「ストーカー加害者をGPS装着を」自民提言に賛否、“監視社会化”のリスクと被害者保護の課題
禁止命令が出たストーカー加害者にGPS端末を装着させる──。
自民党の調査会がまとめた提言案が報じられ、SNSなどで大きな注目を集めている。
共同通信によると、提言案では、加害者が被害者に接近した際、被害者側に通知する仕組みを想定。さらに、加害者向けの治療やカウンセリングについても、受診の義務化を盛り込んだ。
ストーカー事件では、警察が介入した後も重大事件に発展するケースが後を絶たず、「被害者保護を強化すべきだ」という声は根強い。
一方で、GPSによる常時監視や治療の義務化については、「どこまで許されるのか」「加害者の人権との関係はどう整理されるのか」といった懸念も浮上している。
こうした制度は法的にどこまで可能なのか。導入にあたって、どのような課題があるのか。元検察官で、刑事事件に詳しい荒木樹弁護士に聞いた。
●GPS端末、欧米や韓国で一定の評価
──ストーカー加害者にGPS端末を装着させることで、被害防止の効果は期待できるのでしょうか。
運用次第では一定の抑止効果と早期察知効果が期待できます。
加害者が被害者の生活圏に近づいた時点で、警察や被害者側に通知されれば、事前に保護措置や職務質問に踏み切ることができるからです。
実際、欧米や韓国では、ストーカーやDV加害者に対し、保釈条件や保護観察の一環として電子監視を導入している例があります。再接近を抑制する手段として、一定の評価を得られているようです。
もっとも、GPSは「魔法の杖」ではありません。
機器を破壊・取り外された場合の限界、通知を受ける被害者側の不安増幅、警察がアラートに十分対応できる体制が整っているかなど、課題は少なくありません。
こうした前提条件を欠いたまま制度だけ導入すれば、「監視しているだけ」で実効性のない制度だけが先行する危険もあります。
●プライバシー侵害の危険性…どうする?
──位置情報を継続的に把握する制度には、法的な問題もありそうです。
こうした制度は、憲法上のプライバシー権との関係を避けて通れません。
日本国憲法13条や35条が保障するプライバシー権や私生活の平穏との関係で、行動履歴を常時・網羅的に把握することが、どこまで許されるのかが問題となります。
最高裁大法廷は2017年、車両に取り付けたGPS端末によって継続的に位置情報を取得する捜査について、「個人の行動を継続的・網羅的に把握しうる」と指摘。プライバシー侵害の危険性が高いとして、原則として裁判所の令状が必要だとの判断を示しました。
今回の構想は、捜査機関が密かに追跡する「GPS捜査」とは異なり、禁止命令を受けた加害者を対象に、公然と監視する制度です。目的も、被害者保護や再犯防止にあります。
ただし、継続的に位置情報を把握し、行動を制限する点では、基本的人権を大きく制約する側面があり、憲法違反の疑いが生じる可能性もあります。
自由刑(人の身体の自由を奪う刑罰)に代わる、新たな「監視・拘束措置」に近い性質を持つ以上、対象者の範囲や期間、必要性について慎重な限定がなければ、過剰な権利制約として憲法上の問題が生じかねません。
●治療・カウンセリングを制度に組み込む
──被害者保護の必要性がある一方、GPS監視については、どのような歯止めが必要でしょうか。
制度設計上の歯止めとしては、少なくとも次の点が不可欠だと考えます。
まず、対象者の限定です。
「禁止命令にも関わらず、再犯・重大犯行の具体的危険が認められる者」に限定する必要があります。
また、装着の必要性や期間延長の可否については、裁判所による司法判断を経る仕組みが求められます。
さらに、位置情報の利用目的を厳格に限定し、被害者保護や接近警告以外には使用しないこと、データの保存期間やアクセス権限の範囲を法律で明記する必要があります。
治療・カウンセリング義務化についても、単なる「通院命令」ではなく、専門職による個別アセスメントに基づくことが重要です。
そのうえで、履行状況のフィードバックを踏まえ、監視レベルや期間を見直す「出口戦略」を制度内に組み込む必要があります。
こうしたGPSによる強い監視措置は、先ほど述べた最高裁判所判決の趣旨からしても、プライバシー侵害の程度が大きい以上、例外的な高危険事案に限定されるべきでしょう。
通報から初動対応までの運用改善、接近禁止命令の活用と違反時の機動的な逮捕、被害者支援体制の拡充といった従来型の対策を充実させたうえで、「それでもなお、防ぎきれない高リスク事案に限って用いる」という位置付けが必要だと考えます。
【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com

