ラブホで「家電を盗む客」の正体。“容姿端麗”な30代女性がなぜ?「毎回一人でチェックインする」事情には、悲しい背景が
ラブホテルでの経験なんてせいぜい日々の清掃業務だけだろうと思われがちだが、意外と面倒な場面も多い。たとえば泥酔客の対処、部屋前でのコスプレなどの貸し出し、“オトナのお店”からの電話対応など、細々とした業務がけっこうある。
とはいえ、都内でも屈指の回転率の悪さを誇るであろうラブホテルだったので、平日のほとんどはお菓子を食べながら昼ドラをぼんやり見ていれば時間が過ぎた。ただ、かように楽な環境にもかかわらず従業員はほとんど定着せず、一部の古株社員を除けば僕が働き出してから退職するまでの2年間で残っていた人間はひとりもいなかった。はじめは、なぜ人がやめるのか理解できなかったが、段々とここにいてはいけないと考えるようになり、結局僕自身も退職に至った。
ラブホテルでは客室内から日々様々なものがなくなるが、実をいうと半分はなくなってもいいものである。たとえば備え付けの避妊具やお茶のパック、シャンプー、ヘアブラシや歯ブラシなんかはいくらでも替えのあるものだから、たとえ全部持って帰られても「ケチな客だなあ」ぐらいにしか感じない。
だが、これが電気ケトルやドライヤー、テレビだったらどうだろう。そもそもそんなもの盗むやつなんていないだろうと疑うかもしれないが、それら家電類を盗む客は確実に存在する。
◆徐々にエスカレートする良客の所業
尚子(仮名)は一人でラブホテルを満喫する女性客だった。30代前半くらいで容姿端麗。一人で定期的に来る女性を不思議に感じていたものの、散らかすわけでもなく「お願いします」と会計をし、「ありがとうございました」と挨拶して帰る良客だったせいか、使った後の部屋から必ず何かがなくなっているのに気が付くまで1年ほどを要した。
最初は備え付けのアメニティ類がない程度だったが、最終的には“とんでもないもの”を持ち出そうとしていたところを僕らが捕まえた。その手口を詳しく書いていこう。
◆不思議なタイミングで来ることが多かった
あまり知られていないことだと思うが、ラブホテルの空き部屋はフロント側で制御ができる。僕の勤務先では最上階の広い部屋から順々にパネルに表示させて、安い1階の部屋を売るのは最後だった。流行り病の影響で閑散としたラブホの客単価を上げるためには仕方がなかったが、客を騙しているようで心苦しかった。
そんなシステムなので閑散とした日には最上階の部屋しか開いていないし、来客の多い土日を除けば1階の部屋が空くのは近隣の“オトナのお店”が割引イベントを打っている時だけだった。尚子は閑散とした平日には現れず、必ず前述したような回転率の高い日にだけ姿を見せた。
土日はともかく、“オトナのお店”のイベント日にもかなりの確率で来店していたので、偶然だとは思いつつ半年も経つとみんなで「いつも忙しい日に来るね」などと話していた。それが偶然ではないとわかったのは、ホテルからほど近くの一戸建てに住んでいて、窓からラブホを覗いているのを別のスタッフが発見したからだ。
でも、混んでいる日を狙ってやってくる客なんていようもないので、最初は尚子がカメラや盗聴器を仕掛けているのではないかと疑ったが、いくら探してもそれらは見当たらなかった。そうして部屋を注意深く見ていて初めて、備品の灰皿が行方不明なことに気が付いた。
それから何度か使った後の部屋を観察すると、灰皿がもう一度なくなり、大晦日には電気ケトルが消えた。年始になってから一度手提げバッグの中身を見せてもらったが何も入っておらず、首をかしげながら清掃に向かうと洗面台下の収納にしまってあったトイレットペーパー数ロールとティッシュペーパー数箱がなくなっていた。

