相続登記を司法書士に依頼する場合の報酬総額の相場はいくらくらいなのでしょうか (c)Getty Images

相続登記には登録免許税や書類取得費のほかに、司法書士に依頼する場合は司法書士報酬がかかるため、費用相場をあらかじめ知っておくと安心です。相続登記にかかる費用や安く抑えるコツを司法書士が詳しく解説します。

1. 相続登記の司法書士報酬は高すぎる?

不動産の所有者が亡くなった際、その不動産の名義を相続人に変更する相続登記を司法書士に依頼すると、当然に司法書士報酬がかかります。相続登記の司法書士報酬はどのように決められているのか、どのぐらいの報酬が必要となるのか、ポイントを挙げながら説明します。

1-1. 司法書士報酬は自由化されている

2003年に全国一律だった司法書士の報酬基準が撤廃され、それぞれの司法書士が自由に報酬基準を定められるようになりました。

事務所によって報酬の額は異なるため、依頼する前にホームページや問い合わせフォームなどからあらかじめ確認することが重要です。

1-2. 相続登記の司法書士報酬の相場は5万~15万円

相続登記を司法書士に依頼した場合の報酬は、相場としておよそ10万円前後になるケースが一般的です。ただし、依頼する範囲によっては、5万円前後と安くなるケースもありますし、複雑なケースであれば15万円を超えることもあります。報酬の相場には地域差もあります。 

司法書士の報酬は、たとえば所有権移転登記(登記申請代理分)4万円、遺産分割協議書作成報酬2万5000円、相続関係説明図作成1万5000円、相続人調査(戸籍謄本取得代行)2万円といったように、どの事務所もいくつかの項目を設けており、作業項目ごとに加算していくかたちをとっています。 

上記の例で考えると、所有権移転登記から遺産分割協議書の作成、相続関係説明図の作成、相続人調査を依頼した場合は、4万円+2万5000円+1万5000円+2万円で、合計10万円(+消費税)となります。これに登録免許税などの実費分がプラスされたものが最終的な請求額です。

このように、司法書士の報酬は項目ごとに金額が設定されているケースがほとんどです。「不動産価格の何%」というように、相続登記の対象となる物件の額によって変動する報酬規定を設けている事務所は非常に少ないので、複雑なケースでない限りはそれほど高額にならないと考えてよいでしょう。

1-3. 司法書士報酬以外にも費用がかかる

司法書士に相続登記を依頼した際に請求される費用は、司法書士報酬だけではありません。

請求額には「司法書士報酬」と「実費」が含まれています。実費は「登録免許税」「戸籍謄本等の取得実費」「その他の実費」に分けられ、司法書士に依頼せず自分で相続登記をした場合でも必ずかかる費用です。以下、一つずつ説明していきます。

【登記免許税】
「登記免許税」の納付方法はいくつかありますが、登記申請の際に貼付する収入印紙代とイメージするとよいでしょう。相続登記の場合の登録免許税率は、固定資産納税通知書に記載されている不動産評価額に1000分の4(0.4%)をかけた額です。

たとえば、固定資産納税通知書に記載されている不動産評価額が「土地865万4325円、建物425万3652円」だとします。これを合算すると、865万4325円+425万3652円=1290万7977円となり、1000円未満を切り捨てた1290万7000円が課税価格です。そこに税率の1000分の4をかけると、5万1628円となります。この額の100円未満を切り捨てた「5万1600円」が、登録免許税として相続登記の申請時に納める額です。

ただし、土地の場合は評価額が100万円以下であれば登録免許税が非課税となります。手元に固定資産納税通知書があれば、一度計算してみてください。登録免許税は、自分で相続登記を申請しても、どの司法書士に依頼しても同額です。

【戸籍謄本等の取得実費】
相続登記をするには、相続関係を証明するために戸籍謄本を準備する必要があります。その取得手数料が「戸籍謄本等の取得実費」です。手数料は戸籍謄本が1通あたり450円、原戸籍謄本と除籍謄本が1通あたり750円です。

亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、原戸籍謄本、除籍謄本が必要になるため、必ず複数の謄本を取得することになります。相続関係が複雑でないケースでは、5000円前後に収まると想定しておくとよいでしょう。また、そのほかにも印鑑証明書や住民票(戸籍の附票)なども必要となります。

【その他実費】
「その他実費」は、交通費や戸籍謄本等を取り寄せる郵送費、登記事項証明書(登記簿謄本)の取得費用などの細かな実費を指します。

司法書士報酬は相続登記申請分の代理報酬を基本として、戸籍謄本等の取得を代行した場合の報酬、遺産分割協議書の作成報酬、相続関係説明図作成報酬など、依頼内容に応じて加算されます。

【関連】相続登記にかかる費用は? 司法書士報酬、必要書類の取得費用、税金を解説

2. 相続登記の司法書士報酬が高くなるケース

相場がおよそ決まっている相続登記の司法書士報酬ですが、以下のようなケースでは報酬額が加算されてやや高額になる場合があります。

相続人の人数が多い

相続する不動産の数が多い

数次相続が発生している

2-1. 相続人の数が多い

相続人が多い場合は、その分、取得する戸籍謄本などが増えます。また、戸籍謄本の取り寄せや相続人調査に時間がかかるため、「戸籍謄本等の取得実費」や「その他実費」が加算される場合があります。ただし、相続人が多い、戸籍の通数が多いといった理由だけでは、さほど高額にはならないケースがほとんどでしょう。

2-2. 相続する不動産の数が多い

不動産の数が多く、法務局の管轄がいくつかに分かれている場合は、一般的には管轄ごとに相続登記を申請する必要があります。その場合、複数回の申請代理分の報酬が発生するため、管轄法務局の数だけ費用が加算されます。

