子どもの育ちに寄り添う(写真提供:Photo AC)

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特別支援教育の専門家で、500名以上の子どもの支援に携わる前田智行氏は、「実は私自身幼いころから問題行動が目立つ子どもでした」と言います。当事者であり支援のプロフェッショナルだからこそわかる、「今本当にすべきこと」とは?「子育ての突破口が見えた!」と共感・感謝の声が多数の著書『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』から一部を抜粋して紹介します。

【書影】500名以上の子どもの支援に関わってきた、特別支援教育の専門家 前田智行さん著書『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』

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発達障害・グレーゾーンの子どもたちに関わり始めたきっかけ

私はこれまで、子どもの「育ち」に寄り添いながら、小学校や放課後等デイサービスで働いてきました。

また、特別支援教育の専門家という形で、500名以上の子どもの支援に関わりながら、支援に関する情報発信も多数行ってきました。

そもそも、なぜ私がこの発達障害・グレーゾーンの子どもたちに関わり始めたのか――。
それは、小学校で働き始めて3年目の出来事がきっかけです。

新学期を迎え、新しく担任するクラスが決まったとき、私は前任の先生から、「前田先生のクラスには要注意な子どもがいるから、これを読んでおいて」と、とある子どもの引き継ぎ書類を渡されました。

そこには、「忘れ物が多い、授業中に離席する、授業に参加しない、指示は無視する、他の子とトラブルを起こす、自閉症・ADHD(注意欠如・多動症)の診断があり、地域の療育 センターとつながっている……」などなど、多くのことが書かれていました。

そしていざ、対面してみると、驚きました。引き継ぎ書類とほぼ同様の行動がその子には見られたのですが、それ以上に、行動の一つひとつが、私自身の子どもの頃とそっくりだったからです。

私自身も、幼い頃から問題行動が目立つ子どもでした

残念ながら、大人になってもその傾向は残り続け、社会の中で、どのように生きていけばいいのか、悩む日が続いていました。

そんなとき、自分とそっくりな子どもの担任をすることになり、しかもその子は発達障害と診断されている……。

「私ももしかして、発達障害だったのか……?」このとき私は、これまでの点と線が一瞬でつながりました。

そして休日、病院に行き、検査や医師のヒアリングを受けたところ、医師からは発達障害(自閉症、ADHD)の可能性が高いことを伝えられ、アトモキセチン(ストラテラ)というADHDの薬を使って様子をみることが決まりました。

さらに医師からは、「今まで学校とか仕事で苦労したと思うけれど、それは性格の問題じゃなくて、発達障害のせいだからね」とも言われたのです。

これまで私は、人に迷惑をかけて生きてきたという自覚が強かったので、自分はダメ人間である、と長い間思っていました。

だからこそ、医師の言葉を聞いて、「私の人間性がダメだったわけじゃなかったんだな……と、つい泣いて喜んでしまったことを、今でもよく覚えています。

一方で、学校で怒られてばかりの子どもたちも、自分の背景を知らないで苦しんでいるのかもしれないと考え始めました。

そしてこれを機に、発達障害などの特別支援教育について真剣に学ぶ日々がスタートしたのです。

遊んで信頼関係ができると、次の発達に移動する

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、人への興味が薄いことが、発達の遅れにつながることがあります。そこで、大人はまず、「子どものやりたい遊びにつきあう」という意識が大切です。

大人が、自分の興味や関心にそって遊んでくれることで、子ども側には、「この人といると楽しい」というポジティブな気持ちが芽生えて、大人への信頼関係が築けるようになります。

子どものやりたい遊びにつきあうことで、子どもは、「この人と一緒に話したい」と感じるようになり、「この人に話しかけよう」「先生の話なら聞こう」と意識して、話す/聞く力が発達します。

また、「この人と一緒に遊びたい」と感じているので、大人から「これで遊ぼう!」と提案されると、「本当はこっちで遊びたいけど、先生と一緒に遊びたいから、誘いに乗ってあげよう」と、自分の考えに折り合いをつけて、相手に合わせて誘いに乗ってくれるようにもなります。

そして、ルールの説明を聞いたときでも、「この人と遊びたいから、ルールは守ろう」と規範意識が育ちます。

複数人で遊ぶ場合は、「この人を困らせたくないな」と感じて、マナーを守って参加してくれるようになります。

このように、子どもの提案に乗って遊ぶことで、1信頼関係の構築、2話す/聞く力、3我慢して折り合いをつける力、4ルール、マナーを守る力など、さまざまな力が発達していくのです。

まずは子どもの提案に10割乗って、一緒に遊んでみましょう

徐々に関係性ができてきたら、「今日はこれで遊んでみない?」と誘ってみましょう。誘いに乗ってくれるなら、関係性が出てきた証拠です。

ただし、ここで油断して、大人から提案ばかりしてしまうと、「この先生は面白くなくなった」と関係性が崩れ始めます。


子どもと一緒に遊ぶ(写真提供:Photo AC)

ASDは、自身の興味関心へのこだわりが強い傾向があります。こんなときは、半分以上、できれば 割は本人のやりたい遊びに没頭させてあげましょう。

もちろん、大人もその世界に入って遊ぶことが大切であり、「好き」という気持ちを生かすことは、すべての場面で重要です。ただし、他者と折り合いをつける社会性も、自立には必要です。

だからこそ、残りの3割は、大人から遊びを提案して、社会性を伸ばす機会をつくってあげることが必要です。

後ほどその具体的な方法についてはご紹介していきますが、時間をかけて関わることで、子どもは社会性を次第に育めるようになります。

※本稿は『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)の一部を再編集したものです。