《現場調査》「軽じゃなきゃダメな人は、プロの運転手にならない方がいい」…タクシー業界の“軽自動車解禁”に現場のドライバーたちが抱く“強烈な違和感”
〈スペーシアでもN-BOXでもない…タクシー業界にまさかの“軽自動車”導入開始、最初のベース車に選ばれた意外な車種とは?〉から続く
タクシーに乗るときの、ちょっとした優越感。そうした乗車体験が、今後大きく変わっていくかもしれない。
【画像】タクシー業界で“軽自動車解禁” 北九州市で運行が開始された「意外な車種」
2026年6月、九州運輸局が全国に先駆け軽自動車のタクシー営業を解禁した。深刻な人手不足を背景に、運転しやすい車両の導入により若手や女性ドライバーにも広く門戸を開く構えだ。
ここで気になるのが、実際の利用客やドライバーによる反応だ。「軽タクシー」に気兼ねなく乗れるか、あるいは仕事として長時間運転できるのか――。
軽タクシーの導入が発表されている福岡県で、利用者やドライバーたちの声を集めていくと、あまりにシビアな現実が浮かび上がってきた。
上司と乗るとき、軽が来たら…
まず、利用者側は「軽タクシー」をどう捉えているのか。出張が多く、地方でタクシーを利用する機会が多いという30代の男性会社員は、軽タクシーについて「自分1人で乗る分にはさほど気にならない」と前置きしつつも、利用者の本音をこう代弁する。

写真はイメージ ©Hiroba_Studio/イメージマート
「道端でタクシーを止めるとき、たとえばアルファードの個タクなんかが来たら『ラッキー!』って思うじゃないですか。軽自動車だと、完全にその逆ですよね。そのまま乗りはしますけど、『軽か……』っていうがっかり感は絶対にあると思います」
さらに、「ビジネスシーン」をめぐる懸念を示す会社員も。
「たとえば出張先で上司と一緒にいて、自分がタクシーを手配するような場面ですよね。配車アプリで呼んで、来たのが軽タクシーだったら……。上司から『こいつ、仕事できねえな』と思われそうで怖いです。なので配車アプリ上で、最初から『軽はNG』と指定できる機能が欲しいですね」
タクシー利用時の需要として、「ゲストのおもてなし」といった場面も大いに考えられる。そこからすると、「移動の足」としての機能だけでなく、ビジネスの場における「体裁」や「サービスとしての質」を求めるのは当然の心理だろう。
軽の後席、事故のとき大丈夫?
安全性をめぐる不安もつきまとう。あるメーカーで営業職を務める40代男性は、終電後に自宅まで15kmほどタクシーを利用して帰宅することがあるという。
「夜間はペースが速いじゃないですか。幹線道路だと70km/h〜80km/hで走る車も珍しくないですし、タクシーがそのくらいで走っていることもありますよね。それでぶつかって、軽だとどうなっちゃうんだろうって」
SNSなどでも、軽タクシー解禁のニュースに触れて安全性の面を危惧する声は少なくない。実際のところ、自動車アセスメントにおける後席の衝突安全性を見ても、近年主流となるジャパンタクシーと比べるとどうしても見劣りするのが実情だ。
*時速64kmで障害物と車体前面の40%を衝突させる「オフセット前面衝突試験」において、ジャパンタクシーの後席安全性評価は5段階中の「5」を記録。一方、今後タクシー車両としての運用が想定されるスーパーハイトワゴン軽では、N-BOXが「4」、タントやスペーシアは「3」の評価となっている(いずれも現行モデル)
「軽しかダメ」はプロ失格?
このように、利用者側からは「軽タクシー」に対して疑問を投げかける声が少なくない。
一方で、今回の改正の目的は何より「ドライバーの確保」にある。そのためドライバー側が軽の導入をポジティブに捉えているのであれば、施策の意味もあるだろうが、実際のところはどうなのだろう。
半年ほど前にタクシー業界へ飛び込んだ20代の女性ドライバーはこう語る。
「私自身、もし会社から『軽のタクシーに乗れ』と言われたら絶対に嫌ですね。加速も悪いし、私たちにとっては1日中過ごす仕事場ですから、空間が狭くなるのは辛いです。
お客さんからの反応も怖いですね。とくに深夜の繁華街で、酔っ払ったお客さんを乗せる場面とか……。ややこしい事態に発展するのが容易に想像できます」
快適性の面でも、接客におけるトラブルのリスクという面でも、軽での営業は望ましくないというわけである。さらに彼女は、「ドライバー確保のための軽導入」という大義名分にも異議を唱える。
「『若手や女性でも運転しやすいように軽自動車を』というのは、ちょっと筋が違うと思いますね。そもそも、軽自動車じゃなきゃダメな人は、プロの運転手にならない方がいいと思ってしまいます」
お金をもらって人の命を運ぶプロである以上、普通車の車幅感覚すら掴めないドライバーを「軽なら大丈夫」と現場に放り込むのは、根本的な解決にはならないという考えだ。
「15時間も軽の車内にいるのは…」
さらに、長年コンフォートを操ってきた60代の男性ベテランドライバーも、軽の導入でドライバーが増えるという見込みについて「甘い。そういう人は(現場には)いらない」と切り捨てた。
また車両そのものについても、「軽はタクシーに向いていない」と否定的な見解を示す。
