20代教師が精神疾患でどんどん離脱していく…「長時間労働+残業代ゼロ」だけではない教師不足の真犯人

■「教師不足」は2021年度の1.9倍に
今年3月、最新の「教師不足」の調査結果が、文部科学省から発表された。2025年5月1日時点の、全国の公立小・中・高・特別支援校における不足数は3827人にのぼった。
文科省が初めて実施した前回の2021年度調査では、同じく5月1日時点の不足数は全国で2065人だった。今回の2025年度調査では、そこから約1.9倍に増えたことになる。ただし、この数字は、現場の感覚からは大きくズレている。じつは教師不足は一般に、年度当初から月を経るごとに深刻になっていく。
2024年3月、千葉県内の教師不足の実態が「教員不足深刻、『未配置』最多に 県内449人」(朝日新聞、3月30日付)と報じられた。千葉県のデータは、月別の未配置数が示されている点で、とても貴重である。年度末に近づくにつれ不足数は増えていく。4月・5月の時点で産休や育休あるいは病休による未配置数は200人ほどであったが、翌2月には449人になり、約2.5倍に増加している。
また、現場では教師の心的負荷が限界に達し、授業期間中に年次有給休暇を使って1週間だけ休むようなケースもある。通常、教師は授業のない夏休みなどに年休をまとめ取りする。それを授業期間中に使うのだ。この場合、表向きは真っ当に年休をとっているだけなので、教師不足にはカウントされない。だが現場では授業に穴が空くので、他の教員が学級に入らざるを得なくなり、より人手不足といった様態になる。
■30歳以下の労働時間がもっとも長い
学校の教師が長時間労働であることは、広く知られるようになった。2022年度の文科省「教員勤務実態調査」によると、教諭(管理職以外の教師。主幹教諭・指導教諭を含む)が学校で業務に従事している平日1日あたりの時間数は、小学校で10時間45分、中学校で11時間1分である。これは年度始めの4月などの繁忙期の数字ではない。ごく平常の業務がおこなわれる10月、11月の時間数だ。
下の図表1のとおり、教諭の間でも年齢層で格差がある。10歳区分でみると、小中学校いずれも30歳以下が最長で、年齢があがるにつれてマシになっていく。30歳以下の場合、小学校は11時間3分、中学校は11時間29分である。

ところで、教諭の働き方の特徴は、仕事を持ち帰ることにある。これだけ働いておきながら、自宅でも仕事をこなすのだ。平日1日あたりの持ち帰り仕事の時間数を見ると、小中学校ともに年齢層を問わず、約30分程度を割いていることが明らかになっている。若い世代は学校での業務時間が長いからといって、学校ですべてを済ませているわけではなく、家でもさらに学校のために時間を費やしているのだ。
なお、平日だけではなく、土日にも学校や自宅で仕事していることを付記しておこう。しかも、「給特法」(正式には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)の規定により、公立校の教師には残業代が発生しないというのだから、さまざまな点で教師の労働は過酷だといえる。
■20代教師が精神疾患で離職する現状
若手の離職も深刻である。文科省が毎年発表している「公立学校教職員の人事行政状況調査」では、病気休職者等の人数が公表されている。「病気休職者及び1カ月以上の病気休暇取得者」について、年代別の人数が確認できる2016年度から2024年度までのデータを整理し、下の図表2にまとめた。
精神疾患による病気休職・休暇の人数を在職者数で除した数値の推移を見ると、2016年時点では、20代から50代以上の間にほとんど差がない。ところが徐々に若い世代の数値が高くなっていき、2024年度には20代がもっとも高く(2.21%)、50代(1.10%)の約2倍に達している。

調査方法・対象等の違いにより単純な比較はできないが、地方公務員においても2024年度の「精神及び行動の障害による長期病休者」は、20代以下が50代より1.5倍高い(※1)。精神疾患により若手が職場を離脱するのは、公立校教員限定の問題ではない。だが、一方で20代教員の離職に目を向けることで、教師不足に歯止めをかけられる可能性がある。
※1 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会「令和7年地方公務員健康状況等の現況」

■子供対応で心が折れるのではない
若手にとっては、長時間労働の負荷も大きいが、もう一つ、保護者対応の負荷も大きい。自分より年齢が上の保護者から投げかけられる厳しい言葉で心が折れてしまう。教師は、子供の対応で挫折するというよりも、保護者の対応で挫折するのだ。
じつはいま、文科省においても保護者対応が重要な検討課題に浮上してきている。学校がさまざまな業務を背負わされているなか、その業務の範囲や優先順位を明確化した「学校と教師の業務の3分類」(学校以外が担うべき業務/教師以外が積極的に参画すべき業務/教師の業務だが負担軽減を促進すべき業務)と称される整理が、2025年9月に提示されたところである(図表3)。

これは2019年に策定された「学校・教師が担う業務に係る3分類」がもとになっている。当時14項目から構成されていた3分類は、今回19項目へと項目が追加された。
その追加された項目の一つが「保護者等からの過剰な苦情や不当な要求等の学校では対応が困難な事案への対応」である。保護者から学校への苦情に対して、教育委員会に対応窓口を設置する、学校が弁護士等の専門家を活用できるようにするなどの案が示された。
■東京都の保護者対応がスゴい
東京都は、2024年10月に全国ではじめて、カスタマー・ハラスメント防止条例を制定した。それをきっかけに、都教育委員会は2025年4月に「学校と家庭・地域とのより良好な関係づくりに係る有識者会議」を立ち上げ、保護者対応のあり方を検討した。
都教委が4月に、都内の公立校の全教職員約8万人を対象に実施したアンケート調査がある。1万2137人から回答が得られた。過去5年間に外部との良好な関係づくりに支障が生じたことのある教職員は22.4%(2703人/1万2093人)で、うち87.8%(2367人/2696人)は保護者が相手であった(※2)。
都教委は、来校者向けにカスハラ防止ポスターを作成。「教職員への行き過ぎた行為は、ご遠慮ください」として、「暴言・大声」「長時間の拘束」「過度な要求」「威嚇」などが例示されている。各教員や各学校が言いにくいことを、教育委員会が代弁してくれたかたちだ。

保護者からの圧力を問題視するのは、お客様に文句をぶつけるようなものである。だからこそ、これまで表立っての保護者批判は、タブーであった。そうこうしているうちに、学校教育はいま、着々と崩壊の道をたどっている。現場からの叫びに、耳を傾けなければならない。
※2 東京都「学校と家庭・地域とのより良好な関係づくりに係る有識者会議(令和7年6月17日 第2回会議資料)」
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内田 良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授
専門は教育社会学。博士(教育学)。学校リスク(校則、スポーツ傷害、いじめ、体罰、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究を行っている。また啓発活動として、教員研修等の場においての情報提供も。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。
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(名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授 内田 良)
