『斎藤敦史アニメーション&イラストワークス あめゆらげ』のカバー。斎藤敦史氏が得意とする、視線誘導を意識したキャラの配置と構図に注目

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「ひろがるスカイ!プリキュア(以下、プリキュア)」と「ラブライブ!スーパースター!!(以下、ラブライブ!)」という、まったく異なるジャンルのアニメでキャラクターデザインを務めた斎藤敦史氏。京都アニメーション(以下、京アニ)出身で現在はフリーで活躍する斎藤氏は、現在もっとも注目されるアニメーターの一人である。

 子供から大人、さらに海外にまでファンが多い斎藤氏のデザイン哲学はいかなるものか。6月26日には画集も発売されるという斎藤氏に、キャラクターデザインの手法からこれまでの印象深い仕事まで、幅広いテーマで話を聞いた。【取材・文=山内貴範】

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動かしづらいデザインは避ける

――斎藤さんがデザインしたキャラクターは、装飾などはシンプルなのですが、とても印象に残ります。

『斎藤敦史アニメーション&イラストワークス あめゆらげ』のカバー。斎藤敦史氏が得意とする、視線誘導を意識したキャラの配置と構図に注目

斎藤:ありがとうございます。そもそもアニメは物語を映像にしたものであり、キャラクターだけで構成されているわけではありません。キャラクターの絵柄の主張があまりに強すぎると、そちらにばかり目がいってしまい、内容に気が回りづらくなってしまいます。内容を伝えるのに邪魔になりすぎないデザインに、引っかかりを少し加えたいと考えています。

 僕は原画(担当のアニメーター)として絵を動かしていた時期が長く、原画を描くこと自体も好きなんです。ひとつのアニメ作品には本当にたくさんのアニメーターが参加して絵を描きます。だからこそ、『プリキュア』でも『ラブライブ!』でも、アニメーターが描きやすく、動かしやすいデザインにするように気を配りました。

 具体的には、線の流れをできるだけ止めないために、パーツや影などはつけすぎないように工夫したつもりです。

――斎藤さんのこれまでの経験がデザインに影響しているのですね。

斎藤:アニメーターの負担が少しでも軽くなりますから、線数が少ないに越したことはありませんからね。少ない線で、かつ印象に残るデザインにするようにいつも試行錯誤しています。

――このインタビューの前に秋葉原のアニメショップに行ってきたのですが、斎藤さんの絵は線が少ないのに、グッズになっても映えると感じます。

斎藤:それはデザインだけでなく、色の影響も大きいと思いますよ。色はキャラクターのイメージを左右する上で、とても大事な要素だと考えています。自分でゼロから色を考えたキャラクターもありますが、最終的に決定権をもつ方々との協力体制によって決まることが多いので、たくさんの方のおかげだと思います。

――実際、アニメの制作では、色彩設計という色を決める専門のスタッフがいます。キャラクターデザイナーの意見はどこまで反映されるのでしょうか。

斎藤:作品ごとに異なりますね。「BLACKFOX」や「〈小市民〉シリーズ(以下、小市民)」は、僕の意向をだいぶ汲んでいただいています。一方で、「プリキュア」はいろいろな方の意向をすり合わせて決まります。「この世代に人気のある色」といったデータや分析、作り手の感性をもとに、色が決まることもありますね。

「ラブライブ!」なのに「女児向けっぽい」

――斎藤さんは、ご自身の絵の魅力や強みはどこにあると思っていますか。

斎藤:個性については、自分自身ではあまり自覚できていないほうです。ただ、周りの方から複数回言われていることは、個性だと思うようになりました。構図、躍動感、やわらかさ、表情の豊かさ、あとは中性的だという点でしょうか。描いているのが男性でも、キャラクターの絵柄の雰囲気が中性的と言われることはたびたびあります。

――斎藤さんといえば、「プリキュア」で、史上初の“男性プリキュア”をデザインしたことでも有名ですよね。女の子の中に男の子が混ざっているのに、まったく違和感がありませんでした。

斎藤:中性的な要素は、もともと絵柄の性質としてあったのかなとも思うし、もしかすると「プリキュア」がきっかけで確立されたのかもしれませんが……、どうなんでしょうね(笑)。

――私の友人の女性は「ラブライブ!」のファンなのですが、斎藤さんの絵柄はいわゆる“美少女キャラ”と違って親しみやすい、と言っていました。

斎藤:それまでの「ラブライブ!」は、どちらかというと、掲載されていた雑誌(注:美少女ゲームの専門誌『電撃G’sマガジン』)の影響もあって、男性向けの要素が強かったのかもしれません。そんななかで、原案の室田雄平さんの要素を汲みつつ、自分の絵と混ぜたデザインを作るべく試行錯誤をした記憶があります。

 余談ですが、「ラブライブ!」のキービジュアルが発表された時に、「プリキュアっぽい」とか、「女児向けアニメみたいだ」と言われたことはありますね(笑)。Sunny Passion(注:作中に登場する2人組女性スクールアイドルグループ)が発表されたときは特に、「今までのキャラと雰囲気が違う」「女児向けっぽい」「プリキュアっぽい」と言われました。

――「プリキュアっぽい」というコメントはなかなか的を射ているというか、鋭いと感じます。その後、斎藤さんが「プリキュア」のキャラデザを務めると発表されたときも、ネットは湧きましたよね。

斎藤:「やっぱり!」と言われていましたね(笑)。

京アニの大先輩の凄みを実感

――キャラクターデザインの仕事を続けるなかで、デザインに対する考え方が変わっていったりしたことはありますか。

斎藤:デザインの基本は最初にお話しした通りで、シンプルで描きやすく、動かしやすいものにするという点は変わっていません。ただ、これまでは「心予報」のMV(注:ロッテのCMとして制作されたコラボレーションムービー)のように、できる限り主線を少なくして、色で目立たせようという考えがありましたが、最近は主線を前面に立たせて表現するのも、それはそれでいいんじゃないかなと思うようになりました。

――それは、最近の流行を取り入れたということなのでしょうか。

斎藤:最近のアニメは、全般的に線の密度が変わってきたと思います。僕の絵もそこに追従しながら、変化していく可能性があるかもしれません。

 あとは、京アニに在籍していたときに大変お世話になった、堀口悠紀子さんの影響もあると思います。堀口さんの初期の絵は線が少なくてシンプルなのですが、最近はだんだん主線の密度が変化している絵もあるように感じます。

――堀口さんの絵を意識することは、今でも多いのでしょうか。

斎藤:そうですね。アニメーターとして活動を始めた最初期の仕事が、堀口さんがキャラクターデザインを務めた「らき☆すた」「けいおん!」の動画でした。僕の絵柄には、堀口さんの影響が少なからず残っている部分はあると思いますし、影響からは逃れられないでしょうね。堀口さんは本当に凄いアニメーターで、今でも僕にとって大きな存在です。

第2回【「化け物みたいに絵が上手かったですね」…人気アニメーター「斎藤敦史氏」が明かす「京アニ時代」の大先輩 「唯一無二」と絶賛する「釣り漫画のレジェンド」も】では人気アニメーター・斎藤敦史氏に、京アニ時代のこと、そこで衝撃を受けたある先輩の仕事についてなそ、斎藤氏の創作の原点にあるものについて伺っています。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部