者・イオンは販促ポップ&3サイズ展開で注力

 トライアルやOKストアのようにカツ丼を300円台で販売できるのは、ディスカウント系の大手スーパーに限られるだろうが、もちろんそういった店でなくとも、カツ丼を弁当売場の目玉にするスーパーは少なくない。

 王者イオンはどうか。こちらは、なんと3つものサイズを展開している。小が250円、中398円、大598円と価格や腹具合でチョイスできるのは嬉しい。ちなみに、一般的なスーパーのカツ丼と同じサイズは、大サイズのようである。しかし3サイズもあれば、売場もそのぶん大きく取らなければいけないのに、そのあたりはさすがのイオンである。味のほうは、豚の脂が強いように感じたが、出汁もそれに負けておらず、バランスはいい。いくつもの店舗で、販促ポップを複数立て、力を入れて宣伝している様子が見られた。

 食品スーパーとして売り上げ日本一のライフはどうだろうか。こちらは容器の工夫で勝負しているようだ。卵とじカツとご飯とが上下で別々の容器に分かれており、ご飯が出汁でジャブジャブにならないような仕組みになっている。その出汁も、ちょっと塩気の強いそば店のような趣きもあり、それがご飯を浸してしまうのを嫌がったのかもしれない。

 ちなみに今回の調査のためにまわったスーパーは、天丼や親子丼などほかの丼ものでは、このようなさまざまなサイズ展開や容器の工夫、あるいは積極的な販促がなされているものはなかった。カツ丼だけが、弁当売場で特権的に扱われる理由はなんなのか。

 幼少期を思い出してみよう。そもそも我々オジサン世代にとって、とんかつという食べ物自体が特権的ではなかっただろうか。天ぷらもそうだったかもしれないが、しかし上品さこそあれ、子供であった我々にとっては肉々しさの喜びに勝るものはなかった。

 つまり、カツ丼あるいはとんかつという食べ物は、多くの人にとって「ちょっと嬉しい」食べ物であったはずなのだ。甘みを感じさせる脂身、ガッツリとした肉感は、高級である、とまでは言わないけれど、なんとなくハレの日にふさわしい食べ物として存在していたのだ。

「現代の庶民の味はスーパーのカツ丼にある!」と、筆者のかつとんたろう氏

■すべてのスーパーで商品名は「かつ重」の理由

 だからこそなのかもしれない。今回調査したすべてのスーパーでは、カツ丼は「かつ重」という商品名で販売されていたのだ。

 カツ丼とかつ重、どちらかといえば後者のほうが高級に感じられないだろうか。丼を使うのか重なのか、というだけでも、その名前が指向しているものの違いは感じられるはずだ。

 もちろん、カツ丼とかつ重の違いは高級感や重だけではない。カツ丼には多くのバリエーションがあるが、かつ重は基本的にはカツを卵でとじたものである、という点もある。ソースカツ丼で有名な地域はいくつかあるが、そのうちのひとつ、福島は会津で出合った「ソースかつ重」は、ソースカツ丼をわざわざ卵とじにしたものだった。

 そして、今回の調査において筆者が出合った「かつ重」もまた、すべて卵とじであった。かつ重という名前を使う以上、かつは卵でとじられるべきなのだ。

 卵でカツをとじるためには、卵だけでなく出汁も必要だ。各社のカツ丼のパッケージや販促ポップを見ると、「枕崎産かつお節使用」や「こだわりの自社製出汁」などの文句が躍り、商品名にも「出汁の旨み」という枕がつくなど、とにかく出汁を推しているものが多い。

 おそらくだが、300〜500円台という価格では、豚肉の質で差をつけることができないのだ。「三元豚使用」という文句をパッケージに配している商品もあったが、日本で流通するほとんどの豚肉は、三種の豚をかけ合わせた三元交配の豚、つまり三元豚であることが広く知られるようになってしまった今となっては、あまり効果のある売り文句ともいえないだろう。

 だからこそ、各社とも出汁の工夫を前面に押し出しているに違いない。とりわけロピアのカツ丼は出汁が強く、しかも甘みではなくそば店のような塩気の強さを感じさせるものだった。精肉店を出自とするおかげか、肉もこころなしか大きかった。また玉ねぎの量も多く、ここで甘みとのバランスを取っているのだろう。598円という値段に恥じない作りである。

 サミットストアもかつお出汁がかなり強く感じられ、やはり各社とも豚肉よりは出汁に力を入れているのがよくわかる。カツ丼は、厚切り豚肉の肉々しさと卵のマイルドさとによって、甘さもしょっぱさも、かなりの範囲で許容できる懐ろの深さがあるのだろう。

 主役の豚肉でこそ差はつけにくいが、他社との味の差別化が比較的容易で、肉々しい嬉しさも提供できる。さらに言えば、弁当のように複雑な盛りつけは必要なく、ご飯の上に卵とじカツを載せるだけというパッケージの楽さなど、カツ丼が推される理由はさまざまだ。

 しかし、そういった理由はいくつあったところで、すべてのスーパーがカツ丼を強く推しているわけではない。たとえば、埼玉を中心に根強い人気を誇るヤオコーのカツ丼は、498円と中間的な値段で、味もこれといった特徴に欠けるものだった。弁当売場でも主役感はなく、あくまでひとつの選択肢、というところに留まっているように見えた。

カツ丼が嬉しい食べ物であることに変わりはない

■カツ丼は「庶民にいちばん親しみ深い肉料理」だ

 イトーヨーカドーにおいても、カツ丼は売場でそこまで目立つ存在ではなく、パッケージも地味めであった。しかしこちらは599円という値段設定もあり、尖ったところのない優等生的なバランスのよさで、上品な仕上がりになっていた。このあたり、安売りには与しないぞ、他社の追従はしないぞ、という態度の表われなのかもしれない。

 しかし、カツ丼を推すにせよ推さないにせよ、カツ丼が弁当売場に存在しないということはあり得ない。諸兄が近所のスーパーで弁当売場を見たとき、カツ丼がなかったとすれば、それはただ単に売り切れているだけに違いない。ハンバーグ弁当らと同じく弁当売場の顔であり、なんならもっとも目立っている商品である。そうだとすれば、スーパーのカツ丼は庶民にいちばん親しみ深い肉料理だとも言えるのではないだろうか。

 いつの時代も、美味い肉こそ庶民のなによりのごちそうだ。幼少期の我々がとんかつやカツ丼が食卓に上がったとき、その肉の分厚さに嬉しく思ったのが、その証拠だ。

 すっかりオジサンとなった今となっても、我々はカツ丼を、出汁のしみたご飯と一緒に、かっこむように食べている。かつては店屋物だったり外食だったり母の手作りだったりしたが、それがスーパーのカツ丼であってもやっぱり嬉しい食べ物であることに変わりはないし、そのカツ丼を無心でかっこんだときの満足感も、なんの変わりもないのである。

※価格はすべて税抜きで、2026年4〜6月、本誌が購入した店舗のもの

取材/文・かつとんたろう
1983年生まれ、神奈川県出身 とんかつ研究家、ライター。中年になり、とんかつ仕事で太らないよう必死のダイエット

写真・木村哲夫