「長ければ15時間も車内で座る仕事ですから。それを考えると、この歳で軽は厳しい。
あとは耐久性ですね。このコンフォートは60万km走っていて、まだまだ快調。軽でこれだけの距離はどうしたってもたないでしょう」
さらに、乗り手のモチベーションといった問題もある。別の50代男性ドライバーは、職場における「ドライバーたちの車種へのこだわり」について教えてくれた。
「コンフォートがジャパンに切り替わったときでさえ、『乗り心地が悪くなった』と渋るベテランドライバーは多かったですからね。同じ普通車の括りでも、サスペンションやシートの違いで長時間の疲労度はまったく変わりますし。
これが軽となればいっそう、そういう人は増えるんじゃないかな」
ドライバーにとってタクシー車両は、一日の大半を過ごす仕事場であり、苦楽をともにする相棒でもある。それが普通車から軽になるという「格落ち」の感覚に、拒否反応を示すドライバーは多いのかもしれない。
「軽の方が楽」というドライバーも
それではドライバーにとって、軽での営業は「貧乏くじ」のような扱いになるのだろうか。必ずしもそうではないようで、取材を続けるうちに「軽に乗れと言われても全然問題ない」と即答する50代の男性ベテランドライバーに出会った。
「やっぱり、小さい方が絶対に楽ですもん。整備された市街地ならいいですけど、ちょっと田舎の方に入ると軽トラがギリギリ通れるくらいの路地も多いですし」
彼自身、かつてバスの運転手を務めていた経験もあり、運転技術に自信がないわけでは当然ない。それでも「サイズによって神経のすり減り方は全然違うし、小さい方が気疲れしない」と語った。
また、軽自動車の乗降性を評価するドライバーも見られた。平日の昼、高齢者を乗せる機会が多いという男性ドライバーはこう語る。
「高齢の方でも、60代くらいまでは『セダンの方がいい』という方も多いんですけどね。やっぱり70代、80代になってくると、コンフォートでは乗り降りが辛そうですから。
これからの時代、背の高いスライドドアは必須だと思いますよ。ジャパンタクシーはもちろんですが、最近の軽自動車も十分広くて乗りやすいですし、アリじゃないですかね」
このように、狭い道が多いエリアや、高齢者がメインの客層となるエリアにおいては、軽自動車が適していると考えるドライバーもいるわけである。
高速走行への不安、棲み分けは可能か
一方で、肯定的な意見を述べたドライバーも含め、共通していたのが「高速道路は怖い」という意見である。衝突安全性はもちろんだが、それ以上に「加速の弱さ」「安定性」といった性能面の不安を口にしていたのが印象的だ。
この点で、全国に先駆けて軽自動車を導入する第一交通産業グループは、駅や空港など長距離利用が見込まれる拠点への配備を避ける方針を示している。軽タクシーの普及においては、こうした「適材適所」の運用法がカギになるのだろう。
このような棲み分けが実現できれば、軽タクシーは「地方における高齢者などの近距離移動モジュール」として活躍してくれるはずだ。
時代とともに下がる参入ハードル
最大の問題は、やはり「ドライバーの数を確保できるか」である。全国ハイヤー・タクシー連合会による2024年時点でのデータでは、タクシードライバーの総数は2020年から約15%減少し、平均年齢も60歳を超える。やはり若手を中心に、乗り手を確保しなくては衰退は避けられない。
タクシードライバーとしての参入ハードルを考えたときに、興味深いのが50代男性ドライバーによる以下のコメントだ。
「今では『GO』などの配車アプリが普及して、以前のように流しでお客さんを探す手間も格段に減りました。道を知らなくても、ナビでお客さんを迎えに行って、お客さんが指定した場所にナビ通りに行けばいいだけ。
軽の導入がなくても、30代くらいの若い女性ドライバーはすでに増えている実感があります。会社によっては外国人ドライバーを増やしているところもありますし、すでに参入のハードルは十分下がっていると思いますけどね」
たしかにドライバーの減少傾向に反し、女性タクシードライバーの数はここ数年増加傾向にあり、2023年の9,673人から2026年の14,388人と、およそ1.5倍にまで増えている。上のように技術面から参入ハードルが下がったことに加え、働き方の柔軟性や、年齢・キャリアを問わず一定の収入を期待できる点が魅力となっているようだ。
従来は「道に詳しくないとできない」「運転が上手くないとできない」といったイメージがあったタクシードライバーだが、現在では配車アプリやナビによって身近な職業になりつつある。
こうした傾向を加速させるうえで、軽の導入というのはたしかに一定の効果が見込めそうである。実際に運転したいかはさておき、「軽のタクシーがある」という事実そのものが、求職者の心理的ハードルを下げる可能性は十分に考えられる。
自身の経験や技量にプライドをもつタクシードライバーや、上質な乗車体験を求める利用者にとって、軽の導入というのは少し鼻白む変化ではあるのだろう。とはいえ業界の存続および地方の交通インフラ維持といった目的のためには、タクシーの「プレミアム感」よりも「日常における身近さ」を訴えていく必要があるのかもしれない。
(鹿間 羊市)
