相手の気持ちを尊重しつつ、誘いを断るにはどうしたらいいか。感性リサーチ代表の黒川伊保子さん解説の書籍『失言図鑑』によると「何かを断るときに『大丈夫です』や『結構です』と言うのはNG。まずは厚意に対する感謝もセットで伝えるといい」という――。

※本稿は、失言研究所(編集)、黒川伊保子(解説)『よかれと思って言ったのに 実は人をモヤッとさせる 失言図鑑』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■相手の厚意を断りたいとき

*失言かも:「大丈夫です」

断りの意味の「大丈夫です」は、比較的最近使うようになった言い回しです。年配の人には伝わらないこともあるので、注意が必要。

「レジ袋はご利用ですか?」「大丈夫です(=いりません)」のように、断りの意味で「大丈夫です」を使うことがありますよね。実は、この「大丈夫です」は、比較的最近の言い回しです。もともと「大丈夫」には、「安心できる、しっかりしている」という意味がありますが、これがいつしか「配慮はいらない」=断りの文句へと変化。特に、対人関係の衝突をなるべく避けたい若い人が使うようになったようです。

そのため、年配の方には通じないことも。「もっとたくさん食べられる?」と聞かれ、「大丈夫です」と断ったつもりでも、「まだまだ食べられます」という肯定の意味で受けとられかねないのです。

断るなら「いいです」「いらないです」などとはっきりさせたほうが、コミュニケーションはスムーズにいきます。もちろん、厚意に対する感謝もセットで伝えてくださいね。

〈言うならこっち〉
いいです、ありがとうございます

■相手の厚意を断りたいとき

*失言かも:「けっこうです」

間違いではありませんが、「拒否」の意向が強く伝わり、思った以上に冷たく聞こえる言い方です。

「食べ物をすすめられたけど、もうお腹がいっぱい」「先輩が仕事を手伝うと言ってくれているけど、自分の力でやりたい」……そんなときの断り文句、「けっこうです」。

「いいです」や「大丈夫です」などと比べると丁寧で、ビジネスシーンにもふさわしく思えるフレーズですが、少し注意が必要です。「けっこうです」は、自分にそんなつもりはなくても、相手をピシャリと拒んでいる印象があり、必要以上に冷たく聞こえます。特に、目上の人には使わないほうがいいでしょう。

そして、おかわりや、仕事のサポートそのものは断るにしても、「お気持ちだけいただきます」「お気づかいありがとうございます」と、相手の厚意には感謝を示すのが礼儀です。

〈言うならこっち〉
お気持ちだけいただきます

■相手の厚意を受け入れるとき

*失言かも:「恐れ入ります」

他人行儀すぎると、相手はさみしく感じます。せっかくの厚意には、人間味のある言葉で感謝の気持ちを示しましょう。

「恐れ入ります」は、相手に負担をかけることに対して、感謝や敬意を示す言葉です。メールでは、「恐れ入りますが、○日までにご返信をいただけると幸いです」のように、お願いごとの前のクッション言葉としてよく使いますよね。

しかし、あまり多用するのは考えもの。また、自分のために何かをしてくれることになった相手に対して「恐れ入ります」と言うのは、少し他人行儀な印象も受けます。

せっかく感謝の気持ちを伝えるなら、「お言葉に甘えます」のような人間味のあるフレーズのほうが、相手からの印象もよくなります。メールや電話の冒頭で「お忙しいところ恐れ入ります」と伝えるのも不要です。相手が忙しいとわかっているなら、なおさら単刀直入に本題に入りましょう。

〈言うならこっち〉
お言葉に甘えます

謝罪されたとき

*失言かも:「気にしないでください」

どちらに非があるのかあやふやなときは、“お互いさま感”を出すのが丸く収めるコツ。くれぐれも“謝ったもん負け”にはしないで。

「気にしないでください」は、相手の謝罪を受け入れることを示し、おおらかさを感じさせる言葉です。しかし、逆に、これを言うと「おわびした側が悪い」ことが確定します。たとえば、待ち合わせでお互いが異なる時間を思い込み、すれ違いが生じたとき。

