新宿タワマン殺人事件の犯行動機「ライブ配信を見て怒りが湧いた」【裁判傍聴記(後編)】
1600万円貢いだ52歳男性が起こした新宿タワマン殺人事件の生々しい一部始終【裁判傍聴記】から続く
お互いの連絡が途絶えて2年。
和久井被告は配送業で月20~30万円の収入を得ていたが、借金の支払いは月25万円で、ほぼ収入と同じ。完済のめどは立っていなかった。同居する両親には水道光熱費しか払っていなかったという。
そんな時、Aさんがインスタグラムやツイッターを再開。和久井被告の悪口を言い始めた。本名を出して「ストーカーにあった」「パクられた」と。
和久井被告は犯行当日のことを淡々と話す。
「ライブ配信を見て、怒りが湧いてきて、腹が立った。借金の支払いに追われ、2年も経ってまだ自分の悪口を言ってると、気持ちが爆発してしまった。マンションまで行き、クルマの中で待っていた。絶対に払わせてやるという気持ち。取られたものを取り返すだけ。自宅からネットバンキングで送金させようと。
Aさんがコンビニから出てきたので、ナイフを取り出して『騒ぐな』と言った。脅してでもお金の話をしようと。傷つけるつもりはなかった。Aさんは大声で『助けて』と走って逃げた。転んだAさんを人けのないところへ引きずっていった。人が集まってきて、パニック状態に。
彼女と話し合いたかったけれど、『助けて、助けて』ばかり。『こいつに1600万円だまし取られて人生狂わされたんだ。邪魔するな』と周囲の人にもナイフを振り上げた」
防犯カメラ映像では少なくとも15回刃物を動かす様子が映っていて、Aさんの傷もそれ以上。しかし、映像を見ても、和久井被告はほとんど思い出せないという。
検察官が和久井被告を追及する。
「お金を返してもらおうとして行ったのですか?」
「はい」
「言い訳に過ぎなくて、ナイフを使って危害を加えることがメーンの目的だったのでは?」
「それはありません」
「Aさんははっきり結婚という言葉を口にしたんですか?」
「はい」
「26歳差があったのに、結婚してくれると思っていたのですか?」
「はい。以前LINEでそれ以上年上の人と付き合ったことがあると言っていたので」
被害者参加弁護人も和久井被告に質問した。
「これまで一度も謝罪の言葉を口にしていないのですが、謝罪の気持ちがないということですか?」
「謝罪する機会がなかったからです」
「謝罪の手紙を書くとか」
「誰にですか?」
「ご遺族に対して慰謝料を支払うとか」
「お金はまったくないので」
「考えてないということですか?」
和久井被告は小さな声で何かつぶやいたが、よく聞き取れなかった。
弁護士からの「どうすればよかったと思いますか?」という質問には、「もう一度警察に、相談ではなく詐欺として被害届を出せばよかったと。警察を信用してなかったから。2年間、借金に追われる生活だった。債務整理も考えたが、Aさんからお金を返してもらえれば返せるので」と。弁護士は「絶望の反動が被害者に向かった」と主張した。
質問への受け答えは、終始淡々とした口調だった。
他人の犯行について話しているような印象さえ受けた。
反省や謝罪の言葉は一切なし
2025年7月14日、一審での判決は懲役15年(検察の求刑は懲役17年)。裁判長は判決理由を説明した。
「借金返済の生活をしていく中で恨みの気持ちが増していた。鋭い刃物で、少なくとも15回以上刺していて、殺意は強固。Aさんは自分への気持ちを利用して、被告人を経済的に困窮させた。ライブ配信も適切なものではなかった。被害者に落ち度がまったくないとは言えない。
しかし被告人は、正当な法的手段を取るべきだったが、それをしなかった。殺人を正当化することはできないし、それらの事情を大きく汲むことはできない。本件に関する反省は見られず、現時点で謝罪の言葉も認められない」
2025年11月26日、東京高裁での控訴審公判。
法廷の和久井被告は終始無表情で、印象はほとんど変わらなかった。
一審判決5か月後の2025年12月17日、控訴審の判決が言い渡された。
希望者が傍聴席の3倍以上あり、抽選にはずれてしまったが、傍聴した人に話を聞くことができた。
判決は控訴棄却。3人の裁判官は弁護側の主張を退けた。
和久井被告は前を向いて表情を変えずに判決を聞いていたという。これまで公判を傍聴していて、その態度は十分に予想できた。
裁判を通して、和久井被告は終始、ふてくされて怒っている印象だった。反省や謝罪の言葉は一切口にせず、開き直っているようにも見えた。「罪を認めて償うのだから、それでいいだろう」とでも言いたそうだった。
確かに被害者の言動には不誠実な部分も多い。SNSなどでもかなり批判されていた。
「結婚するから1600万円出せというのは明らかに結婚詐欺」「被告人に同情する」「金を返せというのは当たり前。つきまといでも何でもない」などと。
和久井被告が「許せない」と憤る気持ちも理解できる。
しかし殺害されても仕方がない人間など、この世の中に一人もいない。そして殺人以外の解決方法を模索することもできたはずだ。
Aさんの生命は永久に戻ってこない。殺人を犯しても「罪を認めて十数年刑務所に入れば、それで償ったことになる」と考えるのは、明らかに間違っている――。
文/青山泰 内外タイムス
