ハンドソープ“洗わずに詰め替え”はNG? 敗血症招く場合も…メーカーに聞いた正しいボトルの管理ルール
だんだん冬に近づくこの季節、感染症対策に欠かせないのがハンドソープだ。容器が空になったら、経済的でゴミも少なく済む「詰め替え品」を活用する人も多い。
ただし、この「詰め替え」を誤った方法で行うと、菌が増殖してハンドソープが汚染されてしまう可能性があるという。
例えば、使用済みのハンドソープボトルを洗わずに“詰め替え品を継ぎ足し”するのはNG。詰め替え時に「緑膿菌」「セラチア菌」などの菌が混入・繁殖する場合があるのだという。
この件に関して、ハンドソープメーカーのサラヤ バイオケミカル研究所の研究員に話を聞いた。
「緑膿菌とは、弱い病原体の日和見感染菌のひとつです。健常者に対して通常は無害ですが、免疫力が低く感染しやすい状態の人には、尿路感染症や呼吸器感染症、創感染症、敗血症といった重篤な症状を引き起こします。手洗い場などの水回りは、湿った場所を好む緑膿菌が増殖しやすい環境です」(サラヤ バイオケミカル研究所 以下同)
実際に、日和見感染菌のひとつであるセラチア菌による感染事例も報告されている。
「ハンドソープの容器を介した院内感染例はいくつか報告されています。病院においてセラチア菌で汚染された石けんによる医療関連の感染が発生したため、感染源の調査対象のひとつとして手洗い剤を調べたところ、ポンプ式の石けんボトルからセラチア菌が検出されました。このボトルを使って医療従事者が手洗いを行ったところ、手指の汚染の程度が54倍になったという報告があります※」
これらの菌は抗菌薬に対して自然耐性を示す傾向が強いとされる。ハンドソープは殺菌・除菌効果が高いイメージがあるが、その中で増殖してしまうというのは驚きだ。
■正しい詰め替え方法 ポイントは「ポンプの中まで洗浄」「乾燥」
具体的には、どのようなことに気をつけて詰め替えればよいのだろうか。
「手洗い石けん液をそのまま継ぎ足さず、詰め替える前に、都度容器を洗うこと。これは、手洗い石けん液を衛生的に使用する上で重要です。洗った後にしっかり乾燥させると、菌の混入のリスクをより低減することができます」
同じく家庭用ハンドソープメーカーの花王の担当者も、詰め替えについて以下のように回答している。
「清潔に使うために、詰め替え時は毎回ボトルの中とポンプ部分を水道水で洗い、どちらもよく乾かしてください。本体だけでなく、ポンプ部分もしっかり洗うことが大切です。ポンプは水道水で洗ったら逆さまにしてヘッドを押し、エアタンク内の液をすべて出し切ってから乾燥させるようにしましょう。また、同じ商品でも異なった製造番号のものが混ざり合うと品質を損なう事があるため、使い切る前の継ぎ足しはしないでください」(花王担当者)
ハンドソープの汚染を防ぐための詰め替え作業は、少々手間がかかる。そのため、不特定多数の人が利用する場所では“詰め替えそのものをしない”場合も多いのだという。
「医療施設では、ディスポーザブル容器(使い捨て式の容器)がよく使われています。詰め替えによる汚染リスクを減らすだけでなく、作業効率も向上させることができるためです。
ディスポーサブル容器の他に、衛生的に使用するための方法として、ノータッチ式で吐出できるタイプのディスペンサーが使われることもあります。これは、容器に触れることによる汚染リスクを下げることができてより衛生的です」(サラヤ バイオケミカル研究所 以下同)
また、同社の担当者は原液タイプの液体ハンドソープを泡で吐出するタイプの容器で使うために水で薄めて使用するなどについても「やめてほしい使い方」だと指摘する。
■洗うのが手間なら無理せず「ボトルタイプ」を選ぶのもアリ
緑膿菌やセラチア菌は、極度に心配する必要はないものの、高齢者や手術後の人など、免疫力が低下している場合に感染の危険性が高まる。
ハンドソープをきちんと洗って乾かすことが面倒と感じられたり、免疫力が下がっている高齢者などがいる家庭は、安全のために詰め替えの必要がないボトルタイプを選ぶという選択肢もある。
「詰め替えの必要がないボトルタイプも、必要に応じて活用してください。詰め替え式に比べて、汚染のリスクの減少、誤使用のリスク低減、詰め替え作業による手間と時間削減などのメリットがあります。
一方で、詰め替え液にも、低コスト、使用後容器のごみ削減などといったメリットがあります。詰め替え式も併用しつつ、定期的に買い替えるなどご家庭のニーズに応じて選ぶことをおすすめします」
今冬は昨年に引き続き、インフルエンザの大流行も予想されている。寒さが本格化する前に、今一度、正しいボトルの洗い方と管理方法を見直そう。
※Sartor C他;Nosocomial Serratia marcescens Infections Associated With Extrinsic Contamination of A Liquid Nonmedicated Soap. (非薬用液体石けん液の汚染が関係したセラチア・マルセッセンスによる院内感染).Infect Control Hosp Epidemiol Vol.21 No.3,2000より