口頭での約束だと証拠もなく、どちらが正しかったのかわかりません。このとき、どちらかが「すみません」と謝り、それに対して「気にしないでください」と返すと、その途端、先に謝った側が間違っていたことになってしまうのです。謝った側はモヤモヤ必至です。

どちらが正解だったかは関係ありません。「こちらも確認不足ですみません」「私も遅れるときありますので」のように“お互いさま感”を出すと、いい着地につながります。

〈言うならこっち〉
私のほうこそすみません

■依頼を断りたいとき

*失言かも:「今は忙しいです」

オファーを断る際は、その「断り方」が何より重要です。まずは依頼への感謝を示し、実現のための具体的な方策を伝えましょう。

上司や先輩、取引先から新しい仕事をお願いされたけど、手いっぱいで受けられないというとき、「今は忙しいです」という断り方はやめたほうがいいかも。忙しいのは事実だとしても、検討の余地もない言い方が強い拒絶のように聞こえ、相手によっては「二度と頼まないわ」と思われる可能性も。

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まずは、依頼しようとしてくれたことに対して、「ありがたい」「うれしい」という気持ちを伝えましょう。そのうえで、「来月ならできます」「今抱えている○○が済んだらとりかかれます」のように、いつならできるのかを具体的に伝えるのがおすすめです。

頼む側は、「それまで待とう」「今回は別の人にお願いするけど、また機会があったら依頼しよう」という気持ちになります。

〈言うならこっち〉
ありがたいお話なんですが、来月ならできます

■提案したいとき

*失言かも:「嫌いなので、ダメなので」

「好き/嫌い」は人それぞれで、そこに優劣はありません。お互いの嗜好を尊重し合える関係性が理想です。

失言研究所(編集)、黒川伊保子(解説)『よかれと思って言ったのに 実は人をモヤッとさせる 失言図鑑』(サンクチュアリ出版)

人にはさまざまな好き嫌いがあります。食べ物はもちろん、タバコお酒が嫌いという人、野球は絶対に見ないという人、いかなるギャンブルも絶対に受けつけないという人もいるでしょう。

でも、どんなジャンルのものであっても、「嫌い」「ダメ」と一刀両断するのはあまりよくありません。なぜなら、それらを好きな人が嫌な気持ちになるから。好きなものを否定されると、人は悲しくなります。

苦手なものを避けてほしいときは、あくまでも自分が気を使わせる側だということを意識して、「タバコがちょっと苦手なので、禁煙のお部屋だとありがたいな」「競馬はちょっと苦手なので、その時間は別行動にしよう」などと控えめにお願いするのが◎。苦手だというあなたのことも尊重してもらえるでしょう。

〈言うならこっち〉
ちょっと苦手なので

■依頼を断りたいとき

*失言かも:「無理です」

オファーを断られるのは、それだけでつらいこと。せめて伝え方だけでもやわらかくするのが、大人の気づかいです。

なんらかのお願いごとや、お誘いを断るとき。期待を持たせることなく、きっぱり断るのがやさしさと言えなくもないですが、それでも「無理です」というのはキツい言い方です。子ども同士は無邪気に「今日学校終わったら遊べる?」「無理ー」というやりとりをしていますが、無邪気でいるのは子どものうちだけにしてくださいね。

〈言うならこっち〉
ごめんなさい、難しいです

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失言研究所(しつげんけんきゅうじょ)
話し方や伝え方に関する数々のベストセラー書籍を手がけてきた、ライターや編集者ら“言葉のプロ”の研究員によって構成。これまでに300人以上に取材をし、どんなシチュエーションで失言が生まれ、それがどのように人をモヤッとさせるのかを徹底的にリサーチ。「言い換えるならどんな言葉が適切か」までを考え、コミュニケーションのブラッシュアップに余念がない。日常に潜む失言を誰かが見つけてくるたびに議論が止まらなくなり、会議が長引きがちなのが課題。研究員は随時募集中。
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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。
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(失言研究所、脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)