2-3. 数次相続が発生している

不動産の相続登記が完了する前に相続人が死亡し、さらなる相続が発生している状況を「数次相続(すうじそうぞく)」と言います。数次相続が発生しているケースでは、最初に亡くなった被相続人のみならず、そのあとに亡くなった相続人全員の出生から死亡までの戸籍調査が必要となります。相続人の数もそのぶん多くなるため、報酬額が加算されていく可能性があります。

また、数次相続のように相続人が多くなるケースでは、相続人同士が疎遠な関係になっている場合があります。そのままでは連絡をとる手段が限られるため、司法書士がほかの相続人の現住所を調査したうえで、手紙を送るなどして相続人同士が話し合えるようサポートをする場合があります。そのような複雑なケースでは、相続登記が完了するまでに長い期間を要する可能性もあり、それに応じて報酬額も加算されます。

【関連】

3. 司法書士報酬を安く抑える3つのポイント

相続登記をするための実費は必ずかかりますが、司法書士報酬については以下の3点に留意すれば安く抑えられるケースがあります。

無料相談を活用する

相見積もりをとり、料金体系がわかりやすい事務所を選ぶ

手続きの一部を自分でする

3-1. 無料相談を活用する

多くの司法書士事務所では、初回の相談を無料としています。また、各自治体や司法書士会が各地で無料相談を開催しています。これらの無料相談を利用して実際に司法書士に話を聞いてみると、自分で進められそうな手続きも見えてくるはずです。

なお、初回相談が無料の司法書士事務所は「相続会議」などのポータルサイトを活用して探すのがお勧めです。

3-2. 相見積もりをとり、料金体系がわかりやすい事務所を選ぶ

相談の際に依頼者が提示する情報に間違いがなければ、あとから状況が変わらない限り、最初に提示された見積もり額と大差ない請求額になります。つまり、最初の相談時にできるだけ具体的な資料や情報を提示しておけば、最終的に支払うべき総額がわかりやすくなります。

少しでも報酬を安く抑えたいのであれば、いくつかの事務所に同じ資料や情報を提示し、それぞれに見積もりを出してもらって比較するとよいでしょう。その際、先方が出してきた見積もり額が不明瞭で流動的である場合は、依頼について再考したほうがよいかもしれません。料金体系がわかりやすく、内訳を丁寧に説明してくれる司法書士事務所に依頼するのがお勧めです。

登録免許税はどこの事務所で手続きしても同額ですが、相談時にある程度、正確な費用総額を知りたい場合は、固定資産納税通知書の不動産評価額が記載されたページを持参し、司法書士に総額を試算してもらいましょう。

ただし、多くの場合は相談時点で集めるべき戸籍謄本の通数はわからないため、「戸籍謄本等の取得実費」や「その他実費」の額はある程度、流動的になります。

3-3. 手続きの一部を自分でする

司法書士に依頼する場合は、面倒な準備も含めて作業の大半を任せられる点が大きなメリットです。一方で、相続登記に必要な手続きのうち、自分でもできそうな部分を自分でやることによって、司法書士報酬の一部を節約できます。

たとえば、戸籍謄本などの収集は自分で行い、その他の手続きを司法書士に任せれば、報酬額を少し抑えることができるでしょう。事務所の報酬基準にもよるため一概には言えないものの、筆者がいくつか見てきた事務所のイメージで言うと、1万~2万円程度は抑えられます。

【関連】

4. 司法書士報酬が支払えないときの対処法

司法書士報酬を安く抑えてもなお、報酬の支払いが厳しい場合には、以下の方法を検討しましょう。

4-1. 分割払いや後払いができる事務所に依頼する

司法書士事務所によっては、登記申請前に登記費用を請求されるケースがあります。登記費用を後払いにすると、登録免許税などの実費を司法書士事務所が立て替えた状態になるため、持ち出し状態を避けるために登記申請前に支払いを求めるのです。

しかし、そのような方針の事務所でも、すぐにお金が用意できない場合に登記完了時まで支払いを待ってもらうようお願いできるところも少なくありません。また、どうしても一括での支払いが厳しい場合は、分割での支払いに対応してくれる事務所も多いでしょう。依頼する際にあらかじめ確認しておくと安心です。

4-2. ほかの相続人に負担してもらう

一般的には名義人となる相続人が登記費用を負担するケースが多いものの、特定の誰かが負担しなければならないという規定はありません。登記費用の支払いが厳しい場合は、ほかの相続人に全額あるいは一部の負担をお願いするなど、相続人同士で話し合うのも一つの方法です。

5. まとめ 相続登記は、まずは司法書士の話を聞くのがお勧め

相続登記には登記免許税や戸籍謄本等取得実費などの実費に加え、司法書士に依頼する場合は司法書士報酬がかかります。司法書士に依頼した場合の費用相場は5万~15万円です。

無料相談を活用して自分で対応できそうな部分があるかを見極めたり、複数の司法書士事務所に相見積もりを取ったりすることで費用を抑えられる可能性があります。また、分割払いや後払いに対応してもらえる司法書士事務所もあります。

提示してもらった報酬が高すぎると思った場合は、ほかの司法書士事務所のホームページや「相続会議」などのポータルサイトを見て、よりリーズナブルな報酬を設定している事務所を探してみましょう。

ただし、費用を抑えることを優先し、複雑なケースにもかかわらず自分で相続登記をしようとすると、多くの時間と労力を費やし、結局は頓挫してしまう可能性もあります。まずは無料相談などを利用して、司法書士の話を聞いてから判断するとよいでしょう。

(記事は2024年9月1日時点の情報に基づいています)