86歳男性と88歳女性が無免許運転で起訴…「免許返納しても」「免許更新できなくても」
運転だめだな、つまり、事故を起こしかねないと認識しながら運転したことになる。未必の故意による通り魔的な無差別殺傷事件、そうともいえるのではないか。
日本は世界一の超高齢社会だという。刑事裁判の法廷へ高齢者はよく出てくる。万引き、モンスター・クレイマー、老老介護の果ての殺人など。そんななか最近、高齢者の無免許運転を2件傍聴した。罪名は「道路交通法違反」。2件とも報道はないようだ。ここにレポートしよう。
■86歳男性、免許証を返納したのに
被告人は、作業服のようなジャケットを着て、スキンヘッド。検察官の冒頭陳述によれば、中学を卒業して漁師になったという。「船舶安全法違反」で非行歴あり。20歳のころに「窃盗」の前科あり。そんな昔のことまで検察は記録しており、裁判になれば出てくるのだ。
漁師から会社員になり、現在は無職。1年半ほど前、85歳のとき、運転免許を自主返納した。そこまではよかった。ところが間もなく、また運転し始めた。ある朝、普通貨物(軽トラか)を運転して墓参りに。右折レーンを直進したのをパトカーに現認され無免許が発覚した。
長男が情状証人として出廷した。どこか頑固そうな年配男性だ。
弁護人「被告人の健康状態は?」
長男 「高齢で、いろいろ病気があります。糖尿病、高血圧、心臓も」
弁護人「認知症は?」
長男 「昨年、病院で先生から言われ、認知症を遅らす薬をもらってます」
検察官「お父さん、運転をやめない、どうしてですか?」
長男 「注意しても聞く人じゃない。いつもケンカになるだけで…」
裁判官「そうすると、ケンカが面倒くさいから放置したと?」
長男 「そうですね」
なんときっぱり正直な。そして被告人質問が始まった。「二度と運転しない」「もう運転したくない」と何度も言わせ、弁護人は5分間で、検察官は2分間で終えた。相場的に執行猶予付き懲役刑に決まっている。裁判は表面的な儀式といえる。 ※2025年6月1日から懲役と禁錮は「拘禁刑」になった。本件の犯行はそれより少し前だ。
裁判官はこう尋ねた。
裁判官「運転したい気持ちはあるんですか?」
被告人「(即座に)あります」
裁判官「あっ、あるんですか」
被告人は耳が遠くて質問をよく聴き取れなかったらしい。「ないです」と答え直した。求刑は懲役5月。直ちに判決が言い渡された。
裁判官「主文。被告人を懲役5月に処する。この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する」
認知症ぎみと診断され、嫌嫌ながら免許証を返納したが、やはりクルマは便利、運転したくなる、そんな感じだったのか。クルマの鍵は隠すと息子が証言していた。運転することがなくなり、行動範囲が狭まり、認知症は進行するかも、私は傍聴席でそう感じた。
■88歳女性、アクセルとブレーキを踏み間違え
被告人は、お洒落で小柄なお婆ちゃんだった。前科なし。運転免許は「更新できず失効」したという。なぜ?
75歳以上で、信号無視や携帯電話使用など事故につながりやすいとされる一定の違反歴があると、免許更新の前に「運転技能検査」が義務づけられる。100点満点のところ70点(二種免許は80点)で合格だ。被告人はその検査を受けたが…。
被告人「2回受け、落ちました」
1回目は0点、2回目は40点だったという。それで免許更新ができず、失効したのだ。技能にだいぶ問題があるらしい。検査の制度が機能したといえる。ところが間もなく、週に3回ほど運転するようになった。
